酒は心の栄養剤
ドイツ観念論の祖で、独自の批判哲学を確立した。
ペスタロッチ 一杯の酒は、バイロンの思想の休息を与え、ボードレールの日曜日を幸福にし、カントには心の素直さという “道徳的性質”を運び、文豪ゲーテも楽しませた。 まさに酒は人の心の栄養剤なのである。 カントが好んで飲んだのは「メドック」の赤ワイン。 それも、ほんの少量を嗜むくらいで、がぶ飲みはしなかった。 臨終の床についたときも、彼は水で割ったワインを実にうまそうに飲み、 「もう少しいかがですか?」 そう聞かれて 「もう結構」 いつもの定量をきっちり守ったらしいというから、いかにもカントらしい。 ただし、この心の栄養剤も、度が過ぎると、害にもなり、時にこんな歴史的大失態さえ、引き起こす。 カクテルの名前にもなっているニューヨークの“マンハッタン島”はもともとはネイティブ・アメリカンの土地。 しかし、オランダ人のミュニットは首長にたらふく酒を飲ませ、完全に泥酔したところで買収契約書にサインさせた。 酔いがさめた首長は「俺はマンハッタン(泥酔)だったから契約は無効だ!」と叫んだが後のまつり。 二束三文で先祖伝来の広大な土地をまんまと騙し取られてしまったのである。 しかし、 酒に罪はない。「泥酔する人に罪はある」 (フランクリン) わけで、ロバート・ベンチレイに言わせれば 「酒は大勢の馬鹿者どもを作るが、もともと人間は馬鹿な物。 だから、酒の罪は帳消しだ。」 と、いうことにもなるが、さて―――――。 幕末の尊王派の学者・藤田東湖は酒器の「瓢箪」を称える歌を詠んだほどの非常な酒飲みだったが、 いつも適度によって、決して乱れることはなかった。 しかも酒癖が悪い門人を立ち直させるため、 自ら3年間も断酒して見せたというから、さしずめ酒道の鏡というべきであろう。 藤田東湖(1806~55) 水戸藩の儒者。幕末に尊王攘夷論を唱え、志士の信望を集めた。安政の地震で死亡。 |