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成熟社会化

市場半減! 成熟社会化による“モノ消費”の崩壊


衰退基調の日本経済

急坂を転げ落ちるように景気が悪化している。現在特に深刻な危機に直面しているのが輸出産業であるが、内需産業の状況も芳しくない。人間の病気に例えれば、両者とも重体であるがその症状は異なる。輸出産業の場合は、世界経済という名の車が急停車したショックで複雑骨折したようなもので、世界経済が回復に向かえば最悪期を脱すると思われる。

これに対して内需産業の病状は、慢性疾患により体が痩せ衰えていくようなものだ。日本市場は構造的に縮小しており、その速度は加速化している。このように考えると、内需産業の状況はより深刻だ。

長期的に見れば、バブル崩壊以降の日本経済は右肩下がりのトレンドに入っている。1990年に3万円台だった日経平均株価は、その後長期低落傾向で推移し、現在は7000円台に沈んでいる。これは日本経済の体力低下を物語るものであり、その背景には、構造的な市場の衰退があると考えられる。

市場半減!

消費市場の縮小傾向は、さまざまなデータで確認することができる。1991年に約9.7兆円あった百貨店業界の売上高は、2008年には約7.4兆円に縮小した。これは約24%の減少である。また1991年に159万店あった小売店舗数は、2007年には114万店に減少した。これは28%の減少だ。

また1990年に598万台あった新車登録台数は、2008年には321万台に落ち込んだ。これは46%の減少だ。そして家計における1カ月平均の衣料品消費支出は、1991年では約2.38万円であったが、2008年には約1.26万円に減少した。これは47%の減少である。自動車や衣料品などの基幹消費財の消費が、ほぼ半減するような状況は深刻である。

もちろん消費の実情はまだら模様だ。携帯電話のように市場が急拡大した商品もあるし、医療費などサービスに対する消費は趨勢的に拡大している。ただし基礎的なモノに対する消費が、バブル期をピークに趨勢的に縮小していることは間違いない。日本の消費者は、モノを買うことに対してどんどん消極的になっている。

若年人口半減

日本の消費市場衰退の大本にあるのが、人口の減少問題だ。人口が減れば、当然モノは売れなくなる。しかしながら現在のところ、日本の総人口の減少速度は穏やかだ。主要なモノ消費が激減していることの原因としては、整合性が弱い気がする。

ところが若年人口に焦点を当てると、話は変わる。30歳未満の若年人口は1990年には約5000万人であったが、現在では3700万人程度に減少している。そして今後10年間でさらに500万人以上減少する見通しだ。1980年に5200万人程度だった30歳未満人口は、2030年には2600万人程度ととなり、ほぼ半減してしまう。

30歳未満の若年層は中高年世代と比べて、モノ消費にアクティブな世代といえる。子ども時代から青年期にかけては、成長する過程でどんどんモノが必要になる。それだけでなく、概して若い年代は背伸びをして消費をしがちだ。若年層は成長を追い求める世代なのである。この世代の人口が、日本では急速に減少している。

中堅世代の減少はこれからが本番

すでに急速に減少している若年層に対して、生産や消費の中核を担う中堅層の減少はこれからが本番だ。30歳以上50歳未満の中堅層の人口は、バブル期の1980年代にピークを付けた後、1990年代は減少基調となっていたが、2000年代には一旦回復傾向となった。

この動きは、日本経済の動向と相似形をなしていると見ることもできる。

しかしながら現在が転換点であり、今後中堅世代の人口は急速な減少に向かう。現在の30歳以上50歳未満人口は約3500万人であるが、これが2030年になると2600万人程度に減少してしまう。今後20年間で25%も落ち込む計算である。

30歳代から40代歳代の中堅層は、社会の活力を支える世代であり、消費の最前線にも立つ。この世代の消費需要は、他の世代に比べて旺盛である。恋愛し、結婚し、子育てをし、家を買い、その都度大きな消費を行う。住宅や自動車などの高額商品や、デジタル家電などの先端商品は、この世代が動かなければ市場が萎えてしまう。

この中堅世代に対して、現在は非常な逆風が吹き付けている。不況により賃金は減る傾向にあるし、今後の雇用も不安だ。それだけでなく、年金や医療費などの将来不安も大きい。日本の消費市場の活力衰退には若年層の急減が影響していることは間違いないが、中堅世代の元気がなくなったことの要因も少なくないと考えられる。中堅世代の活力喪失と、今後の急速な減少は、日本の消費市場に致命的な影響を与える可能性が高い。

人口構成の変化と消費市場の成熟化

日本人の平均年齢は戦後しばらく20歳代で推移した後、1965年頃に30歳を超え、1990年には30歳代後半に達した。その後1998年に40歳を超え、現在は44歳である。日本人の平均年齢は、10年で3歳という早いペースで上昇しているので、ワンジェネレーション(約30年)の時を経れば、社会の雰囲気はがらりと変わる。

かつての日本は若者が主導する上り調子の成長経済であったが、現在は中高年層が主体の成熟経済となっている。今振り返ると成長経済から成熟経済への分水嶺は、1990年前後のバブル末期にあったようだ。それ以前の消費市場は、若年層が中核をなしていた。成長志向の強い若年層が主導する消費市場は、軽薄さに流れるきらいはあったものの、新しいものを生む活力に満ち溢れていた。しかしバブルの狂騒から覚めたとき、日本人の平均年齢は40歳を目前にしていた。

それ以降、若年層は消費市場の中心から徐々にフェードアウトしていった。そして残された中高年世代は、基本的に成長志向が希薄だ。中高年層はモノを大量に買うことや、背伸びをして高いモノを買うことや、新しいモノに飛びつくことがあまりない。こうして日本の消費市場は、落ち着いたモノトーンの景色に変わっていった。

成熟化社会がもたらすもの

自動車市場や衣料品市場の「半減」は、このような消費市場の成熟化がもたらした現象と捉えることができる。一概には言えないものの一般的な消費者に関しては、若いころは「あれもこれも」と欲しいモノがたくさんある。それが40歳から50歳くらいになると徐々に物欲が薄れていき、落ち着いた時間の過ごし方とか、きめ細かいサービスなどに価値を感じるようになる。これはある程度、必然の傾向と考えることができよう。

近年の日本は社会全体が成熟社会の様相を呈している。成熟社会は、よく言えば上品な落ち着いた社会であるが、言いかえると沈滞した社会である。そこに成長を追い求める力は乏しい。成熟化した消費者はモノの無駄遣いをしないし、見栄っ張りな背伸び消費もしない。それはある意味で望ましい行動であるし、社会のあり方としても望ましいと思われるものの、GDPとの相性は悪そうだ。

過去の経済成長は、消費者に無駄なものを買わせることにより底上げされてきた面も少なくないと思われる。消費者の家庭にはモノが溢れているのに、企業は「もっとこれを買いましょう」と訴え続けてきた。ところが成熟した消費者は「より多くのモノを消費するライフスタイル」から卒業してしまった。このように消費者が成長を追い求めなくなると、消費の拡大が止まるだけでなく、過去の底上げ分がはげ落ちることにより、市場は縮小する。

モノづくり至上主義から卒業できるか?

現代の成熟した消費者はモノを豊かさよりも、心の豊かさを求めている。それに対して多くの日本企業は、相変わらず“モノづくり至上主義”で成長を追求してきた。その間にある大きなギャップが、膨大な余剰設備や余剰人員や余剰在庫になって顕在化してしまったのが、現在の日本経済の姿ではないだろうか。

つまり成熟社会に対応するためには、企業が戦略やビジネスモデルの転換を進めることも重要だと考えられる。モノを押し売りすることにより形成されたGDPの「上げ底」は、今まさに滑落しつつある。企業が消費者の心を満たすサービスを提供できるようにならないかぎり、日本経済が成長軌道に戻ることはできないのではないだろうか。

2009年03月03日
(桐原 涼=経営評論家)

(出典:日経BPnet)


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