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カテゴリ:本・読書
主人公の木原は片説家である。
小説家が不特定多数の読者へ向けて書くのに対し、片説家はただ一人を満足させあるいは癒す目的で書く。 時に分業で、時に過去の名作からの流用も辞さず。 その片説を扱う会社を27歳の誕生日にクビになった瞬間から、木原は文字を読むことも書くことも出来なくなってしまう。 そんな彼のもとを訪れた配川ゆかりと名乗る女性は、唐突に二つの依頼を寄こす。 その1、「私のために小説を書いてほしい。」 その2、「妹に渡した片説の原稿を読ませてほしい。」 文字に裏切られた(あるいは裏切った)状況でどうしたらよいかわからずとりあえず、ホテルの部屋に籠ることにしてみたが・・・ *** そこから始まるミステリーで文学的で形而上学的な展開に翻弄された後、きっとあなたは強烈に本を読みたくなる、片っ端から読みたくなる、できれば全部を読みたくなるに違いない。 独特の繰り返しを特徴とする修辞(上の文はちょっとそれを真似てみました)は癖が強いけれど、30頁目と200頁目のリフレインにはぐっときたね。 *** さて、本質的にこれはなんなのかというのは読み終わって、さらにこうやって書いてみても正直よくわからない。 メタ小説? 現代の作家が、書くことの苦悩で川上眉山や火野葦平にならないための処方箋? まあ読む側としてはお気楽に、明治以降の文学の蓄積をぼんやりとかつ無責任に俯瞰してファンタジー&ミステリーってことでも、地下に落とされたりはしないとは思うので、安心して読むがよろしかろうと。 *** 蛇足だろうと思いながら一つ思うこととして、 なかなかに挑発的な表現で2007年三島由紀夫賞を最年少で受賞した著者が、オンラインで誰でも小説を発表できる現状をどう見ているか、というのは是非聞いてみたい気はする。 呪文度★★★★☆ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2020/06/20 11:38:11 PM
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