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詩人たちの島

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September 23, 2004
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一年の一日一日はどれも、ただひとり―いちばん幸せな人間にだけ与えられた贈り物なのだ。他の人たちもみんなその人の日を使って、晴天を喜んだり雨に腹を立てたりするのだが、その一日が本当はだれのためのものなのかまるで知らない。そしてこの日を所有する幸せ者にとっては、だれもそれを知らないことが心地よくて楽しいのだ。自分が引き当てるのは本当はどんな日なのか、どんな些細なことが後々まで思い出に残ることになるのか―水際に立つ壁に映る光のさざ波なのか、それともくるくる回って落ちる楓の葉なのか、人はあらかじめ知ることはできない。しかも、後から考えてみてようやく自分の日がそれとわかったときには、その忘れられた日付の入ったカレンダーの紙片はずっとまえに破り取られ、丸められて机の下に捨てられてしまっている、などということもよくあるのだ。
(「じゃがいもエルフ」 ― ナボコフ)

というような一節を見つけたら書き写しておぼえておきたくなる。深夜、あまりいい思いでないような思い、恥ずかしくて人には言えないような思いなどが坂道を転げ落ちるようにわが身と心に取りつくようなときに、こういう一節は、悪魔祓いの護符のようでもある。馬鹿な思いから離れて、耳を澄ませば秋の虫もひそやかに鳴いているではないか。

「いちばん幸せな人間」と自らを感じることができないのが人生のなかにある人間だ。「人生」という脚本家はそのためにあらゆるプロットを作り出し、終わることのないドラマを人生自らのために案出し続けている。不幸や悲劇の味ほど美味いものはないからだ。

冷ややかな秋の冷気を伴奏にして鳴いている虫たちの音楽、ときおり聞こえる自動車の音が現実の時間を刻むのに逆らって、虫たちは彼らだけの夜を歌っているのだ。夜が明けるまでの時間のなかに深くもぐりこみ、カレンダーの日付をなにか朗らかな「無」に変えようとしている。静寂と演奏を繰り返しながら、明日という繰り返しに巻き込まれない「ほんとうの夜」がそこにはある。

寝るのが惜しい。でも寝なければならない。隣家の物音が私を現実にもどす。それでも明日が贈り物のような「日」であることを願いつつ。そういう日があることを、あるいはあったことを忘れないように。





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Last updated  September 24, 2004 01:47:25 AM
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船津 建@ Re:Die schlesischen Weber(シレジアの職工)(05/25) 引用されている本にはかなり重大な誤訳が…
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