土曜夜その2、渋谷の交番にて
まさか落としたカード入れが、そのまま夜の渋谷の路上に落ちているはずは無い。そうは思いつつ、あきらめきれずに私は来た道を引き返しました。あっ?! と思って近づくと、ゴミ。 紙くず。 吸殻。あるわけ、無いよね。ようやっとスタジオ附近まで登ってきました。 渋谷はほんとに坂が多い。駅は谷にあるので、渋谷のどこにいても下へ下へと下っていけば、とにかく駅へ辿り着けるんだ、って誰かが言っていました。さて最後の望み。スタジオへと下りる階段。 無い。そして、スタジオのロビー。無い。私はフロントのお兄さんに落し物が届けられてないか、尋ねてみました。無い。出てきた場合には連絡します、と言われたので電話番号を書いて置いてきた。スタジオの中ではまだ 仲間のメンバーが練習しているはずです。でも、中には絶対に落として無いと確信があったので、練習の邪魔にならぬよう、そのままスタジオを後にしました。 渋谷でスタジオの後って、いつもロクなことがありゃしない。深夜超特急事件もあったし。もういい大人なんだから、いろいろ注意しないとダメじゃん!と、自分に腹が立つ。異常な疲れを感じてとぼとぼと歩いていくと、急に交番が目に飛び込んできました。さっき電話でダンナが「一応遺失物届けを出しなよ。」と言ってたっけ。そのときは「出したって見つかるわけ、ないよ。」と内心思いましたが、通りがかりだし、と思って飛び込みました。「では、この届けに記入してください。」はい。 めんどうくさいけれど、重いシンセを置いて椅子に座れるので、ちょっと一息つけます。狭い交番の中にはおまわりさんが3人。私は壁を向いて住所・氏名・落とした場所と時間・落とした物と中身・・・をのろのろと書き込みながら、次から次へと飛び込んでくる人の声や外の雑踏を聞くともなく聞いていました。夜の渋谷の交番って、面白い。人間観察してたらドラマがいくらでも書けそうだ。「一円ラーメンってどこですか?」「この辺で生で音楽を聞きながら静かに話せる店って、ありませんかね?」etc.,etc.,.........と、ダンナから携帯に電話がかかってきました。クレジットカード、すぐにストップできたそうです。よかった。。。これで、拾われても使われる心配は無い。莫大な金額の請求明細書の心配は少し無くなったけれど、落し物をしたというショックと落胆は やっぱり消えません。すると背中越しに「えー…、 名前はふきょう・わおん… 中身は…」?!!!突然、自分の名前が聞こえてきた。思わず、「はい! はい! はい! それ私です! 私、不協和音です!」 と叫んでいました。「えええ???」 おまわりさんも、びっくりです。なんと!誰かが私のカード入れを拾って届けてくれていたのでした!