和邇乃児之庭

2021/05/16(日)23:18

アラビアの夜の種族 / 古川日出夫

本・読書(690)

文庫で3巻になる長篇ながら、最後まで飽きることなく読みきれる上質エンターテイメント。 進行するナポレオンを撃退するため、エジプトのマルムーク朝第三位のイスマイールは、武力ではなく「災厄の書」を用いる事を決める。 一度読み始めれば、そのあまりの面白さにとりこまれ、他に何もできなくなるという呪いをまとった魔性の書物。ただし、その書はまだ存在していない。 これを提案し、語り部を探し出してきたのは、イスマイール・ベイが最も信頼を置く奴隷秘書アイユーブ。 この日から、語り部ズームルッド、書家と助手、そしてアイユーブの4人は「夜の種族(Nightbleeds)」となって眠らぬ夜を過ごす。 夜毎語られる、古代の蛇神をとりまく剣と妖術の物語。 その結末とは。 *** 結末は、語り部が語る物語の結末と、ナポレオンを迎え撃つエジプトの物語の両方を意味するわけだが、小説の多重性は実はそこで終わりではなかったりする。 ストーリーの展開や細部の拘り、仕掛けの見事さにも驚かされるが、個人的に一番はまったのは地下世界のコンセプトとその描写。 特に最深部の夢の石室、幻想の森のありようは人間の感性の限界を超えてるんじゃないかと思ってしまう。 とはいえ、万人に勧められるかと問われると微妙ではある。 いうても長いからねぇ。 唯一性度★★★☆☆ ​​​​​

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