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カテゴリ:読書日記
数年前まで「戦略論」ブームだったのが、嘘のように鳴りを潜めている。 「インテリジェンス」しかり、「ロジカルシンキング」しかり「見える化(可視化)しかり。 まぁ~、これこそ日本の読者が宣伝という名のマインドコントロールにかかりやすい気質ももっているとしかいえないし、あるいは社会心理学でいう「群集心理」にのせられているだけなのかもしれない。 日本人の怖いところは、短時間で一気に180度 何事もなかったように考えや方向性を全体主義的に変化することができることだ。 この理由を白州は「プリンシプルがない」と言い放っていたことも、うなづける。 さて、最近、戦略論に関して、奥山真司さんの本格的な啓蒙活動によって地政学やアカデミックな戦略論・戦争論が翻訳され、ようやく興味のある方でも読める時代になってきました。 また、絶版になっていた戦争論や国際政治、地政学に関する本が復刊されたり、新しい最新の研究も知られるようになってきたことは、うれしい限りです。 西洋や中国の古典戦略論も勉強にはなるのですが、「戦前の日本軍の首脳は何を考えていたのか?」ということも、徐々に明らかになってきました。 特に、NHKが『日本人はなぜ戦争へと向かったのか』や、『日本海軍400時間の証言―軍令部・参謀たちが語った敗戦 』など、実証的な研究成果が明らかになり、今までの常識だったことが、全く違った考え方や誤解、情報の取り方の違いや解釈の違い、まさに官僚的な政治決定が上部では行われていたという史実が判明してきました。 その中で、彼らのプリンシプルな思想は何だったのか? それが、私には石原莞爾の著書を読むことで、彼らの考え方を垣間見れるのでは?と思い読み始めました。 石原莞爾の著作集は文庫本で復刊されていますが、青空文庫を読める方なら無料で読むことができます。 石原莞爾の戦争に関する考え方は、さすが、子供の頃から戦史や軍事史、社会科学、さらにはドイツへ留学していたので、ヨーロッパ戦史に関して、相当な研究をしていたのだなぁ~と思わせるぐらい、わかりやすく解説しているのである。 この難しいことをわかりやすく説明する技術というのは、相当な勉強をして体得してからでないと、なかなか、この書物のようにはかけない。 有名な一説では、制空圏の重要性。原子爆弾の予言。そして、冷戦時代の到来の予言。さらに、EU成立の予言。(ヨーロッパ共同体を正確に言い当てているのは、驚嘆しました。) また、決戦戦争と持久戦争において、交互に戦争形態が変わっていることも指摘しており、現在は、持久戦に重心があるけれども、この持久戦もロボット兵器・無人探査兵器と出現によって、戦争形態が確実に決戦戦争へと変わってきています。要するに、大将の首を真っ先にとって決着をつけるやり方へと。 これは、機甲戦の提唱者であるフラーの『制限戦争指導論』の中で述べられている「戦争が平和をもたらす」ようになってきているのである。 つまり、核兵器による最終戦争ができない上、それが抑止力になっている現在において、戦争の形態が総力戦からロボットを使ったピンポイント爆撃や工作員の暗殺などによって、制限戦争へと戻ってきていることを意味している。つまり、民間人が犠牲にならない最小限の攻撃へと限定しているわけだ。 フラーが著書『戦争の再構成』で述べている「戦争の目的」どおりになってきているのだ。 多くの戦略論に関する書物を読んでいくと、流れがわかってくる。 もう戦争によって、総力戦で国民が耐え忍ぶ時代ではないのだ。総力戦こそ時代遅れになりつつあるのだ。 だからこそ、フラーの、この一説の意味を我々は理解しなければいけないのである。 「将来においては、戦争はよりよい平和を構築する方法としてみなされるであろうし、逆に消耗し尽くした平和を生む方法として考えることはないであろう」 (参考) 『名著で学ぶ戦争論』 石津朋之(編著) 日経ビジネス人文庫 P164 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021.11.17 00:30:06
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