エンジェルフライト 国際霊柩送還士 / 佐々涼子
海外で亡くなった邦人を日本の遺族の元に戻す、そういう専門の仕事があるということも初めて知った。宗教も文化も治安も日本とは異なる、遺体に対する考え方も違うし。エンバーミングの技術レベルも違う。そんな中でできる限りきれいな姿で、できるだけ速やかにご遺体を送り届けるのが彼らの仕事。彼らが運ぶのは、事故やテロ、災害や急病などで予期せぬ死に見舞われた人たちだ。当然残された家族は、容易にその事実を受け入れることはできず、ましてや遺体が戻らないとなれば、本当にあの人は、あの子は死んだのだろうかと心は彷徨い続ける。生前に近い姿で戻ってきて、葬儀という儀式を経て、そうやってなんとか遺族が心のけじめをつけることができるわけだ。一旦引き受ければ朝も夜もない、凍るような環境でエンバーミング処理をすることもある。現場は過酷だが彼らに悲壮感はない。姉御肌の社長と職人気質の社員たち、ノンフィクションなのに小説のようだ。遺体を扱う仕事であり、遺族の心情は第一優先である故、著者と取材対象者であるエンジェルハース社の経営者・スタッフも、これ以上は近づかない・近づいてはいけないという距離もある。互いにプロとしての矜持と、著者の迷いも本の中では正直に書かれている。これはドラマの方では読み取り様のない視点でもあるので、ドラマを観て感動した人も是非読んでほしい。2012年第10回開高健ノンフィクション受賞作。著者は昨年脳腫瘍で亡くなっている。56歳、まだまだ活躍してほしいライターだった。ドラマ版の主演は米倉涼子。偶然だが著者と同じ名前だ。エンジェルフライト 国際霊柩送還士 (集英社文庫(日本)) [ 佐々 涼子 ]棺は遺体が入っていない状態の入れ物柩は亡骸が納められた状態のこと。そんな使い分けがされていることも初めて知りました。