詩人たちの島

寒い一日。休暇を取っていたが、どこに行く気も出ない。もったいない？からと強いて立川まで出かけた。大勢の人。オリオン書房に行き、２時間近く品定めをする。この夏までに読む本を購入しようという気構え。ふっとフーコーを読みたくなって、文庫のフーコーコレクションの最後の６「生政治・統治」というタイトルの本を買う。疲れて、頭がボーッとしてきたので、本屋を出て、ビックカメラの隣の安い喫茶店に寄る。そこでコーヒーと昼飯代わりにメロンパンを頼み、フーコーを読む。

一つは「啓蒙とは何か」と題された論文。カントの同名の本の哲学史上における重要性に触れながらも（「啓蒙」という概念のカント的な新しさ）、フーコーは自らの「私たち自身の批判的存在論」という考えを「啓蒙」に対置する。いや対置というのは正確ではない、現代における「啓蒙」のあり方を受け継いでいくときのフーコーの哲学的態度・エートスが「私たち自身の批判的存在論」という言葉で述べられるのである。次のように。

――　私は、一体私たちが成人になることがあるのかどうか知らない。私たちが経験してきた多くの事柄は、啓蒙の歴史的出来事が私たちを成人にはせず、私たちはまだ成人になってはいないのだと、思わせるものだ。しかしながらカントが啓蒙について反省することによって定式化した、―現在―および私たち自身についてのあの問いかけに、一つの意味を与えることは出来ると私には思えるのだ。私には、カントの啓蒙の問いが、一つの哲学する在り方、‥（略）を示しているものであるとさえ思われるのだ。私たち自身の批判的存在論、それを、一つの理論、教義、あるいは蓄積される知の恒常体とさえ見なすのではなく、一つのエートス、私たち自身のあり方の批判が、同時に私たちに課された歴史的限界の分析であり、同時にまた、それらの限界のありうべき乗り越えの分析でもあるような、一つの哲学生活として、それは理解されるべきなのだ。――石田英敬　訳

まあ、この訳をここだけ読んでも何のことを言っているのか私にも定かではないが、要するにカントの「啓蒙」への問いかけ、未成年状態を脱すること、己の理性の自由で公的な使用を可能にすること、それらをフーコー流に受け継げば、以上のようになるということだろう。コーヒーを飲みながら、私は結構この論文のすべてを理解していたつもりになっていたが、こうしてここに書いてみるとそれも定かではなくなる。その責めをいつものように、訳者の悪文のせいにしておく。「思わせるものだ」「思えるのだ」「理解されるべきなのだ」というような「だ」で止める文末の連発には驚かされた。他の文も大概そうなの「だ」。

こういうことなのだ。カントは「啓蒙」を義務、命法の形でSapere Aude(あえて賢くあれ)と呼びかけるが、フーコーはそれをもっと実験的な、限界的な、個別的な、日々の生き方の問題として具体的に作り変えていくべきだと考えているのである。というのが私の理解なのだ。

家に帰って、もう一編読んだ。タイトルがすさまじい。「汚辱に塗れた人々の生」（丹生谷貴志訳）。これは文句なく面白かった。フーコーのディスクールが、汚辱に塗れた人々の生とどういうように共鳴を起こすのか、そこに浸透しているものが何か、などなど。

この春は我にもなく哲学生活を演じたようである。そろそろ現実の汚辱に塗れた生が私を誘惑している。