『スピリットベアにふれた島』ベン・マイケルセン 、原田勝訳、すすき出版、初版2010年、9月15日
本書『スピリットベアにふれた島』は、中学生の息子が、夏休みの感想文を書くために読んだ本を、後で私が借りて読んだ。『スピリットベアにふれた島』は、2011年の中学生の課題図書に指定されている。
本書の主人公は、アメリカのミネソタ州ミネアポリスに住む15歳の少年コール・マッシューズだ。彼は、人生のほとんどを警察とかかわってきた。いわゆる不良だ。これまで、金持ちの父が弁護士を雇い、どれもたいしたとにならずに済んできた。
ところが、今回、クラスメートのピーターに後遺症が残る大けがをさせてしまった。このまま裁判を行えば、懲役刑になる。
そこで、ミネアポリスの保護観察官ガーヴィーが、アラスカ州のある無人島で1年間暮らせば、刑務所に入らなくてもすむようにしてくれた。
本書は、その島での生活を通して、コールが立ち直ってゆく姿を描いている。
なぜ、コールは刑務所に入らなくてすんだのか。それはサークル・ジャスティス(正義の輪)という制度のためだ。本書はこの制度の紹介を兼ねている。
北アメリカの原住民は、いうまでもなくインディアンだ。彼らが行なっていた制度で、事件の関係者が集まって、罪を犯した者をどう立ち直らせてゆくかを話しあい、その計画を実行してゆくのだ。本書の翻訳者である原田勝氏によれば、現在、アメリカで試験的に行われている州が増えているという。
島に渡ると、コールのために小屋が作られていた。しかし、コールはランプ用の白ガソリンをまいて、燃やしてしまう。そして、泳いで島からの脱出を図った。
つまり、コールはまったく自分の行ったことを反省していないのだ。刑務所に入るのを逃れるために、サークル・ジャスティスで、反省しているようなふりをしただけだった。
ところが、海に出たコールは、潮の流れに押し戻されて島に戻ってしまった。
島に戻るとスピリットベアと呼ばれる白熊が現れ、コールはナイフと木の枝を削った槍を武器に戦いを挑んだ。もちろん、熊の勝ちだ。コールは体中、熊の爪で深手を負い、ろっ骨をはじめ骨も何本か折れた。その場に倒れ込んで身動き一つできない状況になった。排泄物はすべて垂れ流した。
絶体絶命のピンチが訪れた。このままでは死んでしまう。そして、時間をかけて死と向き合ったコールは変わった。
一方、ピーターの方はどうか。精神的に不安定な状況が続き、自殺未遂を2回引き起こした。父親は保護観察官ガーヴィーの意見を入れ、コールと向き合わなければ息子はよくならないと判断し、ピーターをコールが生活する島に行かせることにした。
コールとピーターがいかに、成長してゆくかも、読みどころのひとつだが、死と向き合うコールのたたかいも読ませる。
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