2020/03/11(水)08:15
特別支援学校の事例2
特別支援学校の先生からのビジョントレーニング事例です。ありがとうございます!◆書字がむずかしいA君知的障害特別支援学校に通う小学部6年生男子の事例です。書字の時に文字がマスにおさまらず,はみだしたり,形を整えて書けなかったりすることが多く,特に線が交差したり斜めの線が含まれたりする文字の読み書きが苦手でした。絵本の文字を読む時には,それらの文字を飛ばすことが多く,読んでいる文字を教師が示すなどの支援を行ってきました。行動観察や視知覚認知チェック表,フロスティッグ視知覚検査,近見・遠見数字視写検査,MVPT-3などの視知覚機能アセスメントを行うと,眼球運動や視知覚認知の困難さがあり,それが読み書きの苦手さにつながっているのではないかと思われました。 ◆実態把握から・眼科検診では,眼科の疾病はなかった。 ・会話が一方的になることもあるが,言葉でのやりとりができる。・運動は全般的に苦手で,ボールを受けたり,タイミングよく蹴ったりすることは難しい。・文字を書いたり読んだりする時に,首を傾けることがある。・眼球運動では,追従性(ゆっくり動く対象をなめらかな視線で追いかける運動)及び跳躍性眼球運動(あるポイントから別のポイントに素早く視線を動かす運動)ともにぎこちなさが見られ,視標を見る時に頭が動いたり,追従が長く持続できなかったりした。・両眼視を苦手とし,眼を寄せる力が極端に弱かった。・数字視写検査では,エラーは少なかったが,100秒以上(6年生の基準値24~32秒)の時間がかかった。◆トレーニングの実際本校では,数名の自立活動担当者が配置され,児童生徒の実態に応じて,自立 活動の「時間における指導」が行われて います。A君の担任からの要望もあり,自立活動担当者である私がA君を抽出し,ビジョントレーニングを始めました。トレーニングを行う部屋は,周囲からの視覚刺激が少なく,静かな場所を設定し,集中しやすい環境づくりを心がけました。1回のトレーニングは20分で,週に2~3回,5ヶ月間で通算50回行いました。毎回のトレーニングは,見通しがもちやすいように決まった手順ですすめました。眼のマッサージや体操で心身をほぐしたり,私の眼の動きや鏡を見ることで眼球の動きを十分に意識させたりして,課題に取り組みました。①眼球運動のトレーニング視標によるトレーニング(追従性眼球運動及び跳躍性眼球運動,輻そう,開散について,両眼で頭を動かさないようにして,両眼で視標を追うようにしました。) ひらがな探し,数字読み,ナンバータッチなど②視知覚認知のトレーニング点むすび,立体パズルなど③眼と手の協応性のトレーニング図1 書字の変化(6月→11月)はさみ,ボール遊びなど④書字のトレーニング 書字では粘土で文字を作ったり,視覚的にわかりやすい教材を用いたりするなど,形を捉えやすくしてから行いました。◆結果 継続的な視標によるトレーニングにより,追従性眼球運動及び跳躍性眼球運動や輻そう,開散運動に向上が見られました。視標を追う眼球の動きがスムーズになり,頭を動かすことがほとんどなくなりました。改めて行った各種アセスメントでも機能向上が確認されました。書字では,手本をよく見て書くようになってきました。文字のバランスがよくなり,筆順や線の交差等の細かい部分にも注意が向くようになりました。また,筆圧もしっかりとし,正しい筆順で自分の名前を漢字で書けるようになりました。この結果から,ビジョントレーニングは,特別支援学校の児童生徒を対象にした場合にも,眼球運動や視知覚認知の機能向上につながり,読字及び書字の問題の改善に有効であると思われます。