ハーンのエルガー
ヒラリー・ハーンのエルガー、ヴァイオリン協奏曲が美しい。今週のお勧めにもアップしておいたが、実にしばらくぶりに聴くこの曲の秀演の誕生だ。 私がエルガーの曲を聴くようになったのは25歳も過ぎた頃だったと思う。あっという間にその深い精神性、美しくも哀しいメロディーの数々に酔い、虜になってしまった。もしもっと若い時に聴くことができたなら、確実に人生が変わっていたのではないかと感じたほどだ。 大英帝国終焉時のノスタルジーと気品(気位が高すぎるともいうが)に溢れたエルガーの作品はなぜか日本ではあまり演奏されず、音楽書などでも扱いは不当に少ない。 けれども、クラシック音楽の中心に位置するドイツ系作品のほの暗くて手段を選ばない、聴衆に「打撃的な」音造りとは全く異なる、人間に対する深い慈しみが滲み出るようなエルガーの音楽は、クラシックの地平線を限りなく拡げてくれる素晴らしい素材なのだ。 今回のハーンの演奏は25歳とは思えない、堂々として風格のあるもの。エルガーに才気走った演奏は似合わない。彼女は完全に曲の性格を理解し、一音一音を丁寧に紡いでいる。デイヴィスの指揮とロンドン交響楽団もゆったりとしてソリストを引き立たせ、美しい音を聴かせてくれる。録音も素晴らしい。一人でも多くの人に聴いていただきたい演奏だと思う。