277988 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

Over The Moon.

Over The Moon.

【る】

【る】「ルパートさん、出番です。」  ★ジャンル等★・・・ファンタジー・軽め



 商業都市の喧騒の中を、場違いな兄弟が歩いていく。

「うっはぁ・・・」
 うんざりしたように、ルパート。

「兄たんため息よくないよー」
 すかさずとがめる、アベル。

 ルパートは首をひねってアベルを見下ろす。

「だってお前そりゃ・・・しょうがねぇだろ」
「しょうがなくない」
アベルが見上げる。
「ため息は幸せ逃げるってきったんが言ってた」
「あのばばぁの言葉は聞くな」
「ばばぁ言うと追い出されるよー」
「うっはぁ・・・」
「よくないってばー」

 ルパートは弟の助言に耳を貸さず、たらたらと街道を歩いた。

 この商業都市は砂漠の行商人が集うところで、そこかしこで取引が行われている。
露天のように品物を売りさばくものもいれば、
人を集めて簡易オークションを開いているものもいる。
とにかく街は活気にあふれていた。
 けれど手持ち金のない者にとってみれば、活気も何もあったものではない。

「アベル」
「なに?」
「キリヤに幾ら滞納してる」
「えーと・・・」

 アベルは視線を斜め上にやりながら、小さい指を一本ずつおっていく。

「6日分」

「・・・」

「ため息はだめだよ兄たん」

ルパートはため息の代わりに、

「最悪・・・」

言葉にして心中を吐き出した。

 有り金をすべてすられたのは2日前。
兄弟で仕事をしてきて稼いだお金だった。
二人とも贅沢はしないのでお金は腐るほど持っていたが、
逆にお金に困ったことがなかったので、いざなくなるとその有難さが身にしみた。
 そしてこの街のねぐらにしているキリヤの宿の家賃は、6日ごとに支払う決まりとなっていた。

「仕事ねぇかな・・・」
ぽつりとつぶやく。

 そのとき。

「あ」

アベルが首に下げて持つ、大きな青い珠が赤くなった。

「ん」
それに気づいたルパートが、そちらを見たそのとき――


「う゛ぁああぁぁぁ――――――!!!!!」

がしゃこーん。



 頭上で悲鳴。何かが割れる音。
 一瞬にして張り詰める空気。

「「・・・」」

兄弟は顔を見合わせる。

「・・・兄たん」

「出番だな」


 何だ何だと上を見上げる人々の合間をぬって、二人はすさまじい速さで悲鳴の聞こえた建物を上っていった。
そこは単なるアパートだったが、おかまいなしに踏み込んでいく。
「ひいぃ、ひいっ、ひいぃぃぃ―――!!」
声が近くなる。

「3階だな」
「みたいだね」

 そして問題の部屋にたどり着いた。

「うわぁぁぁっっっ!!」

ドアの向こうから声がするのを確認して、勢いよくドアを開ける。
 そこに見えた光景は、「想像通り、想像を絶する」光景だった。

 部屋の右手に座り込む男。
ターバンがずれ、服の生地が破け、その表情には恐怖の色が浮かんでいる。
 そして問題の、部屋の左手にあらわれているもの。
それは歪んだ空間の中から出現した、招かれざるものの姿だった。
巨大な真っ黒の薔薇が浮かんでいて、黒い液体をたらしながら茨のとげを男に向けて差し伸べている。
速度はひどくゆっくりだったが、だからこそ、おぞましい。

「アベル」
「うん」

 アベルはててててと男の元へ走っていった。
ルパートはというと、男と巨大黒薔薇の間に入って腰に下げたビンを取り出した。

 まっすぐ薔薇に対峙し、そのビンのコルク栓をぬく。

「“ヴェリティ”」

つぶやき、そこに入った水をなぎ払うようにして薔薇にかける。

 すると水がかかった部分がプリズム状の光を放ち、灰色の水蒸気をあげた。
そして光の部分が震えだし、次の瞬間、ルパートが持つビンの中へ他の黒い部分も引きずり込むようにして、吸い込まれていった。

「・・・」

 あとにはただ、割れた植木鉢が残るのみだった。
「大丈夫?」
 アベルがようやく男に声をかける。
男は目をしばたたかせて呆然としていた。
ルパートはコルク栓を閉めて、その上に小さなお札をはり、腰につけた。
「い、今のは・・・」
男がようやく口を開く。
 ルパートは振り返った。

「今のは“ウルスラの悪魔”
「とり憑かれたんだよ。おじさんの薔薇」

「・・・」
男は信じられない、といった顔をしていた。
「お祓いしてもらった?」
 アベルの質問に男は首を振る。
「植物だからって、油断してちゃだめだよぅ」
アベルは少し悲しそうに言った。
 ルパートはまだ呆然としている男に、淡々と告げる。

「最近悪魔の感染力が早く強くなってるんです。お触れは出てたと思います。しかも今みたいに突然発症するんです。
 今の奴がまだ弱くて、動き鈍かったのが幸いでしたね」

 男はうなだれた。

「大切なものほど感染しやすい。
 なくしたくないものなら、守る努力をしてください」
ルパートはそう付け加えた。
その左手に、“祓い師”の指輪が光っていた。




 捕まえた悪魔は弱くても、高値で取引される。

「きったん、いつもありがとぉー」
「まーアベルちゃん、ありがとねー。はい、確かに」

キリヤはアベルの差し出した金貨袋を受け取った。
報酬は丁度宿の6日分に相当した。

「焦ったぜ今回はー」
 ルパートはふいーと額の汗をぬぐった。
「あらそんなに大きかったのかい?」
キリヤが尋ねると、
「いや別の意味で・・・」
と言葉を濁した。

「兄たんこないだお金取られたの」
「まー」
「ハユ街で」
「ばっ、アベル」

ルパートは馬鹿正直に言う弟をとがめたが、遅かった。
ちなみにハユ街とは、いわゆるいかがわしげなお店が立ち並ぶ裏街道のことである。

「・・・」
 キリヤがルパートをにらむ。
「・・・どうしてアベルちゃんにそういう単語を覚えさせるんだい!教育上よくないだろう!?」
「しょーがねーだろばばぁ」
「ばばぁ呼ばわりするんじゃないの! あー、一辺悪魔に取り憑いて性根たたきなおしてもらったら!?」
「冗談でも勘弁だっつの!」
 ルパートはさっさと宿の階段を上がっていた。

「なーんてひどい兄さんなんだい!?」
「でも兄たん優しいよ」
 アベルはけろりと言った。
「兄たん、僕のためにいろいろ頑張ってくれてる」
「んまぁ・・・」

 キリヤはアベルを見下ろし、その頭をなでる。
「いいこだねぇ。兄さんをちゃーんとフォローするなんてさ」

アベルは続けた。

「それに兄たんが頑張ってるから、悪魔、あんまり騒ぎにならないんだよ。ハユ街に行ったのも、そこにウルスラの悪魔がいたからなんだ。ほんとだよ」

「うん。分かってるさ」
キリヤは微笑んでその場でしゃがみ、アベルと同じ目線を取る。

「あたしもあんなこと言ったけどさ、ルパートの性根がまっすぐなことくらい知ってるよ。
 ルパートやアベルちゃんがこうして頑張ってるから、悪魔は顔を出さないこともちゃーんと分かってる」

そしてルパートが駆け上がっていった階段の先を見上げた。

「もしルパートの出番がなくなったら、この世は本当に平和になったって事なんだろうねぇ・・・」

 アベルも黙って階段を見上げてから、キリヤのほうを見た。

「僕も上行く」

「そうかい、もうお休みの時間だね。ゆっくりしなよ」

「うん。おやすみなさい」

 アベルはその小さな手を振って、そっと階段を上がっていった。その後姿を、キリヤがやさしく見守る。

 遠くで奏でられる見世物の音楽が聞こえるくらい、それはそれは静かな夜だった。



+++Fin.+++




+・・+・・+・・+・・+・・+



題目を最初見たとき
「ルパートって誰だ。」から始まりましたからね。
突っ込みどころは色々ありますが、大目に見てください。
地の文とかあんまり工夫してないし~ああ~。
まあ、所詮エセファンタジーですから(おい)。


●●●読んだらぜひ感想下さい!!!●●●
   >>A)掲示版 行きます!
   >>B)メッセージフォームで!

目次に戻る



© Rakuten Group, Inc.