白毫銀針
この気難しい友からその味を引き出すのに焦りは禁物。ゆっくりと時間をかけ、ほぐしてゆかねばならぬ。その無垢な若い芽を覆う真っ白な産毛に、柔らかなそして暖かな水を徐々に含ませ、そのなかで彼がその心を開いてゆくのをじっと待つのだ。彼は実に典雅でいて、しかししっかりとした自己を確立している。始めその気味は、君子の交わりのごとくにさっぱりとした、それでいてゆかしい蘭のごとき香気を含む。しかしその奥に、何時までも褪せぬ、いや時間を追うごとにさらに深くなるそれを秘めている。湯を注ぐほどに、彼のその強靭なボディは輝きを増し、ほのかな甘みを伴って、その存在をわたしに示すのである。よき哉。友の名は、白毫銀針という。*************************「玲姐、白椿さま、今日はお籠もりですって」「そうなの? じゃあ今日は、蓋椀で一日中へぬる~いお茶なのね」「どうして蓋椀なの?」「そりゃ、お茶葉も換えずにお湯を継ぎ足し継ぎ足ししてったら、一日中お茶が飲めるんだから、アタシたちとお茶するよりずっと面倒ないって思ってらっしゃるんじゃないの(フン!)。でもあの蓋椀、HERMESだかなんだか知らないけど、ちょっとナマイキだと思わない?」 「・・・ねえ、白椿さまって、お籠もりしてナニしてらっしゃるの?」「そうねぇ・・・、タブン、文筆活動じゃないかしら」「白椿さまって、モノカキなの?」「梨妹ちょっと・・・。もちっと側によって」「ナイショバナシね」「ジツはね、白椿さまがホントのところナニしてるヒトか知ってるヒトって、いなかったりするのよ。」「そうなの?」「トキドキ締め切りが・・・とか言って、ため息ついてらっしゃるコトあるけど、もしかしたら、袋張りの内職かも・・・」