【る】【る】「ルパートさん、出番です。」 ★ジャンル等★・・・ファンタジー・軽め商業都市の喧騒の中を、場違いな兄弟が歩いていく。 「うっはぁ・・・」 うんざりしたように、ルパート。 「兄たんため息よくないよー」 すかさずとがめる、アベル。 ルパートは首をひねってアベルを見下ろす。 「だってお前そりゃ・・・しょうがねぇだろ」 「しょうがなくない」 アベルが見上げる。 「ため息は幸せ逃げるってきったんが言ってた」 「あのばばぁの言葉は聞くな」 「ばばぁ言うと追い出されるよー」 「うっはぁ・・・」 「よくないってばー」 ルパートは弟の助言に耳を貸さず、たらたらと街道を歩いた。 この商業都市は砂漠の行商人が集うところで、そこかしこで取引が行われている。 露天のように品物を売りさばくものもいれば、 人を集めて簡易オークションを開いているものもいる。 とにかく街は活気にあふれていた。 けれど手持ち金のない者にとってみれば、活気も何もあったものではない。 「アベル」 「なに?」 「キリヤに幾ら滞納してる」 「えーと・・・」 アベルは視線を斜め上にやりながら、小さい指を一本ずつおっていく。 「6日分」 「・・・」 「ため息はだめだよ兄たん」 ルパートはため息の代わりに、 「最悪・・・」 言葉にして心中を吐き出した。 有り金をすべてすられたのは2日前。 兄弟で仕事をしてきて稼いだお金だった。 二人とも贅沢はしないのでお金は腐るほど持っていたが、 逆にお金に困ったことがなかったので、いざなくなるとその有難さが身にしみた。 そしてこの街のねぐらにしているキリヤの宿の家賃は、6日ごとに支払う決まりとなっていた。 「仕事ねぇかな・・・」 ぽつりとつぶやく。 そのとき。 「あ」 アベルが首に下げて持つ、大きな青い珠が赤くなった。 「ん」 それに気づいたルパートが、そちらを見たそのとき―― 「う゛ぁああぁぁぁ――――――!!!!!」 がしゃこーん。 頭上で悲鳴。何かが割れる音。 一瞬にして張り詰める空気。 「「・・・」」 兄弟は顔を見合わせる。 「・・・兄たん」 「出番だな」 何だ何だと上を見上げる人々の合間をぬって、二人はすさまじい速さで悲鳴の聞こえた建物を上っていった。 そこは単なるアパートだったが、おかまいなしに踏み込んでいく。 「ひいぃ、ひいっ、ひいぃぃぃ―――!!」 声が近くなる。 「3階だな」 「みたいだね」 そして問題の部屋にたどり着いた。 「うわぁぁぁっっっ!!」 ドアの向こうから声がするのを確認して、勢いよくドアを開ける。 そこに見えた光景は、「想像通り、想像を絶する」光景だった。 部屋の右手に座り込む男。 ターバンがずれ、服の生地が破け、その表情には恐怖の色が浮かんでいる。 そして問題の、部屋の左手にあらわれているもの。 それは歪んだ空間の中から出現した、招かれざるものの姿だった。 巨大な真っ黒の薔薇が浮かんでいて、黒い液体をたらしながら茨のとげを男に向けて差し伸べている。 速度はひどくゆっくりだったが、だからこそ、おぞましい。 「アベル」 「うん」 アベルはててててと男の元へ走っていった。 ルパートはというと、男と巨大黒薔薇の間に入って腰に下げたビンを取り出した。 まっすぐ薔薇に対峙し、そのビンのコルク栓をぬく。 「“ヴェリティ”」 つぶやき、そこに入った水をなぎ払うようにして薔薇にかける。 すると水がかかった部分がプリズム状の光を放ち、灰色の水蒸気をあげた。 そして光の部分が震えだし、次の瞬間、ルパートが持つビンの中へ他の黒い部分も引きずり込むようにして、吸い込まれていった。 「・・・」 あとにはただ、割れた植木鉢が残るのみだった。 「大丈夫?」 アベルがようやく男に声をかける。 男は目をしばたたかせて呆然としていた。 ルパートはコルク栓を閉めて、その上に小さなお札をはり、腰につけた。 「い、今のは・・・」 男がようやく口を開く。 ルパートは振り返った。 「今のは“ウルスラの悪魔”」 「とり憑かれたんだよ。おじさんの薔薇」 「・・・」 男は信じられない、といった顔をしていた。 「お祓いしてもらった?」 アベルの質問に男は首を振る。 「植物だからって、油断してちゃだめだよぅ」 アベルは少し悲しそうに言った。 ルパートはまだ呆然としている男に、淡々と告げる。 「最近悪魔の感染力が早く強くなってるんです。お触れは出てたと思います。しかも今みたいに突然発症するんです。 今の奴がまだ弱くて、動き鈍かったのが幸いでしたね」 男はうなだれた。 「大切なものほど感染しやすい。 なくしたくないものなら、守る努力をしてください」 ルパートはそう付け加えた。 その左手に、“祓い師”の指輪が光っていた。 捕まえた悪魔は弱くても、高値で取引される。 「きったん、いつもありがとぉー」 「まーアベルちゃん、ありがとねー。はい、確かに」 キリヤはアベルの差し出した金貨袋を受け取った。 報酬は丁度宿の6日分に相当した。 「焦ったぜ今回はー」 ルパートはふいーと額の汗をぬぐった。 「あらそんなに大きかったのかい?」 キリヤが尋ねると、 「いや別の意味で・・・」 と言葉を濁した。 「兄たんこないだお金取られたの」 「まー」 「ハユ街で」 「ばっ、アベル」 ルパートは馬鹿正直に言う弟をとがめたが、遅かった。 ちなみにハユ街とは、いわゆるいかがわしげなお店が立ち並ぶ裏街道のことである。 「・・・」 キリヤがルパートをにらむ。 「・・・どうしてアベルちゃんにそういう単語を覚えさせるんだい!教育上よくないだろう!?」 「しょーがねーだろばばぁ」 「ばばぁ呼ばわりするんじゃないの! あー、一辺悪魔に取り憑いて性根たたきなおしてもらったら!?」 「冗談でも勘弁だっつの!」 ルパートはさっさと宿の階段を上がっていた。 「なーんてひどい兄さんなんだい!?」 「でも兄たん優しいよ」 アベルはけろりと言った。 「兄たん、僕のためにいろいろ頑張ってくれてる」 「んまぁ・・・」 キリヤはアベルを見下ろし、その頭をなでる。 「いいこだねぇ。兄さんをちゃーんとフォローするなんてさ」 アベルは続けた。 「それに兄たんが頑張ってるから、悪魔、あんまり騒ぎにならないんだよ。ハユ街に行ったのも、そこにウルスラの悪魔がいたからなんだ。ほんとだよ」 「うん。分かってるさ」 キリヤは微笑んでその場でしゃがみ、アベルと同じ目線を取る。 「あたしもあんなこと言ったけどさ、ルパートの性根がまっすぐなことくらい知ってるよ。 ルパートやアベルちゃんがこうして頑張ってるから、悪魔は顔を出さないこともちゃーんと分かってる」 そしてルパートが駆け上がっていった階段の先を見上げた。 「もしルパートの出番がなくなったら、この世は本当に平和になったって事なんだろうねぇ・・・」 アベルも黙って階段を見上げてから、キリヤのほうを見た。 「僕も上行く」 「そうかい、もうお休みの時間だね。ゆっくりしなよ」 「うん。おやすみなさい」 アベルはその小さな手を振って、そっと階段を上がっていった。その後姿を、キリヤがやさしく見守る。 遠くで奏でられる見世物の音楽が聞こえるくらい、それはそれは静かな夜だった。 +++Fin.+++ 題目を最初見たとき 「ルパートって誰だ。」から始まりましたからね。 突っ込みどころは色々ありますが、大目に見てください。 地の文とかあんまり工夫してないし~ああ~。 まあ、所詮エセファンタジーですから(おい)。 ●●●読んだらぜひ感想下さい!!!●●● >>A)掲示版 行きます! >>B)メッセージフォームで! →目次に戻る |