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幕末,J・ゴーブルとサム・パッチNo.10

幕末_WITH_LOVE玄関<幕末<悲しき漂流民,ゴーブルさんの大八車_No.10,歴史上に実在人物,1853年ペリー来訪の際、犠牲者,漂流民

 
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サイトTOP 幕末_WITH_LOVE玄関_<悲しき漂流民<ゴーブルさんの大八車_No.10
(1853年ペリー来訪時、歴史上実在した人物のお話

ゴーブルさんの大八車_No.10
No.1No.2No.3No.4No.5No.6No.7No.8No.9No.10(現在の頁;完)
悔いの告白、そして約束



「サム、聞いてくれ。これは本当なんだ。完全に僕の勝手だったのさ。」

強い口調で、ゴーブルさんは、そう言いました。ゴーブルさんは決心したのです。

彼自身の少年時代、犯した罪の話を聞かせたのでした。

「いつか君が言ったね。どうして、ゴーブルさんは、靴直しが上手なの?って。
あれはね、どこで覚えたと思う?誰かに習わなきゃ、
あの技術は素人が真似できないんだよ。

僕はずっと浮浪児だったんだ。いっつも住む家も無くて、食べるものなくて、
パン泥棒して生きた子供だったんだ。
でも、ついに、パン泥棒じゃなくて、悪魔になってしまった!!
お金さえあればなんとかなるって思って、人を脅かしてお金を奪おうとした。
でもできなかった。何もしてない人に暴力なんて使えなかったんだ。
僕は、捕まって、刑務所に入った!!」


サムはあっけに取られて、目を丸くしています。さらに、ゴーブルさんは、話し続けます。

「刑務所で靴直しも習ったけれど、神様を教わったんだ。神様に約束したんだ。
この拭っても拭いきれない罪の贖いに、一生涯かけてでも、困っている人々を
救ってくれる神様、貴方のお手伝いを致します。そう誓ったんだ。

だから、おかしな制度で可愛そうな人を放置している日本の心の貧しさを救うために、
この国に来たんだ。

だから、僕の勝手なんだ。君のせいじゃない。君は、僕のこの罪の贖いを
邪魔するのか?それでも、僕にそれをさせてくれないって言うつもりなのか!」


興奮して耳まで真っ赤にしたゴーブルさん。まだまだ止まりません。

「君が僕に迷惑をかけてるとしたら、一つしかないよ。君が臆病で困るんだ!

僕は君と一緒に、日本中の困ってる人に会いに行きたいんだ。このままじゃ、
神様に嘘つきになってしまうよ。勇気を出せよ。もう、いいかげんに居留地を
這い出して、一緒に旅に出ようよ。その途中で、君のママにも会いに行こう。

もうキリスト教はオープンの時代に突入したんだぜ。堂々と胸張って、君はママに、
困ってる人を助ける仕事をしているって言えるじゃないか。君が恐れた処刑なんて、
もうないよ。だから、ママを泣かせる心配なんか、無くなったんだ。

親を手紙で呼ぶの呼ばないのって、そんな作戦なんて、いつになるかわかんないよ。
めんどくさいよ。自分達で、行ったほうが早いじゃないか。そうだろう?


頼むから、勇気出してくれ!病気じゃないよ。勇気だよ。勇気で病気も吹っ飛ぶよ!」

初めて、サムがしゃべりました。

「ゴーブルさん、僕に向かって、僕が臆病だって、言ってくれた・・・それ、初めてだね。」

「そうだよ!これ以上、僕を困らすな!!解ったか!コイツ!」


サムが笑っているから、ゴーブルさんも笑っています。




サムが日本の「無邪気なお呪い」を教えてくれました。それは、男同士だというのに、
互いの小指を絡めて、なにやら楽しいような怖いような呪文を唱えます。

「指きりげんまん、嘘ついた~ら、針千本、飲~ますッ!!」
・・・・思わず目を丸くしたゴーブルさんに、今度はサムが吹き出しました。
二人は約束しました。

早く元気になって、
一緒に広島県豊田郡瀬戸田町福田に行くんだ!
そして、ゴーブルさんは、大威張りで、
美味しいお魚を一杯ご馳走になる!!

それが、二人の約束でした。



落葉の広葉樹


春が過ぎて、あの夏も嘘のように、どこかに逃げ出してしまいました。
舞い散った赤や黄色の落ち葉が、病院前の路面を、所狭しと覆い尽くしています。


寝ても覚めてもずっと必死の介護状態が続きました。ゴーブルさんは、仕事も
本来の使命も完全に放棄です。もう、こうなると、全部どうでもいいのです。
サムのためなら、何を失ってもかまわない!この子を守れないぐらいなら、
自分が死んでしまったほうがましです。

ゴーブルさんは、目は窪み、体もふらふらです。だって、毎日、ほとんど寝ていません。
彼の体も慢性疲労の極地に達して、それが苦しいかどうかも解らなくなってます。

ある日、ふと、サムのお洗濯物を抱えて、洗い場に向かった時です。廊下の角を
曲がったところでいきなり、一人の男性に足を踏まれてしまいました。それが、とても痛くて、思わず、
「気をつけろ!」口が滑りました。多分、同じような状況で、介護に駆けつけた誰かの家族
だったのでしょう。少し怒りっぽくなってる自分に初めて気がつきました。
途端にくらくらっと眩暈がしました。

桶に水を張る時、初めてです。思わず、口から漏れた自分の言葉。
「うっ、つ辛い・・・。俺も限界かァ~」

何の根拠もなく、いやな予感がしました。そんな自分を否定したくて、
大量の水をざぶざぶと流しながら、ゴーブルさんは、最後の力を振り絞るようにして、
乱暴な手付きで、滅茶苦茶一杯、汚物で汚れたサムの衣類を洗いました。


天空の彼方


日本の秋は格別です。山々の木々が赤や黄色に
染まって、それまでの世界と一変します。
こんなに美しい光景だというのに、ゴーブルさんには、
それが皮肉に感じられて仕方ありません。
美しければ、美しいほど、残酷に見えてきます。


この直前の、ゴーブルさんといえば、夢中でした。
ご飯もほとんど、いつ何を食べたかわかんないぐらい
毎日無理をしてました。ふらふらでも、寝不足でも
夢中すぎて、なんにもわかりません。

ところが、或る日、その「無理」は、突如、天空へ飛び去りました。
もうそれ以上、なんにも、無理しなくてよくなってしまったのです。
彼は、無理する対象を失ったのでした。


あの時、思わず、口から漏れた自分の不吉な言葉。「うっ、つ辛い・・・。」
己が至らぬばっかりに、その言葉が、たちまち、悪魔に聞きつけられたのだろうか。
サムに禁句のその言葉を、はからずして悪魔が彼に言いつけたのではあるまいか?

素直なサムは、それを悲しんで、自ら天へ飛び去ったのではあるまいか!!
・・・あってはならない馬鹿げた空想が、疲れ果てた脳の中を旋回しています。

「サム、なぜ、なぜ、死んだ。なぜ死んでしまった!!」

ゴーブルさんは、はたして、自分は本当に宣教師なのかと、小首を傾げました。なぜならば、
馬鹿げた空想は瞬時に追いやることはできても、とても、とても悲しい、この気持ちは全然止まりません。

どんなに祈っても、どんなに努力しても、悲しみは消え去ってはくれません。
涙も枯れて、ふと彼の体を支配したのは、間抜けのように虚しい単なる虚脱感でした。
手足が宙に浮いたように、感覚を失って、己が白痴に見えてきます。

サム・パッチの天昇


1879(明治12)年10月8日サム・パッチこと、
仙太郎は一人、天国に旅立ってゆきました。

ゴーブルさんにとって、あんなに無理して頑張った
もの、その対象とは、サムだったのです。
宣教師として、一人の民を救いたい・・それだけじゃ
なかった。自分の悲しい生い立ち。あの子だけは、
幸せにしてやりたい・・。だから、あんなに滅茶苦茶、頑張れた。

だが、今、そのサムはもう、どこにも居ない。
天を見上げても、あの時のように、奇跡のような雪は、舞い落ちてきません。

ぼんやりと目をやった病院の窓。
葉を落とした惨めな広葉樹の枝がふらふらと風に揺れてました。

一人ぼっちの約束実行


黙っていたら、もう自分が壊れてしまいそうです。
長い間、無理をし続けたゴーブルさんの体はくたくたです。
でも、じっとしてたら、悲しみばっかり襲ってきます。眠ろうとすれば、
指きりげんまんの歌が、泣けてきます。

ゴーブルさんは、実行に出ました。1879(明治12)年12月、悲しみを載せて、
ゴーブルさんの大八車が早々にスタートしました。

坂道を登る時、ゴツンと石っころにぶつかれば、「あっ!ゴメン!痛くなかったか?」
野宿できそうな場所に着いたら、「よっしゃ、このあたりで寝るか?」

聖書販売人として雇用契約してもらったゴーブルさん、心はサムを連れて行脚の旅です。
ポケットの中には、サムの大好きだった星型クッキーが一杯です。
癖になってるから、もう直りません。

道中、休憩の際は、必ずポケットのクッキーを取り出しては、サムを真似て手に
持ったまま、ガリゴリガリゴリ、ネズミさん風に噛んでみます。
お金があってもなくても、見栄を張って、これだけは昔ながらの商人から仕入れています。

この商人も代が替わって倅の時代です。彼の父は、江戸時代の人。だから、もう死にました。
異人のゴーブルさんも、江戸時代の生き残り。

いつか、あの男が言ったな。腰を下ろしたゴーブルさんは、ふと思い出しました。

dog05.gif「あたしゃ、自慢じゃないがね、ちょいと
似たところがあってさ、昔ガキの頃にゃ、
海に落っこちた犬っころを助けたくてサ、
ざんぶと海に飛び込んだはいいが、
おかげで、この傷跡見てくれや。こいつぁ、
アタシの馬鹿の焼印みたいなもんさ。」

彼は額の古傷の跡を自分で指差して、そう言うのでした。

「船のへっついだか、岩だか忘れたけどよ、まともにぶっけて、このとおり、
跡まで残っちまったんサ。だけど、こいつぁ、所詮、瞬時のことさ。
一瞬の痛みで済むもんならよ、たとえ損しようが、痛手食らおうが、
誰でもできるってことよ。それに引き換え、あんたのそいつぁ、
永遠だろう?頭が下がっちまうねぇ。」


そう言って、サムの好きな星型クッキーを幾つか、おまけで増量してくれたっけ・・・。
今思えば、彼は大物でした。宣教師を捕まえて、面と向かって棄教をすすめたあの男。


聖書販売全国行商の旅。4年間、どうにか頑張りました。
しかし、いつも、いい線までゆくのですが、今度はゴーブルさんの体が度々故障します。

横浜で親切にしてくれる人々は、皆、引き止めるのですが、体調が回復すると、
必ず、西へ西へと向けて、お手製の洋風大八車を引き摺っては、いつのまにやら脱走しています。
ところが、また体が故障。その度に引き返すか、病院の世話になってしまいます。
おかげで、さっぱり進みません。

「おい、サム、頼むよ。なんとかしてくれよ。ガンバ!」
・・・なんて言ったりします。

やっとこすっとこ、どうにか、京都までたどり着きました。彼自身、自分で自分を
褒めてあげたいくらいです。

山高帽の紳士が現れて、事務所に立ち寄るように言われたのはその時のこと。

神戸にある彼の会社で、自転車製造の技術提供者になってくれとアタックされました。
ゴーブルさんの大八車が、もと、彼お手製自転車だったからなのです。

それに、その紳士はこうも言いました。
神戸まで来れば、広島県豊田郡瀬戸田町福田までは、そんなに遠くない。船を利用すれば
すぐだ。船のことは任せておけ・・・そうも言ってくれた頼もしい人でした。

サムとの約束。ゴーブルさんは、何があっても果たさなければ、
針を千本も!飲まされてしまいます。

「サム、行くぞ!それ!もう少しじゃないか・・・!」

むせかえるような京都の夏。窒息寸前のこの暑さの中、一斉に蝉達の声が沸きあがりました。

くっ苦しい・・・。とうとう、ゴーブルさんは道端に倒れてしまいました。



滅火、失衰、さらば黄金の国


1883(明治16)年12月、今、ゴーブルさんは、アメリカに向かう船に乗っています。
横浜の知人が紳士に一筆送ってくれることになりました。蝕まれた身体。もうどうにもならないのです。

重病人だと船に乗せてもらえません。老化ということにしてあります。56歳のゴーブルさん。
ブロンドに輝いて、あんなに美しかった彼の髪は今、一本残らず白髪に化けてしまいました。

甲板に立って、日本を見送りたい。一人では立ち上がれません。その願いを叶えてくれたのは、
日本まで迎えに来てくれた妻と、すっかり美しく、娘盛りに育った我が娘でした。

ゴーブルさんは両腕を抱えられて、やっとハッチを抜け出して、甲板にたどり着きました。
今の彼にとってそれは、ここに到達するだけで、富士山に登るにも等しい重労働です。

船のスクリューから沸き立つ白い泡。それが船の軌跡に沿って、濃紺の冬の海、二本の白い筋を
描いています。その白い筋の向こう側ににある日本の島影は、だんだん遠ざかって、
小さく、小さくなってゆきます。

小雪が散らついています。ゴーブルさんは寒さも忘れて、ゆらゆらと揺らめいて
なんにも見えない視界の中、必死で、あの島を見送ろうとしています。これまでの人生、
その半分を、この島で暮らしたゴーブルさん。

この島には黄色い人が住んでいました。一重瞼で黒い瞳。小さくて臆病者で、一人じゃ、
なんにもできない男。可愛い顔して、いっつも悲しいサム・パッチ。

ぐらぐら、ぐらぐら揺れてます。涙が邪魔して、なんにも見えない。

目が潤んでなんにも、見えなくなったら、
今度は、突如、耳裏にあの歌が蘇ってきました。
サムが教えてくれた不思議な日本の呪文歌。

約束破ったのは・・・
サム、お前だよ。
サムの嘘つき!広島の福田 で旨い魚を、
俺に、腹一杯ご馳走してくれるって、
約束してくれたのは、お前じゃないか!!




指きりげんまん、嘘ついた~ら、針千本飲~ます!

本当のサムパッチのレイアウト_もう少し

サムは、本当は一応無事結婚。人生の中、別の宣教師にも、めぐり合っています。
彼の死の際、その宣教師(※)E.W.クラークが語った言葉。
・・「墓に十字架を載せてあげなさい。」
  • (※)E.W.クラークは、ゴーブルさんと異なり、明治維新の際、講師として招かれた立場。
    役人相手に、即ち強気!「布教の邪魔したら、俺は帰国するぞ!技術も学も授けてやんないぞ!」

サムを救おうとしたゴーブルさんの『永い闘いの日々』年表


西暦1 西暦2 累計 小計
期間
年齢 詳細:1853_26歳;ペリー艦隊海兵隊として日本到来
_そこから起算するゴーブルさんの軌跡
1853 1860/4/1
(安政7)
7 7 26~33 炎の青春熱血時代
アメリカで再来日準備~来日迄
1860 1870 17 10 33~43 日本再上陸~妻子との別れ迄
・1862_外人居住地へ引越し:・・・→子一人死亡
・1870_妻子アメリカへ去る。
1870 1879 26 9 43~52 サムと二人で日本生活
サム死亡 :1879(明治12)年10月8日脚気で死亡。
1879 1883 30 4 52~56 聖書販売人としての4年間(サムのかわりに福田目指して
・1879(明治12)年12月、ABSの日本支社支配人ギュリックの
雇員となり全国行脚。→病気で万事終結。
1883 1896 43 13 56~69 アメリカへ傷心帰国~本人死亡迄
・1883(明治16)年12月、迎えに来た家族と共に帰国。
・1896(明治29)年死去。享年69歳。
尚、ゴーブル氏の少年時代の悲しい過去も、上記ストーリー風内容、現実です。
概略流し読みには、こちらの頁もあります。悲しき漂流民
本当のサムパッチのレイアウト_もう少し

記ストーリー風を書いた後に、いい本が出ています。そのうち、楽天も入荷してくれると思います。
本当は、サムは無事結婚に漕ぎ着け、ゴーブルを離れ働けるようになりました。
一応通詞の役目で重要な人物に携わってはいますが、残念ながら、純然たる堂々通詞でなく、外国人宣教師達の
記述表現では、通訳ができる召使程度であったり、料理人であったり。長くなるので後日別SERIESで。
しかし死の段階で、やはり彼の心の傷跡が悲しい。「墓に十字架を載せてあげなさい。」そう語ったのは、
E.W.クラークでした。左人物は静岡学問所で活躍。(少々関連頁はこちら)つまり臆病者のサムが、
この宣教師に従って静岡まで行った。(近いけど)この他にも、横浜外人居留地時代は、当時在住の
ジェームス・バラ やサミュエル・ロビンス・ブラウンにも通訳の仕事でその姿を現しているのが解ります。

※関係ないけど、今日静かなブームの「ライスケーキ」。もちもちっ感覚でケーキとしては少しローカロリー。
E.W.クラークは、サムの料理を気に入ってました。その中にこんなものが。「蜂蜜たっぷりのライスケーキ」
疲れて帰るE.W.クラークを察して、サムは焼きたてのケーキを日本の材料で工夫して作ってあげたんですね。
他にも同宣教師が大好きなものを色々作ってあげた様子。だけど死んじゃった。脚気は事実のようですね。

十字架を心に携えたが故帰国が遅れて苦労したサム。だけど最後まで十字架に守られた。神様は人に苦しみを
与える。しかしその苦しみとは「その人物が必ず乗り越えられる範囲」の苦しみのみだという。
なる程だが、やっぱり悲しい。


介護中の皆様、どっかで誰かを守って頑張!の皆様も、どうかお体大切に!

幕末玄関

「赤い靴」と「しゃぼんだま」は事象ひと続き

明治殉教の少年

乙女峠の坂道「雀の涙」

メルヘンに秘めた実話,美女と野獣

箱館戦争の余波_薩摩の「死角」に填め込まれた二人の男達


幕末の悲しき漂流民

黒船騒動の裏庭

文章解説(c)by rankten_@piyo、
写真等、素材については頁下表示


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