映画「名もなき者/A Complete Unknown」【感想】
原題は a complete unknown。邦題は「名もなき者」。フォークシンガーの枠、フォークソングの枠には収まりきらなかった天才ミュージシャン ボブ・ディランの生き様が描かれていた。封切り後最初の週末だというのに、映画館の座席は空いていた。すごい力作なのにもったいないな…と思った。上映時間は約2時間半と比較的長めながら、ボブ・ディランの楽曲がふんだんに盛り込まれているこの映画、長いと感じることはなかった。ディランの歌詞の意味するところやその深さにも改めて感動した。現実世界ではこの週末、ロシアの侵攻に苦しむウクライナの大統領がホワイトハウスを訪問し、アメリカの大統領と副大統領、そして政権に近い記者から寄ってたかって罵倒された。助けて欲しければ利権を寄こせ。お前らに選択肢はない。助けてもらっているくせに感謝が足りない。お前の態度はアメリカに対して無礼だ…。超大国アメリカのトップが小国のリーダーに浴びせかける罵詈雑言の数々には吐き気すら感じた。そして今日、映画の中にはボブ・ディランの「ライク・ア・ローリング・ストーン」が流れていた。路上の貧しい人たちを散々蔑んできた金持ちが今やすっかり落ちぶれて、ディランがそのかつての金持ちに「今の心境はどうだい?」と尋ねる。そういう歌。アメリカに落ちぶれて欲しいとは露ほども思わない。だけど今のアメリカ新政権の有頂天ぶりは度が過ぎているのではないだろうか。自分と自分の支持者、取り巻きだけを厚遇しようとする政治の先には腐敗と混乱しか見えない。ボブ・ディランは今、何を思っているのだろう。彼の言葉が聞きたい。彼の歌が聴きたい。今すぐに聴きたい。