虚空座標

2008/11/10(月)17:52

マグマに焼かれた深い赤

アフガニスタン・パキスタン(123)

先日、家の付近をほてほてと散歩しておりましたらば、 服や雑貨、そしてヒマラヤの岩塩ランプを売っていたお店が、 岩塩の量り売りを始めていました。 ふーん……と、のぞいてみると、なかなかお値打ち(たぶん)。 ピンク色の岩塩と、赤黒い岩塩を扱っています。 粉末状から細かいかけら、大きなかけらと大きさもいろいろ。 湿気ないよう大きなガラスの瓶に入れられた岩塩を眺めていた私は、 あることに目をつけました。 「すみませーん。少量でも売っていただけるんですか?」 「ピンク、赤それぞれ100gからになります」 「大きめのかけらが欲しいんですけど、選んでいいですか?」 「はい。こちらの容器にお好きなのをとって、こちらで計ってみてくださいね」 私としては親指と人差し指で作った輪くらいの塊でよかったんですが、 それでは100gにならなかったので、ころころ4つほどを選びました。 「これでお願いします」 「はい、○○○円になります。お風呂に入れられるんですか?」 「ええ、まあ……」 ……鉱物標本として欲しいなんて、 買おうと決心したのが、 赤黒い岩塩の中に、結晶面があるものがあったからだなんて……言えません(笑) 岩塩というと、ふつうは白、鉱物標本ではピンクだったり青いものが知られています。 しかし、「ヒマラヤ岩塩」と呼ばれるものは、白~ピンク~そして赤黒。 赤黒いものには、「ルビー・ソルト」の商品名がつけられています。 結晶面があり、うまくすると透けるかも……と選んだ塊を早速撮ってみると…… おお、見事に深紅! これが、湿気で溶けなければ、石としておもしろいものなんですが。 さて、この「ルビー・ソルト」興味を持って調べてみると、 とても「おもしろい&あやしい」。 おもしろい、というのはこの岩塩の成り立ちが、ヒマラヤ山脈誕生に関わっているから。 あやしい、というのはあちこちいろいろ商品説明を読んでいると、いろいろ怪しく矛盾した記述が見られるからです。 まず、おもしろいと思ったところをまとめてみると……、 ヒマラヤ岩塩の素は海水です。 ヒマラヤ山脈およびチベット高原は、 インドがユーラシア大陸にぶつかり、下に潜り込み、 ユーラシア大陸の縁を押し上げるような形で生まれました。 このとき、インドとユーラシアの間にあり、 インドの接近によって徐々に浅くなり、ついには消えてしまった海があります。 それは「テチス海」といい、かつてテチス海の底であった部分は、 インドとユーラシアの間に挟まれて押し出され、ヒマラヤ山脈の一部となりました。 つまり、ヒマラヤ山脈はかつての海底であった部分でできているということ。 ネパールで海の生き物であるアンモナイトの化石が取れるのはこのためです。 テチス海が消え、インドとユーラシアが激突する際、 海水もその地殻変動に巻き込まれ、その塩分が岩塩になった……というのです。 で、地下深くでマグマに熱せられ、硫黄などのミネラルを大量に取り込み、 結晶したのが、ルビー・ソルト(赤黒い岩塩)、 比較的上層部でできたのが、ピンク色の岩塩なのだというのです。 今回買った岩塩はパキスタン産とのこと。 赤黒い岩塩はネパール産の表記も見かけますが、 この場合は、同じ場所から、取れたものが、採掘の深さによって色が違うのだ……と考えた方が良さそうです。 だって、こんなに見事なグラデーション! 地下深くでとれたものほど、赤いだなんて、ちょっとできすぎです。 未だ熱い創世の炎の色……なんて。 さて、話は一転「あやしい」方へ。 ヒマラヤ岩塩は、ヒマラヤ山脈誕生に伴って、テチス海の海水が地面の中に取りこまれてできた。 まあ、これはいいでしょう。 厳密に言うと細かい部分で違っているかもしれませんが、おおざっぱには正しそうです。 で、「ヒマラヤ岩塩」の説明書きをいろいろ拾っていくと ◆1:ヒマラヤ山脈の造山活動によって約4億年前に没したテチス海の天然岩塩 ◆2:ヒマラヤ岩塩は、地球のマグマの熱により何億年も焼かれ続けたため ◆3:3億8千万年前の埋蔵岩塩 ~マグマによる結晶~  ヒマラヤ産の岩塩の取れる場所は……(略)……インド亜大陸を載せたインド・プレートが北上を続けてユーラシア・プレートに衝突し、テチス海の海底であった地殻が両方のプレートに挟まれて、4千万年前以降に形成されました。 ◆4:パンゲア超大陸が3億8千万年前に分裂し、その一部であるインド大陸が……(略)……その地殻変動によって、土壌や海水がマグマの高温(1000度)で結晶化され堆積しました ◆5:マグマの熱で赤く変色したもので ◆6:約3億5000万年~8000万年前に海底が隆起したときにミネラル分が結晶化して形成された岩塩で、マグマの熱により数億年焼かれ続けた…… ◆7:ヒマラヤ山脈が隆起した際にマグマの熱で海の成分が一気に熱せられ結晶化したという…… ◆8:ヒマラヤ岩塩は、今から約40億年前に地球の地殻変動で海水が陸に閉じこめられ、水分が蒸発濃縮されて結晶化し、さらに長い年月をかけて堆積して3億8千万年前に岩塩層となったものです。 ◆9:推定8億年前は海の底だったヒマラヤ山脈は、パンゲア超大陸が約2億年前に大分裂し、その一部のインド大陸が……(略)……際前面にあったテチス海の堆積物を巻き込み隆起して出来たのがヒマラヤ・チベット高原です。そして、隆起したテチス海がマグマ熱により結晶した塩の化石が天然岩塩」です。 地質学説によると推定3億8千年前よりテチス海にあったマグマ熱により結晶しはじめ、衝突の際堆積物の中に埋蔵されて…… ……これくらいにしておきましょう。 ざっと拾っただけでほら、あやしい。 まず、ここに名前の出てくるパンゲア、テチス海、ヒマラヤ……のキーワードで、流れをざっとまとめてみます。 一番古いのは、パンゲア。 地球上の陸地がほぼ一カ所に固まっていた時の超大陸の名前です。 パンゲア大陸の誕生は約2億5000万年前。 しかし、この巨大な大陸は約2億年前から再び分裂を始め、 北のローラシア大陸、南のゴンドワナ大陸に分かれます。 ローラシアとゴンドワナの間の海がテチス海です。 このころ、ユーラシアは北のローラシアの一部(ややこしい……) インドはゴンドワナ大陸の一部でした。 その後、約1億年前~8000万年前くらいに、アフリカからインドが分離、 プレートの流れに乗ってテチス海を北上、 5000万年前~3500万年前にユーラシアに激突、ヒマラヤ山脈が誕生しました。 面倒ですが、ヒマラヤ岩塩の説明と見比べてみてください。 まず、◆1。4億年前にテチス海は、ありません。海はあってもテチス海と呼ばれていません。パンゲア大陸だってまだです。 ◆2。「マグマの熱により何億年も焼かれた」……このフレーズは、あちこちで見かけるんですが、謎です。 テチス海が陸地化したのは、5000万年前くらい。 どうみても「~億年前」は海水じゃぶじゃぶだったはず。ヒマラヤ山脈の影も形もないころ、ヒマラヤ岩塩はどこで、マグマにこんがり焼かれていたのか。 まあ、大陸を乗せたプレートが地中に潜り込む際、海水も一緒に引き込まれて地中深くで海水溜まりを作っている……という話もあるようですが、ヒマラヤ岩塩がそれだというのなら、「テチス海の……」という説明は間違いになります。 ヒマラヤ山脈誕生の仕組みを見ている限り、プレート引き込みによる海水溜まりが採掘可能な深さまで押し上げられることもなさそうです。 ◆3岩塩が4000万年前以降にできた、というのは賛成ですが、小見出しの3億8000年前というのが意味不明。古く見せたいからとしか思えません。 ◆4パンゲア超大陸が3億8千万年前に分裂……存在しないパンゲアが、どうやって分裂するのでしょう? ◆5マグマに焼かれたから赤いわけではないと思います。 ◆6約3億5000万年~8000万年前に海底が隆起したとき……岩塩が取れたヒマラヤ山脈は、どう古く見積もっても、8000年前は海底でした。 ◆7マグマの熱で海の成分が一気に熱せられ……何千万年単位でじっくりじわじわ隆起した山脈のどこの話でしょうか? ◆8これは、ヒマラヤ岩塩の話じゃないのでは。つっこむ気にもならない変な話です。 ◆9推定3億8千年前よりテチス海にあったマグマ熱により結晶しはじめ……パンゲアよりも古くから、まだ海水じゃぶじゃぶの海の底で、マグマの熱で岩塩が結晶化? それらしく書いていますが出てくる数字(年数)は、かなり意味不明なものばかり。その「地質学説」とやらを見てみたいものです。 ……岩塩の成り立ちに関する年数だけ拾ってもこの有様。 特に変なものばかりを拾ったのではなく、目についたものを簡単に集めたものなのに……。 そのほか、還元力だの、トルマリンばりの「マイナスイオン」だの。 いいのか、これで……。 それとも、私の理解が間違っているのでしょうか?

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