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2021年08月10日
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カテゴリ:邦画

​○「なずな」はなぜ「典道」を振り回したの?
○なぜ「永遠の別れ」なの?​​


​​●なずなの意味不明の行動には訳がある
■ドラマ・映画 レビュー■
岩井俊二の代表作的名作TVドラマ​​


打ち上げ花火、
下から見るか?
横から見るか?


Fireworks,
Should We See It from the Side or
the Bottom?

​​​

---------------------------------------------------------------------------------------------------
​​​​​■■■もくじ■■■

- INTRO -

- STORY -

1. 本作について


​​■2. 岩井俊二の映像詩的短編ドラマ版■
​『打ち上げ花火下から見るか?横から見るか?』​​​



■A. マニアックな本格志向の90年代■

■B. 映像作家岩井俊二■

■C. 無垢と危うさが同居する作家性■


■D. 物語と解説■
●なずなの意味不明の行動の意味を解説。

■E. バッドエンドの「A」の結末と
アンハッピーエンドの「B」の結末■


■F. 宮沢賢治『銀河鉄道の夜』がベースの物語■

■G. バッドエンドの「A」の結末■

■H. アンハッピーエンドの「B」の結末■


■3. ドキュメンタリー作品■
​​『少年たちは花火を横から見たかった』


■4. 岩井俊二による小説版■
『少年たちは花火を横から見たかった』


■5. 2017年公開アニメーション映画■
​​『打ち上げ花火下から見るか?横から見るか?』​​


■6.大根仁監督制作ドラマ『モテキ』第二話■
「深夜高速~上に乗るか 下に寝るか~」
​​​​​


▲目次へ▲

---------------------------------------------------------------------------------------------------
- INTRO -
---------------------------------------------------------------------------------------------------

さて、このコロナ禍の最中、

連日
灼熱地獄の真夏日に自宅がヒートアイランド化する中で
水分補給や日差しの工夫などの対策に追われた夏が過ぎれば

涼しい秋になったと思えば

記録的豪雨と防風を伴った猛烈な台風が連続発生との報道に
連日警戒する日々へとスライドし

やがて秋も深まれば海上の水温が下がるに連れて
台風も北上しなくなるだろうと
警戒が解けていくのもつかの間

今度は雪が溶ける春までの間
冬対策が待ち受けるという・・・

加えて

一体何が目的で何がしたいのか分からない様な
異常なあおり運転や傷害事件が局地的に発生し

更には

このコロナ禍でのストレスのハケ口を探す様に
誰かが何かでバッシングされ

息も出来なくなる程

平穏な暮らしを脅かす数々の問題には
常に頭を悩ませられます。


その様な中 映画界では

少しでも平穏に過ごしたいという
我々一般市民のささやかな願いと

癒やしを求める気持ちに応える様に
消費者の足を少しでも映画館へと向いて貰おうと

こんなご時世であっても
数々の話題作が公開されて来ました。


最近ではアニメ映画『鬼滅の刃 無限列車編』
記録的大ヒットが記憶に新しい所ですが

コロナ禍以前、
最も稼ぎ時となる夏休みに公開された話題作としては

2016年に公開されたアニメ映画『君の名は。』大ヒットが
新海誠 監督の名を一躍広めた事でも話題となりました

それに続けと2017年には

元スタジオジブリ組による
『メアリと魔女の花』

世界的キャラクターの最新作
『怪盗グルーのミニオン大脱走』

常勝のピクサー制作
『カーズ/クロスロード』

実績のディズニー制作
『モアナと伝説の海』

世界の人気コンテンツ
『ポケットモンスターキミにきめた』

灼熱の夏に敢えてぶつけた大本命
『ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』

などのアニメ話題作が公開されて来た中、


映像作家 岩井俊二が制作した90年代名作TVドラマを
『TRICK』『モテキ』『まほろ駅前番外地』大根仁が脚色し

『化物語』『魔法少女まどか☆マギカ』新房昭之監督と
アニメ制作会社「シャフト」がタッグを組み

新たにアニメーション映画としてリメイクし映像化した

『打ち上げ花火打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』
鳴り物入りで公開されました。


という訳で、

今回は映画監督岩井俊二の出世作となった
1995年に公開された実写版を中心に

2017年公開のアニメ版と共に関連作品を合わせて

この様な偏狭でマニアックなサイトでの
いつもの5万文字を超える出版レベルな記事ではありますが

微力ながらも

コロナ禍での混沌と連日の猛暑に対する、
僅かばかりの平穏とささやかな清涼を
提供できればと

夏を舞台にしたこれらの作品を
ご紹介したいと思います☆


▲目次へ▲

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- STORY -
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ある海辺の町の夏休みの出来事、
典道と仲間達はふとした会話の中で
打ち上げ花火は横から見たら丸いのか平たいのかで盛り上がる

プールでは友人の祐介とクラスメートの女子 なずな への告白を巡り
他愛のない賭けのレースを始めるが

ターンを失敗した典道はレースに負けてしまって・・・

---------------------------------------------------------------------------------------------------
- 解説 -
---------------------------------------------------------------------------------------------------

▲目次へ▲
■1.本作について■

本作は
岩井俊二監督が映画に進出する以前のテレビマン時代の 1993年に
「もしもあの時ああだったら」という2つの異なる結末を持った
「What if」タイプのジュブナイル作品として企画され

『if もしも』シーリズのエピソードののひとつとして
TV放送用に制作された一時間枠正味45分の短編テレビドラマで

1995年に劇場作品としても公開された
岩井俊二監督の代表作的な作品です


子役時代の山崎裕太反田孝幸
子役時代の奥菜恵をヒロインに据えた
子役を中心とした配役に加え

ベテラン田口トモロヲ光石研
人気タレント蛭子能収など個性派俳優が脇を固め

とある海辺の町を舞台に
少年と少女が繰り広げる一日限りの駆け落ちを
斬新な映像と瑞々しくもノスタルジックなタッチの映像が印象に残る
岩井俊二の代表作として現在もファンの間で根強い人気を持つ

一風変わったロードムービーとしても見ることが出来る
作品でもあります。


本作から6年後の99年には
『少年たちは花火を横から見たかった』というタイトルで
岩井俊二自ら監督、企画した
撮影当時を振り返るドキュメンタリーと撮影当時のメイキングに
描かれる事のなかった物語を交えた映像作品が発表され


更には
本作から24年後の2017年には
『化物語』『魔法少女まどか☆マギカ』
新房昭之監督とアニメ製作会社「シャフト」の黄金コンビによって
装いも新たにリメイクされたアニメーション映画が制作されるなど

岩井俊二作品中でも時代を超えて制作され続けてきた
唯一の作品でもあります。




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▲目次へ▲
■2. 岩井俊二の映像詩的短編ドラマ版■


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​​​​ 打ち上げ花火、
下から見るか?
横から見るか​?

​​​

監督/脚本:岩井俊二
出演:山崎裕太/奥菜恵
音楽:REMEDIOS 撮影:金谷宏二 編集:茶園一郎
企画:小牧次郎/石原隆
製作会社:フジテレビジョン/共同テレビ

□TV放送版□
(語り手:タモリ)『if もしも』エピソード16
​(オムニバスドラマシリーズ)​
放送時間:木曜日 20:00 - 20:54(54分)
放送:1993年8月26日

□映画版□
TV版再構成バージョン
配給:ヘラルド・エース / 日本ヘラルド映画
公開:1995年8月12日
上映時間:45分



解説の前に、
百聞は一見に如かずと言う事で
まずは岩井俊二が監督したドラマ版の鑑賞をする事を
オススメします

内容も正味40分程度の短編ドラマですので
サクッと鑑賞できます。

現在鑑賞するには、

「Amaz○n Prime ビデオ」「楽天TV」
300円か400円程度の 有料配信で鑑賞可能です。

レンタルでは
T○TAYA宅配レンタルで、
ネットで無料会員登録すれば「DVD単品レンタル」できます。
コチラは配信と違って、
レンタル代の他に送料がかかりますので、ご注意を


まあ、どうしても無料で観たいという方には

大きな声では言えませんが
Y○utube のサイトに移動して、キー○ードに
「【秘蔵映像】打ち上げ花火、下からみるか横からみるか」
と、入○すると「購入またはレンタル」有料配信動画の他に
モニョモニョ動画が○ットするので
それをモニョモニョ再生してモニョモニョ鑑賞・・・w



などを利用してご鑑賞頂いてから
レビューを読むことをオススメしますW



さて、本作は元々は、

90年代にフジテレビ系で人気を博した『世にも奇妙な物語』の
レギュラー放送の終了を受けて

スピンオフシリーズとして誕生した『If もしも』シリーズの中の
番組エピーソードのひとつとして制作された

テレビマン時代の岩井俊二が担当した短編ドラマでした


『Ifもしも』シリーズは
物語の途中で2つの選択肢が提示され
それぞれを選択した結果変わっていく結末を順番に描くというお題で

様々な演出家、脚本家を起用して連作した短編ドラマシリーズで

ゆえに本作は
その枠内で作られた「企画作」でもありました。



▲目次へ▲
​■A.マニアックな本格志向の90年代■​

本作が放送された90年代は
本作を含めてこの様な比較的マニアックなタイプのドラマシリーズが
ゴールデンの時間帯に放送されていた所に
ひとつの特徴があった時代で

深夜の時間帯になると 三谷幸喜 の同じ脚本を
毎回異なった演出家、スタッフ、キャストを起用してドラマ化し

河野圭太、若松節朗、星護、鈴木雅之などの三谷作品常連監督の他
井筒和幸、伊丹十三、杉田成道などの映画監督や
変わった所ではタレントの木梨憲武や、舞台演出家の大家 蜷川幸雄など

異なる演出家によって毎回同じ脚本を映像化する
『3番テーブルの客』という
実験色の強い極め付きとも言える番組まで登場するなど

この時代は今とは全く異なった、バブル経済ならではの
高級志向が大衆化したニーズに応えた

ドラマの深みを嗜むタイプの番組が数多く制作された
テレビ制作者達にとっての黄金時代という印象がありました

特に『3番テーブルの客』という番組は

・・・もしアノ監督がアノ映画を映像化していたら・・・
という様な
映画ドラマファンの間で常に論議を呼びながら
実際に確認する事の無かった

「作家性による仕上がりの差異」を視聴して確認出来る
非常に貴重なシリーズとなりました。


この様にドラマが過渡期にあった90年代は
良いドラマを制作して視聴者に提供するという
従来の番組作りとは別に

80年代中期から確立されてきた「深夜の枠内」という
一般視聴者とは異なる層が視聴する時間帯を利用した
様々な脚本家、演出家の作家性に着目する実験的番組作りも

支持を受けた時代でもあった事から

日本の映画ドラマ界の中からも その様な経緯から
才能溢れる若き演出家が頭角を現す機運が高まり

従来の演出家とは性質の異なる 映像作家 と呼ばれる様な
岩井俊二を始めとする様々な才能あふれる映画監督が
誕生する土壌が出来上がって行ったとも
捉える事が出来

言わば本作『打ち上げ花火~』とは
その様な時代の流れと要求から生まれた
生まれるべくして生まれた作品と

言えるものがあったのかも知れません。


ちなみに本作が
『If もしも』シリーズとして制作される際には

「やり直しを描いたり、一方が空想で終わるのはNG」
というシリーズのルールを無視したプロットになっていたり

本作のタイトルが、制作側の意向で差し替えられたもので
岩井監督は『少年たちは花火を横から見たかった』という
ルール無視のタイトルを用意していたりと

スタッフ側と度々揉める程
制作中に作品が一人歩きを始めて
番組の枠内に収まり切らなかった造りは

稀代の異才が制作する作品らしい
裏事情があった様ですが

この様に
局の意向には絶対的に従うというテレビ映画界の「掟」の様なものが

不条理な権力に立ち向かう反骨精神や
リベラルな立場での断固とした意思による拒否とは異なり

新人類の様な草食系の若者によって
何となくなし崩し的にかわされる時代が来た所に

80年代まで脈々と様式が受け継がれながら衰退して行った邦画界が
変化を余儀なくされた

時代の節目を感じさせる作品という
印象を受けるものがあります


放送後岩井俊二監督はテレビドラマとしては異例の
日本映画監督協会新人賞を受賞し

それを受けて映画用に編集したものを
1995年に劇場公開されるなど

テレビドラマとしても異例な作品となりました



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■B.映像作家 岩井俊二 ■
Shunji Iwai
岩井俊二 (画像参照: wikimedia)

岩井俊二 は90年代に一世を風靡した人気映画監督で

代表作(95)『Love Letter』(96)『スワロウテイル』にも見られる
「岩井美学」と呼ばれるセピア色的浮遊感を感じさせる
独特の映像美が特徴の

日本でそれまで一般的に余り使われなかった
映像作家という言葉を定着させた
日本を代表する映画人の1人です。


岩井俊二は、音楽や映画が
硬質で乾いたスタイリッシュなタッチで制作されるのが流行していた
80年代後半にMV監督としてデビュー、

その後、
セレブタレントによる大人のラブコメ作品が流行り
テクノロジーの発展による未体験映像エンタメ作品の様な
バブルを象徴するセレブ感の高い作品が人気を博していた
90年代のテレビ界に進出します。

93年に脚本監督したテレビドラマ『打ち上げ花火・・・』が認められ
独特の作風が人気を博す映画監督として
キャリアをスタート、


99年には初めてのドキュメンタリー作品として
自身の作品『打ち上げ花火・・・』のメイキング作品
『少年たちは花火を横から観たかった』を発表します。

2000年に入りますと『エヴァンゲリオン』の庵野秀明監督の実写作品
『式日』をプロデュースし自身が俳優としても出演しました。

世がネット時代へと向かい始めると
BBSを利用した大衆参加型ネット小説を企画し、
完成した作品は01年『リリィ・シュシュのすべて』というタイトルで
フィルム作品の様な効果を出すデジタル撮影によって映像化されました。

03年には当時としては珍しい
WEB配信という形を取って『花とアリス』を公開するなど、

様々な映像作品の制作と
数々の話題作の発表を行ってきました。


岩井俊二監督は早い段階で映画製作に
デジタル技術を導入してきた事から

フィルム制作による映画監督という枠にはまらない
従来の邦画の映画人とは全く異なったアプローチで
様々な映像作品や映像関係作品を制作し

近年はアニメーション制作にも手を拡げるなど
常に新たな表現の可能性を求めて
日本の映画界に話題を提供し続けてきた
異色の映画人と言えます。


その一方、活動拠点を海外に移すなどの、
世界を視野に置いたグローバルな活動を続ける中で

時代性を考慮したアプローチの違いはあるにせよ

日本人なら誰もが理解できる様な
懐かしさに満ちたノスタルジーを感じさせる映像表現で

自身がリスペクトする市川崑作品を彷彿させるような

邦画の伝統に則った表現法をベースに持つ映像作家ならではの
日本的映像美 を思わせるものがある事からも

岩井俊二監督は実は極めて正統派 な映画作りを目指す
映画人でもあるのかも知れません。


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▲目次へ▲
■C.無垢と危うさが同居する作家性■

岩井俊二監督はその独特の作風を称してしばしば、

地に足の着かない90年代バブル世代感を背景にした
多感な十代のふわふわした心情を

懐かしくも新しい独特の空気感で映像化する所に定評があると
よく語られますが


(94)『PiCNiC』や『スワロウテイル』の様な
終末系に見られる荒涼とした息苦しい世界観で
残酷描写を多用した作品を制作している事からも

むしろ 近年映画監督としても名を馳せた
『エヴァンゲリヲン』の庵野秀明監督の様な人物の作風に
近しいものがある様な印象を受けるものがあります。


自身の出世作となった『打ち上げ花火・・・』と
自身のヒット作となった『スワロウテイル』とでは

作風がまるで違う印象がありますが

どちらの作品にも何かに囚われた様な境遇にあり
今いる世界と外との境界線の様なものがある事を意識した
何事にも達観した様な主人公が登場し

その様な異色な主人公に中庸な人物を絡ませて
それらの人物を通して主人公の観ている世界を浮かび上がらせながら

特別なドラマを生み出している点に於いて共通しており

この辺りの作風が文学的と言うよりは
80年代コミックス的なのですが

SFアクションやダークファンタジースポーツを通して
対決や友情や絆を熱く描いてきた
少年漫画のタッチからよりは

くらもちふさこ槇村さとる 作品の様な
愛と憎しみと喝采と苦悩をドラマチックに描いてきた

少女コミックスの様式の方に、
作品への影響が見られるという所に

「多感な十代のフワフワした心情」と語られる
理由がある様に思われます。


同時に、
先程の庵野秀明の代表作『エヴァンゲリヲン』でも描かれてきた

孤独と残酷さを孤立感で打ち消した様な心境の中で
何かに囚われた様な人物の眼を通して観た様な

生と死、始まりと終わりを同じ目線で捉えるかの
達観した様な側面を持った閉鎖的作風に特徴がある
映像作家という印象を受けるものがあります


この様な印象を受けるのは、
アメリカの巨匠スティーヴン・スピルバーグ監督が
ファンタジー映画の巨匠と呼ばれる理由に

ファンタジーと厳しい現実を同居させる
類まれなバランス感覚の持ち主である所に理由があるのと同様で

あの大ヒット作 (74)『JAWS』のサスペンス感に
5感で感じさせるイベント性をもたらしたのも

浜で無邪気に海水浴を楽しむ子どもたちが
いつサメに襲われるか知れない未曾有の恐怖に根ざしたものが
普段は平穏に見えて突如牙を剥く「海」そのものにあった様に


本作で描かれる無垢な子どもの世界がいつ壊されるかも知れない
いつでも牙を剥く大人の社会がすぐそばに隣接し

それは垣根一枚で隔てられている様な危うい存在でもあると言う事が
作品内でしっかりと描かれている所に

危うさと隣合わせの無垢さが際立つ独特の作風を生み

物語がある様で無い様な感覚的なタッチの脚本が相まって
俗に言う「フワフワした」様な印象が強まる
鑑賞感を生む要因となっていったのかもしれません


従って 岩井俊二の作品は、
殊更多感な「フワフワした」心情を描く所に特徴がある訳では無く

常に何かが壊れた様な環境や境遇にある人物達を描く事を通して
その様な特殊な境遇の中で一瞬覗かせる

絶望の中で一筋の光が差し込む様な
無防備な「素」の表情を捉える所に
骨頂がある故の作風だという見方もする事が出来ます。


後、物語があるようで無いような

脚色にすべての伏線が回収されるカタルシスを感じられなかったり
物語が着地するべく地点で帰結する結末感が無かったりと、

映画のセオリーを無視する様な造りになっている事に付いては、

ハリウッド超大作映画で目が肥えた若い世代達が
これまでの日本映画に対して感じていた

日本映画=(演劇+実直+任侠)÷退屈
という図式を払拭する様な

建設的なものよりも、感覚的なものを重視する
経験と知識ではなく、瞬間的な感性で映像を撮る

造られた「物語」「演技」を付けて「撮影」して収録する
のでは無く

予測が出来ない「行方」「ドラマ」を感じた「映像」を切り取る
という

「既存のシステムへの破壊と再生」を目的とした
新時代の映画の在り方を追求する作品作りに

大きな理由がある様な印象を受けました。


これは、

インディ・ジョーンズシリーズや スター・ウォーズ 旧三部作を脚色した
米国を代表する作家 ローレンス・カスダン が脚本を担当し

『アポロ13』『ダヴィンチコード』の巨匠
ロン・ハワードが監督した

超ベテラン映画人達が総力を振り絞って制作した
スター・ウォーズのスピンオフ作品
『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』

かつての閃きは微塵もない
年老いた映画人達が老骨に鞭打ち打って作った様な
余りにも「演劇的」「予定調和」が過ぎた

錆びついたビジュアルと演出の

何のワクワク感も刺激も無い、まして若者に刺さらない
退屈な凡作に仕立て上げた事に対して


旧時代の映像作家ジョージ・ルーカスから
稀代の映像作家 J・J・エイブラムスへ と制作が受け継がれた

スター・ウォーズの続三部作の第一作『フォースの覚醒』
ノスタルジックに溢れた感覚的でスリリングな傑作になりながらも

賛否両論となった事と状況が似ており


作家性も、映画の規模もまるで違いながら
海を隔てた海外で、同じ様な状況を産んでいた所に
非常に興味深いものを感じるものがあります。


話を戻しますが・・・w


岩井俊二の出世作となった本作が
岩井俊二作品の中でも特別な作品として
ファンの間で語られるのも

90年代当時にビデオ撮りのドラマでは見た事の無い
映画フィルムを感じる質感の画面で描かれる

小路の角で母親に連れ戻される場面での
揺れながら細かく視点が変動する
カメラワークや

ヒロインなずなを演じた当時14歳の 奥菜恵 を
絶世の美少女に撮り上げた
ラストのプールの奇跡のショットで積み重ねられ

本当の別れによって語られる
永遠に記憶される物語が描かれる

岩井俊二監督の作家性
人々が惹かれるからなのではないかと

思うのでした



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■D.物語と解説■

このドラマは、

房総半島にあるとある海沿いの小さな街を舞台に

地元の小学校に通う少年 典道(演:山崎裕太)が
夏休みの登校日の教室で
打ち上げ花火が丸いか平たいかで友人たちと盛り上がった
夏祭りの日

気になるクラスメートの少女なずな(演:奥菜恵)と
一日限りの「駆け落ち」を
ノスタルジックに描いたジュブナイル作品で

本作で認められた脚本、監督の岩井俊二が
映画監督としてデビューするきっかけを作った

岩井俊二の代表的作品でもあります



とある海沿いの街での最大のイベント花火大会の当日での出来事

両親が営む小さな釣具店の長男 典道と
医者の息子で友人の祐介 (演:反田孝幸)を含む少年たち5人は

今夜の花火大会をネタにして 打ち上げ花火は丸いか平たいかという
他愛のない会話で盛り上がる様な どこにでも居る小学生の子供たち。

クラスメートの女子(演:奥菜恵) なずな は典道が気になる女の子で
他の子どもたちに比べると違和感がある位大人びた少女。

この典道を含む少年たちと 大人びた少女なずなを中心とした
子供から大人へ成長する事を意識し始める少年少女達の

ある夏休みの特別な一日の物語が描かれます。

特別と言っても

小学生の男子の輪の中に居る時、突然気になる娘と眼と眼があったり
気になる娘に首に付いたアリを取ってくれと言われ
ドギマギする程度の
若干中庸な平均的小学生少年とその仲間達と

一日で終わらせる遊びの様な家出を駆け落ちと称する
大人びてはいても子供だと自覚している少女が

主人公として描かれるドラマの上の特別さなので


架空の都市を舞台にした自身の出世作や
自身が俳優として出演したアニメ監督の初実写作品や
24年後にアニメ化した制作会社の代表作などの


岩井俊二自身や自身を囲む関係者達が生み出す作品に
共通して見られる

非現実的現実世界を舞台にした問題作的作風が
極めて強い傾向にある作品作りで知られている
映像作家だとしても


ミニスカになった唐沢寿明の奥さんが
バズーカでマフィアを皆殺しにする荒唐無稽さや
スティーヴン・セガールの娘と共演した
少年たちが神話になる残酷さや
ツンデレ彼女に猫女鬼娘幽霊少女達に囲まれた
ハーレム状態の化物ハンター男子のアニメ物語だったり
少女たちが契約で背負う過酷な運命アニメなどの


衝撃的内容とは無縁の


子供時代の切ない思い出を回願する様な
極めて健全な内容になっています。

以下、なずなの意味不明の行動の理由を
E.F.G.H.パートの中で
順次解説していきます。



▲目次へ▲
■E.バッドエンドの「A」の結末
アンハッピーエンドの「B」の結末。■

『ifもしも・・・』という番組には、
物語を作る上での「ルール」が設定されており

物語の途中で「A」「B」という選択肢が示され
それぞれの結末を描くという仕様の元に脚色するという

番組側からの約束事がありました。

しかし、
友人の祐介がなずなへ告白する事を掛けた水泳50m競争で
典道がターンをしくじって負けた後の結末が「A」
典道が勝った後の結末が「B」という形で描いている為

主人公が物語内で結末を選択するという
番組ルールに則っていない造りとなった事が
制作当時、上層部でも問題になりました。


それに付いては後ほど解説するとして・・・


ともあれこれは、時間が戻って繰り返すといった
ファンタジー的要素で描かれたものでは無く

あくまで結末「A」が終わると次は「B」が始まるという
一風変わった流れを持った以外は、

子供達の日常を描いた、通常の「ジュブナイル」作品でしたが

正にこの物語の流れを持った所に
本作が岩井俊二作品の中でも特別な作品と語られる
大きな理由がある様に思うものがありました。



▲目次へ▲
■F.宮沢賢治『銀河鉄道の夜』がベースの物語■

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『打ち上げ花火・・・』は
岩井俊二が言う所の「本当の別れ」を描いた作品で

2017年に発刊された『打ち上げ花火・・・』の小説版には
新たなプロットとして

宮沢賢治
『銀河鉄道の夜』をモチーフとした
Episodeが加えられていました。

これは、『銀河鉄道の夜』の
親友との永遠の別れが理解できなかった主人公が

列車に乗って親友と共に旅をする事を通して本当の別れを知る

「A」の結末で出来なかった本当の別れを
「B」の結末で共に旅をする事を通して知る物語

と捉える事が出来る事から

『銀河鉄道の夜』が持つファンタジックな側面を通して
帰結する形の「別れの物語」

大人の扉を開こうとする少年と
大人の世界に逃避したい少女が

子供時代が終わる直前に
まるで遊びの様に行った「駆け落ち」として描いた中に

プラネタリウムが星座を映す様に
「銀河鉄道的ファンタジー」を日常生活の中に 投影 した所に

このドラマが特別な作品として語られる
大きな理由がある様に思われます



▲目次へ▲
■G.バッドエンドの「A」の結末

「A」の結末では、
典道 の家での夏休みの登校日の朝の模様から始まり

反抗期が始まった息子におかしなちょっかいを出す
子離れが出来ていない様子の男勝りな母親と
そんな女房に頭が上らない恐妻家の父親という

見るからに欠点ダラケな愛すべき両親に対して
駆け引きの様に上手く立ち回る息子とのやり取りが

暫く描かれた後

両親とのやり取りを終えた 典道 は
家から出たとたん開放された様に

待ち受けていたかの如く勢いよく走って来た友人達と
直ぐ様合流して全速力で学校へ向けて駆け出して行くと共に

元気で子供らしい姿が顔を出し

大人の社会とは隔絶された一点の曇も無い輝く子供の世界
画面いっぱいに拡がって行く様が描かれて行きます


一方、小学生にしては大人びた少女 なずな
両親の離婚による引っ越しという家庭の事情で
今日が学校最後の登校となるというのに
クラスメートの子達に何も告げる様子は無いという

普段から女の子達のお喋りの輪の中に入らない
教室でも孤立した少女

日頃から なずな に告白すると言い続けて何をするわけでもない
まだ遊びの楽しみと恋の愉しみの違いも分からない
典型的小学生男子の典道の友人
祐介 の言動を知ってか知らずか

プールの50m競争で典道に勝った祐介を
好きでも無いのに好きだと言って花火に誘っては
いたいけな少年を惑わす様な真似をしては

突然のなずなの誘いに動揺し理由を付けて逃げ出した
祐介の行為に対して

人は常に約束を破るものだと
達観した様な諦めた口調で言い放つ様な

人の心を試す小悪魔の様でも
誰も信じられず心を閉ざした子供の様でもあり

そんな、まるで中学生の様にも見える なずな は

子供らしく平和で無邪気に振る舞う周りのクラスメート達を
拒絶する様な態度を取る少女として描かれます。


典道は、祐介とプールでの対決で
ターンの時にプールサイドに足をぶつけた事で負けた後

なずなに花火に誘われたはずの祐介が
花火が横から見ると丸いか平たいかを調べに出かけようと誘ってくるのを

不審に感じながら、なし崩し的に行くこととなり、
一端帰宅するのですが

一端帰宅した自分の部屋に
勝手に上がっていた祐介に驚きます。

浴衣姿の なずな が、スーツケースを引きながら
約束の時間に 祐介の実家の医院へ向かう中、

典道と祐介も、花火探査で仲間と合流する為出かけ
プールで引っ掛けた足が怪我している典道を見た祐介は

実家の医院で診てもらう事を、頑なに勧めながら
もし なずな が居たら、行けなくなったと伝えて欲しいと言い
約束を破ろうとする祐介に怒る典道を尻目に

なずな に告白するという話も、
なずな が告白してきた事も、
なずな に花火に誘われた事も、
なずな が好きだと話していた事も、

全ては「シャレ」で「本気で好きだったわけ無いだろ」
とうそぶきながら


気になる女子に対して、
仲間の前では「好き」を連呼するだけの
大人ぶった態度をひけらかして来た祐介は

何の心構えの無いまま
突然降って湧いた「恋」の誘いに前に当惑し、

どうして良いか分からず怯えて逃げ出す様に
仲間の元へ行ってしまいます。



大人の社会には、ドロドロの人間関係にある男女や
人を騙す様な悪い人間がウジャウジャ居る事など
梅雨ほども知ら無い、

探検気分に浸っている屈託の無い少年の顔をした
旧知の間柄の仲間たちの輪に

安堵する様に戻った祐介は
仲間たちと共に花火会場へ移動し

おでん屋台で一杯引っ掛けている蛭子能収扮する男に
花火に付いて無邪気に声をかける

祐介達小学生の子供に対して

「横から見たら平べったい」と適当な事を言って
花火職人だと思わせる様に、からかって悦に浸る様な
悪くてダメな大人の言うことを

真に受けている時


祐介の実家の医院で治療を終えた典道は
祐介を待つ 浴衣姿の なずな を見て

「祐介はこないよ」と伝えると
その答えをとうに知っている様に「そう」とだけ答えて
医院を出て行く なずな に対して

本来、祐介が受けるはずの
罪悪感を感じる事になります。


医院を出ると、行き場の無い様に立ち尽くす なずな の姿があり
典道は なずな の後を追う様に なずな に付いて行くと

道々、自分は裏切られる血筋で
裏切りは慣れているという話を聞かされながら

本当は典道を誘いたかった事を知り
誘ったら 祐介の様に裏切ったか?と問われると

「俺は裏切らないよ」と答え
すると振り返って眼を合わせる なずな に
「裏切るよきっと」と言われ

堀の角へと消えて行く なずな に何も言い返せないまま
立ち尽くしたその時



「A」の結末ラストでは「伝説的ショット」と語られる
市川崑の影響が見られる細かいカット割りと
躍動感あるカメラワークが話題となった
「堀の曲がり角の場面」が登場し

堀の角から飛び出して来るなずなを
母親が全速力で追いかけて来る

異常な光景を眼にした典道に
なずな は スーツケースを手渡し逃げ

母親は 典道をすり抜けて嫌がる なずな を抑え込み
引きずる様に連れ戻すと

見かねてスーツケースを手放さない典道を
鬼の様な形相で睨み付けてスーツケースをもぎ取り

典道に助けを求める なずな に差し伸べる手を
力任せに振りほどいて

まるで何も無かったかの様に堀の角へと消え去り

後には なずな の鳴き叫ぶ声だけが響き渡る中
無力感に陥り立ち尽くす典道を残した路地に

一体アレは何事かと、このタイミングで仲間たち一行が現れ、

「俺のせいじゃ無いよな」という表情で
典道を見る祐介を、力任せに殴りつけると

「アノ時俺が勝ってれば」と
まるで全てが自分のせいでこうなったかの様に
責任を感じながら

罪悪感と無力感に苛まれ、歩き去る典道を最後に


バッドエンドを迎えて終了となります



▲目次へ▲
■H.アンハッピーエンドの「B」の結末。■

続いて「B」パートは、
プールの50m競争で典道が勝った瞬間から幕を開けますが

今回は典道となずながバスで駅に向かう
「一日限りの駆け落ち」

祐介と友人たちの 打ち上げ花火が丸いか平たいか確認する
「花火検証の探検隊」とが別行動で物語が進んで行き

これまで居心地の良かった子どもの世界から
大人への階段を登り始める
なずな 典道 裕介達一行の

それぞれの 成長と別れの旅 が描かれて行きます。


内容としては、なずな 典道の方は
東京に行くのかと思えば急に帰ったり

祐介一行は、露店のおでん屋で
適当な事を言って吹聴する
ダメな大人を代表する様な蛭子能収扮する男の言葉を鵜呑みにしたりと

目的があって無い様な思いつきの行動が描かれ
物語があって無いものの様な演出が続きますが

これは、どちらも子供ならではの無軌道で混沌とした様を
まずは印象付けたい狙いからの脚色だと思われます。

一方で、
なずな が 典道 対して取る
気まぐれで理解できない小悪魔的な行動の数々は
目に余るばかりで

これに付いての説明は何も無いままドラマは終わってしまうので

一見するとこの子は一体何をしたかったのだろうと
思う所なのかもしれません。

思うにこれらのなずなの一連の行動は
本作の「成長と別れの物語」というテーマを理解する上での
重要な「鍵」と考えられるので

なずな の一見理解不能な行為も特別な意味があり

それは物語の中で微妙に貼られた
なかなか見えにくい数々の「布石」から

見えて来るものがあります


さて、Bパートでは

Aパート冒頭で、
親元に離婚の報告を電話した後、諸事情が書かれた封書をなずなに渡す
なずなの母親 の描写や

なずな が孤立している理由や
典道に告げる「裏切るよ」というセリフなどの

良く分からなかった所が、

Aパートラストでの堀の曲がり角で
家出が見つかって逃げるなずなを
人目も気にせず全速力で追いかけた末 力任せに取り押さえ

見てられ無くて思わず加勢しようとした典道を
鬼のような形相で睨みつけながら
泣き叫ぶ娘を問答無用に引きずって連れ帰るといった

なずなの母親が典道の前で見せた衝撃的態度によって、

なずなの母親が
離婚という人生の大事な決断を下した事を朝の慌ただしい中で
まるで嫌いな会社を辞める様な口調で親元に電話で報告をし

離婚による転校の知らせという
親元にとっても児童にとっても学校にとっても大事な事を
直接学校や担当教師にでは無く
封書にしたものを娘に持たせ教師に手渡しさせて

それで済ませ様とした事や

家出しようとした娘を、力任せに引きずって連れ帰る様な

言葉で子供を諭せる人物とはとても思えない
デリカシーにも人への考慮にも欠ける

大人としても親としての行動にも
加えて人としても何かと問題のある人物である事が見えてきた事で、

そんな母親と、夫婦関係が破綻して出ていった父親との
大人の事情に振り回されて

正常な子供時代を送れなかった
なずな の家庭の事情が浮かび上がり、

加えて、なずなが
子供らしく平和で無邪気に振る舞う周りのクラスメート達を
拒絶する様な態度や

典道を気まぐれで振り回す行動にも

両親の醜い言い争いや納得出来ない大人の都合に始終晒され続けて
子供ながら解消する事の無い過剰なストレスを抱え込んで来た

家庭の問題 が影を落としている事が見えてきて
なずな というキャラクターの見方が変化していく中で


堀の曲がり角から急に、プールの対決へと場面が戻り
そこではAパートとは異なり、典道が勝つ結末となり

典道と花火を見る約束をして嬉しそうにプールを後にする なずな を見る、
少しだけ「大人の階段」を垣間見た様な、締まらない顔をする典道から

Bパートが始まります。


教室では花火が丸いか平たいかを調べる探検の話で盛り上がる
仲間たちをよそに

なずなとの約束で頭が一杯で話を聞いて無かった典道は、
何でそんな話になってるの?となり

家では、部屋に勝手に入ってゲームに夢中になる祐介を横目に、
一瞬、なずな の約束を断る気持ちがよぎり、

友人達と過ごす、何の迷いも無いいつもの子供の時間を謳歌するか、
なずな と花火を見に出かけて、男子の輪から外れてしまうか
迷っている所で

浴衣姿にスーツケースを引きずりやってくる
なずな の姿が眼に入ります。


花火が丸かろうと平たいだろうとどうでも良いだろうと
至極まともな事を言って共にエスケープしようと誘う祐介に
困惑しながら、

何とか理由を付けて下に降り
祐介が居る手前、見られちゃまずいと

裏口のドアをノックしようとする なずな の手を制止します。

そんな煮え切らない典道に
行かないつもりかと失望するなずなに
行くから待っててと答えながら

2階からヤッパリ行くから一緒に行こうぜと
このタイミングで告げてくる祐介に驚いていると


どうするのか板挟みになった典道は なずな に手を取られて
その場から逃げ出す様に走り出す なずな に引きずられる様に

共に走って路地を曲がって行くのですが

下に降り来た祐介に
その姿を見られてしまいます。


怒る祐介を背に 典道と なずな は
チョットした冒険をした様な様相で
バス停までたどり着きます。


面白かったと、いたずらな笑顔で言う なずなは
スーツケースの中身は何と聞く典道の前で

どんな反応をするのか試す様に
ああ~開いちゃったwと、わざとスーツケースの中身をあけて、

中身が道にばらまかれて困る典道を眺めながら
自分に対してドギマギする男子の様子を愉しむ様な

いたずらな態度を取ります。


典道が 旅行に行くの?と尋ねると 旅行?どこに?と答え
花火を見に行くはずなのに、やって来たバスに乗り込んだりする

一体何がしたいのか 行動の意味が掴めない なずな に
典道は仕方なく付いていく事になります。


一方、好きだった娘を横取りされた様な形で
典道に出し抜かれた祐介は、始終荒れながら

もはや目的を失った様な様相で
仲間と共に彷徨うように、灯台へと向かいます。


バスに乗った二人も、
目的も無く 何処へ向かうのか定かでは無く、

好きな所に行こうと言い、東京?大阪?と訪ねてくる なずな に
異変を感じた典道は、家出をして来た事に気付くのですが、

なずな はそれをキッパリと否定して「駆け落ち」だと言い張り

「死ぬの?」と 恐る恐る訪ねてくる典道には
何も知らない子供に苛つく様に
「それは心中っつ」と言い放つのでした。


一方の 花火組は、相変わらず苛つく祐介に毒されたのか
近道だと称して花火が見えない道を選んだ相手を罵り始め

一旦はおやつタイムで収まったかに見えた仲違いが

目的の灯台が見えない程、長距離を歩く羽目に陥ると
仲間割れが再燃焼し、

花火組の灯台までの探検は

典道の出し抜きから始まった「波紋」が祐介を介して
少年達の「輪」にも「異変」を生じさせたかの様な
様相になって行きます。


典道たちが乗ったバスは駅に到着し、
バスから降りて電車の時間を確認した なずな は

今度は典道にケースを持たせてトイレに同行させて
トイレの前の塀一枚隔てて着替え始め

街へ付いたらホステスになって食べさせてあげると
話を進め出します。


そんな思いも寄らない事に巻き込まれた典道でしたが
このままなずなを放っておいて逃げ出す訳にもいかず

かと言って共に都会に出るならば、
何の変哲もないこの駅は
二度と還れない「大人の世界」に繋がる
入り口と化してしまいます。

そんな事を考えていると、
口紅を付けてドレスを纏う なずな が現れ

16歳に見える? と尋ねられ

大人とも子供とも違う
まるで母親に隠れて服と化粧品を拝借して大人びる

思春期に入る美少女がそこに居ました。

駅舎に戻り切符を買わなきゃと告げる なずな に、
腹をくくる様に改札へ向かう典道でしたが、

切符を買っていない なずな を変に思い
切符は?と訪ねると 切符?何の切符? と聞き返され

電車の と答えると 電車がどうかしたの?と返され
挙げ句、バスが来たから帰ろうと言われ

あの、トイレの前の話は一体何だったんだ と思いながら
なずなと共に駅を後にするのでした。


一方の花火組は、さっきの仲間割れは一体何だったんだ と思う様な
サッカー応援歌『WE ARE THE CHAMP』を合唱しながら夜道を歩き

俺はなずなが好きだー、俺は先生が好きだー、俺は観月ありさが好きだーと
思春期の男子が開放された場所で、定番の叫びをしながら

仲間の失恋の傷をまるで自分の事の様に癒やしている中、


典道たちは 夜の学校のプールへ侵入し、
これじゃあ泥棒だぞ と言う典道に
私泥棒になろうかな、何盗む?この水全部?と

取り留めのない会話をしている時、
夜空に花火が上がります。


それがまるで、この「駆け落ちゴッコ」の終わりを告げ
この後、母親と共に街を去らなくてはならない「現実」に還る
「合図」に感じたかの様に

大切な何かが終わった様な表情で夜空を見上げた なずな は
突然、服のままでプールに入り、沈み始めます。

典道の心配をよそに、再び浮かび上がった なずな は

これまでの事は、
自分の「境遇」を受け入れる為の「儀式」だったかの様に

これまで理不尽な大人たちに、尽く裏切られて来た中で
唯一裏切らずに、最後まで付いて来てくれた

典道 に癒やされた事に、満足し

子供時代にかかった一時の「熱」を冷ます様に、
プールの水を浴びて全てを振り払い、

自分の「現実」を受け入れる事に納得した後

水面に反射する街灯に照らされて
この上なく美しい笑顔を見せるのでした。


典道は 子供の顔に戻った なずな と共に無邪気にプールではしゃいだ後
二人で夜空を見上げて

花火って横から見たら平べったいのかな?
今度会えるのは二学期だね、楽しみだね と言い残し
プールを後にする なずな から

それは永遠に来ない事を察するのでした。


花火組が灯台に達した頃には、打ち上げ花火は終了した後で、
一行が落胆していた頃、

祭りの夜店で賑わう中を、一人彷徨う様に歩く典道は

夜遅いから教え子には見られないだろうと
すっかり油断して彼氏と歩く先生と出会います。

仲睦まじく歩く姿を不意に教え子に見られた先生は
苦し紛れに彼氏の存在を隠そうとして

花火は横から見ると平べったいだろうと
誤魔化す様を見て

大人も俺と一緒じゃんと、
同病相哀れむ様な気持ちでその場を去ろうとしますが、

彼氏の計らいで残り玉の花火を見せてもらう事となり
典道のそばに寄り、子供を見つめる眼で花火を仰ぎ見る大人達をよそに

典道と灯台の一行は、それぞれ違う場所で同時に花火を眼にしながら
それぞれが、それぞれの場所で、それぞれの出逢いと別れを経験をし

打ち上がっては鮮やかに広がり、
やがて消えて行く花火の様に、

希望に満ちた子供の日々の終わりが近い事を感じながら
夏の終りの最後の花火の煌めきを、

見つめる典道だったの で し た・・・。




このドラマを見た視聴者の多くは、
なずな が典道に取った一連の行動の意味が分からず

「気まぐれな小悪魔的な態度」 という様に捉えるのも

多くを語らず、全てを映像で語ろうとする
岩井俊二の演出に理由があると思われます。


従って「物語」ではなく、「映像」の方に注意を傾けて観てみますと、


なずな が駅で年上に見えるように着替えたり
突然気変わりを起こしたり、
夜の学校に忍び込み服のままプールで泳いだりした行動の理由は

「気まぐれな小悪魔的な態度」というよりは

子供扱いされ続けて話も聞いて貰えず約束も守ってもらえないで
自分たちの都合ばかり押し付けてくる

まるで子供のまま大人になった様な両親
やる事を見て来て

あんな大人と一緒に居る位なら
早く大人になってしまいたいという自我を芽生えさせつつ

あれが大人の姿なら
大人になんてなりたくないという

まだ子供のままでいる自分との間で
相反する気持ちが常にせめぎ合う思いがあって

まだまだ自立と逃避との区別が付かない
駆け落ちをしてしまいたいが子供だから無理という心理

「一連のチグハグな態度」に現れているのでは無いか
という印象があります。


つまり、「駆け落ち」と称する家出が
途中から「子供の遊び」の様になって行ったのも

これまで自分の話に耳も傾けず尽く約束を破ってきた大人や
子供から大人へと成長する過程でその様な環境で大人の世界を垣間見て

子供時代を謳歌している同世代の子達の輪に入れないまま
子供のままでは居られなくなり

大人の世界に幻滅しながら
大人の世界に逃避しようとしている

何処にも居場所のない自分が

脚本の無い演技をする様に、バスの中で「駆け落ち」発言に始まり
駅のホームで「都会でホステスとして働き面倒を見てあげる」で終了する、

ある意味「気晴らし」の為の予定の行動を続けて見せた事に対して、

嘘偽りの無い、ありのままの姿で真摯に受け止めてくれて
約束を破る事無く自分の気まぐれに最後まで付き合ってくれた典道によって
癒やされ た事で

自分の現実を受け入れようと決心した気持ちの現れが

一気に熱が冷めた様な、あのチグハグな行為となって表れた
という印象があります。


岩井俊二はクライマックスのプールの場面を
「本当の別れ」という言葉を使っていますが

先程解説した『銀河鉄道の夜』をモチーフとした意味の他に

たとえ数年後、数十年後に 大人になった二人が再会したとしても
この日なずなを癒やした典道と癒やされたなずなという

子供だったこの日の二人には

二度と戻れないし二度と逢えない事を称しての
意味だったのかもしれません。


ラストで夜店通りで先生に呼び止められ
打ち上げられる花火を仰ぐ典道は

いつもの先生の、小学生の生徒を見守る笑顔が浮く程
大人の世界を意識してしまった当惑した顔つきとなり

何もかもが、これまでとは違って見え
何もかもが、これまでとは違う意味が見える

もう子供のままでは居られない
もう子供の世界には還れない

ひと夏の、忘れられない体験をした後の
ほろ苦さを噛みしめる様な典道の表情を残しながら

ドラマは静かに幕を閉じます。


この作品は今でも撮影地に巡礼者が訪れる程の
岩井俊二作品の中でも特別な作品として
ファンの間で語られ続けていますが

それは「かけがえのない出逢い」とは同時に
「二度と出逢えない別れ」の様でもあるという事を

誰もが経験する子供時代との別れを通して描き
失われた想い出が蘇ってくる様な思いをさせてくれる

そんな作品だからなのかもしれません☆



▲目次へ▲
​■3.ドキュメンタリー作品■

関係者の証言や描かれなかった物語など
ドラマ制作当時を振り返る岩井俊二自身が企画監督​


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花火を横から
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現在この作品を視聴するには
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T○TAYAの宅配レンタルを利用するか
楽天かAmazOnでレンタル落ち中古品を安く手に入れるか

又は、制作秘話パートのみを
ノベライズ本のあとがきで読むか

各自お選び頂くとして・・・


この作品は、93年にドラマ版が放映されてから6年後の99年に
公開されたドキュメンタリー作品で、

主演の奥菜恵と山崎裕太を進行役に据えて
千葉県飯岡市のロケ地を訪れ撮影当時を振り返り

放送当時は描かれる事の無かった新たな物語を
主演二人によるロケ地での朗読の他

脚本監督の岩井俊二や番組プロデューサーなど
制作に関わった関係者達のインタビューがまとめられた
内容になっています。

有り体に言えばいわゆるメイキング作品なのですが
いわゆる「特典映像」の様なものとは異なり

出演当時は子供だった主演の二人が
成人した姿で脚本を朗読するパートでは


ドラマから数年を経て再開した二人の姿に
子供だった二人にはもう逢えない事をドラマさながらに痛感し
この作品のファンには軽くショックを受けるものがありながら

もう戻る事のない、失われた子供の世界の
これまで語られなかった新たな物語が

ロケ地となった小学校で 主演の二人によって語られて行くという

一つの映像作品として充分成り立った
興味深い作品となっております。


一方、製作者達の証言を収めたパートでは
番組プロデューサーや岩井俊二自身の

今だから話せる制作裏話の数々が収録されており

実は2時間ドラマ化の話もあったのに、
ここで生まれようとしている作品の為にあえて蹴った
テレビマンとしての葛藤や

最後まで決まらなかったプールでの別れの場面の軌跡や

この作品がTV番組の企画内に収まり切らなくなり
まだ新人だったにも係わらず岩井俊二が独断で
企画にそぐわない内容に勝手に変更した事による
実は皮一枚でつながっていた様な
岩井俊二の立場と作品の評価や

放送当時、岩井俊二の独断を巡り
上層部と現場との綱渡りの様な駆け引きとなった
制作秘話の数々や

後の輝かしい評価と映像作家岩井俊二の誕生へと繋がった話など

非常に興味深い内容になっております。



▲目次へ▲
​■3.岩井俊二による小説化■


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​​​​少年たちは
花火を横から
見たかった
​​



これはドラマ化から24年、岩井俊二自ら執筆し
岩井俊二が元々付けたかったタイトルに変更して
2017年のアニメ化を機に出版された

純然たるドラマのノベライズ本です


本書を読むには、楽天市場で購入する他、
場所によっては図書館でも閲覧 貸し出し出来るみたいなので
できれば ご拝読した後ご観覧頂ければ、として・・・



只、タイトルが変更された事からも分かる様に
『ifもしも』の『打ち上げ花火・・・』をノベライズしたものでは無くて

新たな物語とその後の主人公達の描写を加え
ドラマ版の空気感をそのままに、2つの結末を一つの物語に再構成した
非常に読み応えのある内容になっています。


この小説版の大きな特徴としては

成人した主人公たちが再開して子供時代を回顧する
新たなプロットや

典道となずな は、もっと以前から出逢っていたという
典道の家に一泊する、新たなプロットでの

典道の部屋に飾られていた課題で制作した労作の立体地図模型が
朝になったら なずな が叩き壊していた事が分かる

自分以外の同級生たちが普通の小学生生活を謳歌している事を憎悪する
なずな の心の闇が描かれる衝撃的エピソードや

そんな なずな の行動に対しても
「別にもう捨ててもいいんだそれ」と答えて
何も責めなかった典道に
その後心を開いていた事が分かる話や

典道の家を抜け出したなずなを見つけて
二人で行った海で見つけた真珠の様な玉が
アニメの不思議な「願いのビー玉」となったり

結婚式直前に別の恋人と駆け落ちしようとした
若かりし頃の なずな の母親の話や

祐介たち一行の、更なるエピソードが加わった花火の夜の探検記などの

様々な新しい物語が加わった事と

冒頭のプラネタリウムの場面で
この作品が『銀河鉄道の夜』を柱とした作りになっていた事を
分かりやすく明かして
物語を更に意味深く読む事ができる様にした、
興味深いプロットなど

ひとつの読み物としても、
ドラマのファンが更なる物語に触れるノベライズとしても
愉しめる内容になっております。


又、
先程のドキュメンタリー作品での新たな物語を朗読するパート
文章化され纏められた作品でもあり

特に、岩井俊二自身が語る あとがきでは
『ドキュメンタリー作品』でも語られた制作記が

文章になって纏められているので

ドキュメンタリー作品を見る機会を得られない方も
内容に触れる事が出来る様に構成されております

加えて、
2017年公開のアニメ版制作にも触れており

かねてから『打ち上げ花火』のファンを自称してきた
(10)『モテキ』の大根仁を脚本に抜擢したエピソードも
収録されております。



▲目次へ▲
​​​■5. 2017年公開 アニメーション映画■


【Blu-ray】打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか? [ 広瀬すず ]
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​​​打ち上げ花火、
下から見るか?
横から見るか?
​​​


この作品はDVDレンタルや配信など
Amaz○nPrime会員なら無料で
容易に鑑賞可能なので
まずは観ていただくとして・・・


オリジナル版のTV放送から実に24年振りの映像化となった本作は

『化物語』『魔法少女まどか☆マギカ』の新房昭之総監督と
アニメ制作会社「シャフト」がタッグを組み

脚本は実写畑の監督で本作のファンを自称する
(00)『TRICK』 (10)『モテキ』の大根仁が担当し

岩井俊二監督自身もアイデア出しの段階から参加した
アニメーション作品として制作され、

オリジナル版の45分だった尺は
大幅に脚色された新たな物語が加わり倍の90分に拡張され

主要登場人物も小学生から中学生へと改められ
新たになずなの両親が登場するなどの設定の変更に加えて

「What if」ジュブナイル作品だった物語は
何度も同じ日をやり直すライトSFファンタジー作品へと
プロットも改められ

リメイク作品と言うよりはリブート作品として企画され仕上がった
長編アニメーション映画です。


物語は、主人公たちが中学生という事以外は
実写版同様に夏休みの登校日の朝から始まり
プールでの50m競争の下りから
なずなの約束をすっぽかした祐介をぶん殴る典道まで
同じ流れで進みますが

朝の海岸でなずなが拾った不思議なビー玉を手にした典道が
同じ時間を繰り返す「タイム・ループ」を起こして

失敗しても何度もやり直して
なずなとの駆け落ちを続けながら

「銀河鉄道の夜」の様をモチーフとした
ファンタジーな帰結をするラストまで

アニメ作品ならではの展開で物語が進んでいきます。


元々の原作ドラマが
中途で2つの結末へと枝分かれして行く造りだったので

事情が分かっていても唐突な展開に
若干の違和感を感じたりしましたが

ファンタジー映画としてリブートした事により
プロットに違和感が無くなった分

ある意味作品が本来の姿を見せた作りとなったとも
取ることが出来ますので

ラストでのパラレルワールド的な世界が弾けて
様々な「確定した未来」が現れるという展開を取り

その中から「あの」結末をチョイスして
物語を締めくくったのも

「本当の別れ」で幕切れとなった実写版での
切ないラストに対して

原作のファンが20数年をかけて待ち望んでいた
「本当のラスト」と出逢える作品にするための
アニメ化だったと捉えると

非常に納得できるものがあり

『打ち上げ花火』ファンを自称する脚本を担当した大根仁
すべてのファンの願いを汲んだ「使命感」を感じさせる

岩井俊二ファン必見の仕上がりとなった作品という
印象を受けるものがありました。


その一方で、

あの伝説の「堀の曲がり角」の場面をアニメで完全再現するという
ファンであれば鳥肌モノの意欲作でもある一方で

キャラクターが中学生へと年齢設定が上がった事により
「堀の曲がり角」の場面では

大人びた少女が無防備な子供の顔を見せるという
元々の演出の意図が崩れる結果を招いたり

「花火が平たいか丸いか」を確認する行動が
そもそも小学生だから「冒険」として成り立っていた所、

中学生では微妙なものになってしまったりと

年齢設定を1歳上げただけで崩れてしまう
「岩井俊二の繊細な世界観」を廃してまで
「シャフト的化物語風世界観」でリブートしたのは

アニメ化に当たり「大人の事情」を含めた
「シャフト」的演出を効かせる意図を感じさせる

ビジュアルのリニューアルだった事は 理解出来る所ですが

それが前年度の『君の名は。』の
ポスト作としての戦略だったとしたら

この作品をこの様に企画した事自体
あまりにも線が細いものにしてしまっているのでは無いかと
思わせるものがありました

他にも、

途中、駅でなずなの母親達に見つかった時
抵抗する典道を母親の内縁の夫が殴りつけるという

21世紀が舞台の作品にしては
大いに違和感のある描写があったり

如何なる荒唐無稽な説明になってしまったとしても
ファンタジー作品「鍵」として使用されたアイテムは

必ず納得の行く帰結を迎える展開を取り
内容の回収を図るべしという

ファンタジー作品のセオリーをハナから無視する様な

「不思議なビー玉」がなぜタイムループを起こすのかという点で
「父親の海での死」や「灯台」などいくらでもモチーフはあったのに
一切触れないままで物語は終了するので

灯台のレンズを思わせるビー玉が
ラストで粉々になり

破片の数だけの可能性の未来が現れ
その中のどの未来を選ぶのか、という

本作最大の感動的な見せ場が
意味不明なままで終わっている致命的欠点がある言えます

例えば・・・娘の幸せを願う父親の魂と
宇宙の不思議なパワーで増強された灯台の光がレンズで凝縮され
灯台のレンズの様な形をしたビー玉となってなずなの前に現れる

と言ったような、

手垢のついたプロットを織り込んだ物語になるのを避けて
敢えて説明を取らない内容にしたという狙いがあったとしても

なずなの居なくなった父親が海で浮かんでいるヒトになった時
父親が手に掴んでいた時のビー玉が、
今持っているものと同じものなのかも、

という描写ひとつで

あとは見る者に任せる丸投げの様な内容になっている様な
プロットを散らかすだけ散らかして片付けない印象の
構造的空白が目立つ脚色で造られている所に

大きな問題があると言えます

これは、
近年漫画原作の実写化が失敗しがちになる問題と同じで


脚本の大根仁が本作の大ファンであるが故に

この作品が始めから鑑賞層を「絞り込む」様な
「リスク」を抱えた企画であった事に加えて

ファンであれば分かる筈 と言う様な説明無しの顛末が
ファンを代表して作ったファンムービー的な様相となった事と

岩井俊二版公開当時は駆け出しで
現在はヒットメーカー映画監督として活躍する大根が

若き岩井俊二の『打ち上げ花火・・・』の「若かりし点」を
ヒットメーカーの今の自分が自分流補完しようとした様な

原作ドラマに大胆なメスを入れたという印象を受ける事から

その「自分流」を全く望んでいない鑑賞層との「ズレ」
本作がヒットに繋がらなかった
最大の要因があった様に思われます


加えて
銀河鉄道の夜をモチーフとしたラストの展開は
ドラマティックではあっても

そもそも銀河鉄道は死の国へ向かう列車であり
実写版では二人は列車に乗らなかった所に

意味があったのに対し

「千と千尋の神隠し」的なファンタジーな列車が登場して
駅に着いて海で泳ぐ展開自体が

手垢の付いたプロットの様な印象が強い事からも、


実写作品ではストーリーテーリングに長けた独特の切り口で
物語とキャラクターに生き生きとした息吹を吹き込む
芝居作りに定評のある大根仁監督でしたが

実写では役者がそれぞれの持ち味を活かした
芝居をしてくれる事に対して

それら全てを描かなければならないアニメでは
緻密な描写とイマジネーションが不可欠となる為

役者にイマジネーションを与えて
エモーショナルな芝居を引き出す事に長けた映像作家ではあっても

自らイマジネーションを生み出す緻密さを要求される
アニメーションの世界の前に

いつもの暑苦しい程の大根節だけでは過不足だと
言う印象を受けました。



本作は近年、
小説版の映像化やアニメ版を実写化する流れとは逆となった

実写版を原作にアニメ化した作品で

近年のアニメーション作品に見られる
ロケ地を本編で正確に再現するという 巡礼行為 に対しては

実写での『堀の曲がり角』の場面も忠実に再現されている所からも
本作の制作そのものが実写版のロケ地を巡る

巡礼行為そのものとも言えるものがあり

多分に原作ドラマや岩井俊二監督のファンをターゲットに据えた
極めてマニアックな目的の元の映像化という

側面がある作品という点に於いても

原作となったドラマは岩井俊二の名前を世に拡め
映像作家岩井俊二が映画界に進出する橋頭堡となった作品
ではありましたが

キャラクターの背景が説明を極力廃した物語となっている為
キャラクターには謎の行動が多く見られ

何が言いたくて何を描いている作品なのか
一見では分かりにくい作品になっている所から

一般的には「文芸作品」の部類に入っているドラマでしたので

本作の前年の夏休み期に公開された
『君の名は。』のポジションに当たる作品として公開されながら

そのつもりで鑑賞すると
肩透かしを喰らう仕上がりになっている所や

一般的なアニメユーザー向きの内容では無かった事を
承知の上での公開となりながら
当然の様に興行的に惨敗を強いられた点に於いても


非常にユニークな存在の作品と言えるものがあります


この様な「文芸作品」に当たる分野の作品が実写ではなく
大作アニメとして映像化される背景には

ひとつには前年度の『君の名は。』の大ヒットの理由を考慮して
『君の名は。』に次ぐ様なビジュアルで

内容と性質の異なる作品を夏戦線にぶつけてヒットを狙う
戦略の一環があったと思われ


今や数兆円規模となったアニメ市場に於いて
多種多様なジャンルの作品が

ヒット作として排出されている実績と

実写を鑑賞するユーザーに比べて
アニメユーザーがカバーするジャンルの幅広さを

考慮した所による

数兆円規模へと肥大した市場に於いて
人気作品と呼ばれるヒット作の内容が似通う事で

既成のジャンルと化して乱立化する事による形骸化を見据えての
他作との差別化をする事でヒットに繋げる狙いがあっての上での
作品化では無いかと

感じるものがありました。





▲目次へ▲
■6.大根仁監督制作ドラマ『モテキ』第二話■


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深夜高速
上に乗るか
下に寝るか




さて、

この作品はDVDレンタルなどで容易に鑑賞可能なので
興味がある方は、お近くのGE○、T○TAYAなどを利用して
ご鑑賞いただくとして・・・


アニメ版で脚本を担当した大根仁 は自身の監督作だった
久保ミツロウ原作の人気作で2010年のドラマ『モテキ』の第2話で

『深夜高速〜上に乗るか 下に寝るか〜』というタイトルで
本作をモチーフにしたエピソードを撮っております。

その内容も
主人公演じる森山未來が満島ひかり演じる映画マニアの女性と共に
『打ち上げ花火・・・』のロケ地を巡るという

『打ち上げ花火・・・』マニア必見のコメディーで

なずなが路地の角から母親に追われながら走ってきて
家に連れ帰られる場面を、
細かく視点が変わるカメラワークを

嫌がるなずなの演技を満島ひかりを使って完璧に再現し

ラストはバスで森山と満島が「本当の別れ」の帰宅をするという
良く出来たオチまで付いた

『打ち上げ花火』愛(フリークとも言う)が満載の
ファン必見のエピソードになっていますw


しかしながらなんと、
このエピソードは岩井俊二には全く無許可で撮っていたばかりか

放送前日にYouTubeに『打ち上げ花火・・・』の本編を
『おさらい』と称して無許可でアップしたり とw


もしコレがどこかの大きい『書店』が相手なら
問答無用に『クビ』にされる様な

それ以前に訴えられたら賠償責任を追求されるか
下手をすればキャリアの全てを棒に降る事になる

業界人にあるまじき
驚くべきグレーな行動を取った所が、

フリークならではの混沌さなのですがw


これに輪をかけて『ぼくは怒らないよ』という
典道の有名なセリフを使った書き込みを
大根仁のTwitterに初対面で行った岩井俊二も岩井俊二でw

これに大根が 『怒るよっつ』となずなのセリフで返しw
なずなと典道の有名なセリフをSNS上に再現した

初対面で話した事も無い稀代の映像作家の二人が
ネットで思いもよらない邂逅を成し遂げるという

ドラマを知る者同士がネットを介して理解できるやり取りに
共に悦に入る監督二人は

実に 気持ち悪・・・阿吽の呼吸 なのですがW


只、このエピソードを含めてこの『モテキ』シリーズは性質上
下ネタや下品な台詞回しが多く使われ

監督大根仁のいわゆる「大根節」満載な
赤裸々で癖のある内容の為

ご家族で観るには全く相応しく無いドラマの為
注意が必要です とだけ

言っておきますW



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と言うわけで、

コロナ禍に加えて、高温注意警報で外出がままならない
今年の夏を、

岩井俊二作品を鑑賞しながら、記憶の忘却の彼方へと潜んだ
失われた子供の日々へと思いを馳せて、

夏の日のノスタルジックに浸るのも
一興かもしれません。

それでは、良い一日をお過ごしください☆

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【Blu-ray】打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?
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撮影時に岩井監督が実際に使用していた台本の縮刷版も封入。
台本は岩井監督直筆の演出メモや落書きも忠実に再現。
<内容>■[ディスク1] 本編 ■[ディスク2] 『少年たちは花火を横から見たかった』
■[ディスク3(CD)] 『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』
-Original Soundtrack-

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打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?
Fireworks,
Should We See It from the Side or
the Bottom?


■キャスト■
島田典道:山崎裕太
及川なずな:奥菜恵

安曇祐介:反田孝幸
和弘:ランディ・ヘブンス
純一:小橋賢児
稔:桜木研仁

三浦晴子先生:麻木久仁子
同僚教師:光石研
看護婦:植村結子
受付の看護婦:中島陽子
マコト:小山励基
おでん屋:こばさしせつまさ
典道の父:山崎一
典道の母:深浦加奈子
祐介の父:田口トモロヲ
なずなの母:石井苗子
安さん:酒井敏也

露店の客:蛭子能収

□スタッフ□
■プロデューサー:原田泉
■監督/原作/脚本:岩井俊二
■助監督:桧垣雄二 / 行定勲 / 島田剛
■撮影:金谷宏二
■音楽:REMEDIOS
■企画:小牧次郎 / 石原隆
■制作:フジテレビ/共同テレビ

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打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?
Fireworks,
Should We See It from the Side or
the Bottom?


■声の出演■
及川なずな:広瀬すず
島田典道:菅田将暉

安曇祐介:宮野真守
田島純一:浅沼晋太郎
和弘:豊永利行
稔:梶裕貴
なずなの母の再婚相手:三木眞一郎
三浦晴子先生:花澤香菜
光石先生:櫻井孝宏
典道の母:根谷美智子
典道の父:飛田展男
祐介の父:宮本充
花火師:立木文彦
看護師:斎藤千和、嶋村侑
屋台の兄ちゃん:新垣樽助
レポーター:種崎敦美
アナウンサー:井之上潤
生徒:小原好美、廣田悠美 / 内田修一

なずなの母:松たか子

□スタッフ□
■原作:岩井俊二
■総監督:新房昭之
■監督・絵コンテ・美術設定:武内宣之
■脚本:大根仁
■キャラクターデザイン:渡辺明夫
■CGプロデューサー:西川和宏
■総作画監督:山村洋貴

■美術原案: 秋山健太郎
■美術デザイン:田中直哉
■美術監督:飯島寿治 / 宮越歩 / 船隠雄貴

■音楽:神前暁

■色彩設計:日比野仁 / 滝沢いづみ
■撮影監督:江上怜 / 会津孝幸
■編集:松原理恵
■音響監督:鶴岡陽太
■配給:東宝

■企画・プロデュース:川村元気
■エグゼクティブプロデューサー:古澤佳寛
■アニメーション制作:シャフト

■製作「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」製作委員会
(東宝 / アニプレックス / シャフト / KADOKAWA / トイズファクトリー
ジェイアール東日本企画 / ローソンHMVエンタテイメント / LINE)

■主題歌「打上花火」
作詞・作曲:米津玄師 / 編曲:米津玄師、田中隼人 / 歌:DAOKO×米津玄師

■挿入歌「Forever Friends」
作詞・作曲:REMEDIOS / 編曲:神前暁 / 歌:DAOKO

■劇中歌「瑠璃色の地球」
作詞:松本隆 / 作曲:平井夏美 / 編曲:神前暁 / 歌:及川なずな(CV. 広瀬すず)

■公開:2017年8月18日

N『間違いなく前年度国民的大ヒットをした
「君の名は。」の後追いヒットを目指した
思惑アリな企画だったと思われるけれど
「君の名は。」を期待した鑑賞層と
「化物語」「まどマギ」の「新房節」を
期待したファンにとっては
ビジュアルが良いダケの退屈な文芸作品と
なったのかもねぇ・・・』



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オリジナル・サウンドトラック

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最終更新日  2023年09月12日 06時34分00秒
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