「アメリカの新右翼 トランプを生み出した思想家たち」井上弘貴著(新潮選書)
「トランプを生み出した思想家たち」をサブタイトルとすることには迷いがあった、と著者はあとがきで述べている。むしろ、彼らはトランプが大統領になったことで表舞台に登場した思想家たちではないのか。つまり「トランプが生み出した思想家たち」ではないのだろうか、と。著者はさらに、彼らに思想と言えるものがあるのかどうかも怪しい。単なる妄想や思いつきに過ぎないと言われたら否定できない、といった趣旨も述べている。この本が紹介する「思想家たち」の多くは、ヨーロッパの国々が世界各地を植民地としていた時代を、本来あるべき姿と信じ、白人と非白人が共生の関係にはないことを、今、非白人たちに思い知らせておかないと取り返しがつかなくなる、と訴えているように感じた。非白人が移民として欧米に流入を続ける結果として、やがて白人が少数派に転じてしまうことを彼らは酷く怖れている。伝統的に白人が支配してきた欧米を異人種が移民という手法で乗っ取ろうとしていると信じ込み、そのことに民主党支持者を含む脇の甘いリベラリストたちは気づくべきだ、と主張している。そして彼らが担ぐ神輿のうえで、今、トランプは非白人の排斥に熱中しているように見える。ベネズエラの石油利権を武力で奪取するなど、白人の利益のためには手段を選ばない姿勢も見える。暗澹たる気持ちで読み進む中で、ある一文に目が釘付けになった。少し前までアメリカ政治の保守本流にいながら、今は反トランプの立ち位置故に右翼の片隅に追いやられているデヴィッド・フレンチが記した一文。「他の人間を尊敬の念をもって扱いつつ根本的な自由を求めて戦うことが弱さのあらわれであるとみなされる奇妙な時代に我々は生きている。他人を侮辱することにかけては最高峰であるトランプのなかに、基本的なまっとうさを軽視するという現下の事態のあらわれを見出さざるを得ない。ごみのように他人を扱うことは、より良いアメリカに至る道だろうか。」National Reviewから原文も引用する。We live in a strange time when fighting for fundamental liberties while treating other human beings respectfully is seen as a sign of weakness. One can’t help but see the outlines of a case for Trump, the insulter-in-chief, in the disdain for basic decency. Is treating other people like garbage the way to a better America?(David French, "Decency Is No Barrier to Justice or the Common Good")まさにこれが言いたかった、と思った。敬意と礼節、思いやり、そして愛。今、これを言うと嘲笑され、負け組の落胤を押される。そんな風潮が日本の政治家の一部にも見える。人類から優しさが消え去らないことをひたすら願う。