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イルカとの出会い 1

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イルカとの出会い その1




当時、ボクは赤坂に勤める会社員でした。

イルカとの出会いはハワイ。


それより以前にも、ちょっとイルカに興味をもった時期がありました。

大学時代、なぜか「ヒトのルーツ」というテーマに夢中になって、

「アクアティック・エイプ」という説を随分と調べました。

人間の祖先は、一部の霊長類が乾燥化によって森林(棲み家)を失い、

海に活路を見出した連中が、海中生活に適応して進化した姿では? という説です。

イルカも、同じように陸上で四つん這いになっていた動物が、

人間より何千万年も前に海に戻った連中です。

「人間と同じ進化の道をたどった先輩…?」というような興味から、

イルカの逸話や知性に関する本を読むようになって、

「スゲェやつらだ」というくらいの印象をもっていました。





それでも、「ハワイのイルカと泳ぎに行こう」という話が浮上したときには、

「ま、いいっかな」くらいの気持ちでしかありませんでした。

ハワイの風と緑に包まれた青い湾で、

ぴょんぴょん跳ねる元気なスピナー達と毎日泳ぎました。

「これはスゲェ… ナンだろう、この楽しさは…」

想像をはるかに超えた楽しさでした。


さらに最終日、変わった出来事が起こりました。

その朝、ボクは一人だけみんなから遅れて海に入ると、

本当に岸近く、やっと波であわ立つ海中の視界が晴れた瞬間、

「ボーン!」とイルカの顔が目の前にありました。

体の左側、背びれの真下あたりに、恐らくダルマザメに噛まれた真ん丸の傷がありました。

なぜかそのイルカは、付かず離れず、ボクがみんなと海に入っている間、ずっと近くで泳いでくれました。

2時間を超える時間です。

競争したり、からかうように泳いだり、葉っぱを奪い合ったり、遊びに熱中しました。

もちろん水中の泳ぎでイルカにかなうわけがないのですが、

なにか、対等な感覚、というか…

言葉を使っていないのが不思議なくらい、意志が伝わるような…

とにかく他の動物とは全く違う「対等」な感覚です。

そして、ものすごい「親近感」…

ボクは今まで感じたことのないほど、なんとも優しい気持ちに包まれていました。





海から上がっても、

ボクは自分の気持ちを何と表現していいのか分からないでいました。

基本的にボクは行動派ですが、理性的で現実的な人間です。

コインの裏表で、あまり自分の感情を表現できなかったことはありませんでした。

というより、表現できないほどの感情を持ったことがなかった、

といったほうがいいかもしれません。

でも、イルカと泳いで感じた気持ちはどう表現したらいいのか分らず、

そんな自分に、正直、驚いていました。



それでも、東京に帰ると、

いつもの通勤ラッシュと仕事のプレッシャーが待ち受けていて、

いつの間にか、イルカとの経験はボクの頭の中で整理されないまま、

記憶の奥にしまわれるようになっていきました…






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