新 米
田舎の親戚から今年も新米が届いた。30キロ袋入り。担ぐと、作った人の重みがずしりと肩にかかる。お米ってこんなに重かったんだ。そういえば、昔、お前の手はお父さんそっくりやなあ、と親戚のおじさんに言われたことがある。ゴツゴツとして大きい。学校のころは、クラスで一番大きかった。その父の手にはひとつの特技があった。こぶしを握るようにして指の関節をポキポキと鳴らす。それぞれの指ごとに音があった。 子供のころ、夜、寝るときに指を鳴らしてくれた。僕は手の中に何か持っていると思い、それちょうだいと、父の手の指を一本ずつ広げた。中にはなんにもなくて、父はただ笑っていた。そんな父の手が僕は大好きだった。盆と正月に出稼ぎから帰ってきた父が、頭を撫でてくれた手。腕相撲に両手でかかっても敵わなかった手。 いつの頃からか、僕の手の指も、父と同じように鳴るようになった。それから何十年もして、父は病院のベッドに横たわる人となり、耳元で呼びかけてもなんの反応もなくなった。手を握るとわずかに握り返してきた反応も、末期の頃になるとそれもなくなった。息を引き取る前の日、力なく空をつかむ父の手の指を、僕は一本ずつ広げてみた。あれだけ大きかった父の手は、もう関節に皮が張り付いているだけだった。子供の頃には、なんにも出てこなかった手の中から、熱いものが洪水のように溢れ出てきた。いつもポキポキポキと、新聞を読みながら鳴らしていた父の手。 今でも、僕の両腕の先にある。