ひと声高く
空蝉も聴いているかや明日の分うつせみもきいているかやあすのぶん蝉の声というものはもうかれこれ半世紀以上も毎年 同じように耳にしてきているのにその年の蝉の鳴き声はその年に初めて聞くような感覚がある去年の蝉と今年の蝉は同じではないからそれは当たり前のことだけれど土中で暮らしてきた蝉の幼虫に比べ地上に現れた成虫の生存期間はまことに短いそいうことを知らなければまた別の響きで耳に聞こえたかもしれない木の枝でもう明日はないというような勢いで一生懸命に腹を震わせている蝉がいる限られた時間で子孫を残さねばならないその本能のような必死さはどこから来るのだろう生命の神秘の不思議さに哀れみを覚えるのは自分が単に年をとったせいだけかもしれないけれど