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詩人たちの島

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November 11, 2005
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カテゴリ:作物
そのとき私は

「……その時私はサワンの甲高い鳴き声を聞きました」
そこで、教室右側の女生徒が甲高い悲鳴を発しました
今日の四時限目の現国の授業のときでした
私は彼女を叱りつけました
すると次々と教室のあちこちで女生徒たちだけが悲鳴をあげ
「こわい、いやだあ……」などと叫び、しまいには泣き出すものもいます
窓の外には澄みわたった秋の空が拡がっている
私は途方にくれました
男子生徒は痴呆のように口を開けています
そのときの私も傍から見れば彼らとかわりはなかったでしょう
「……その時私はサワンの甲高い鳴き声を聞きました」
もう一回今度は声を小さくして私は読みました
静かになったようです
最初に悲鳴を発した明日菜を見ると、目に一杯涙をためています
真ん中のまどかを見ると後ろの彩を向いて何か喋っているようです
「まどかどうしたのか、先生は怒っているのではない、
なぜ明日菜たちは泣いているのか説明しなさい」と
私は怒りを押し殺して妙に陰気な声で訊いたのです
するとまどかが激しく泣き出しました
ついに馬鹿な男子生徒たちも泣き出しました
教室中が動物の鳴き声に満たされているのではないかと錯覚するほどです
犬のように吠えているのは漢字の小テストで満点をとったためしのない省吾です
収拾がつかなくなりそうでした
―私は窓を開いてみました―
澄みわたった秋の空が鮮血をめぐらしているのです
窓枠を持った私の手が真っ赤に滲んでいきます
そのうち親指と人差し指の間に鋭い痛覚を感じました
見えないカミソリの刃で切り裂かれたようです
上空にはそこだけ深い青がたまっている小さな点のような場所がありました
毒々しい赤が拡がってゆく
そのとき私は振り向いて生徒たちを見るのが急に怖くなりました
血の滴る手が無意識のうちに持っていたテキストの次の行に目を移しました
「サワン!大きな声で鳴くな」と私は嘆願するように読みました
でも背後の騒ぎは私が鮮血の空を知覚した瞬間から
嘘のように恐ろしい静寂に変わっていたのです
だから私は怖かったのです
その怖さをまぎらすために、もう一度大声でしかも真剣に私は
「サワン!大きな声で鳴くな」と叫びました、怒りでも嘆願でもなく
そして凍りついたような時をなんとか動かそうとするかのように
体をねじって教室を見たのです
そのとき私の眼はただ私の影を認めただけでした
教室には人っ子一人いず
教卓のうえに
40名の名前の載った分厚い出席簿がかれらの形見のようにむなしく
置かれていただけでした





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Last updated  November 11, 2005 11:39:24 PM
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