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国民の怒り爆発

◆「小沢民主」が乱れ、国民の怒りが爆発する日◆

大前研一の「産業突然死」時代の人生論
国際的に活躍する経営コンサルタントの大前研一氏が、先行き不透明な時代を、グローバルな視点と大胆な発想、そして豊富なデータで読み解く。


民主党は記憶喪失症に陥っているのだろうか?

“天下分け目”の2009年夏の衆議院選を前にして小沢一郎代表(当時)の公設秘書が西松建設への“口利き”問題で逮捕されたのは同3月3日のことである。その後、小沢氏が代表では総選挙が戦えない、ということになり、鳩山由起夫氏を代表にして自らは菅直人氏と共に代表代行となり、選挙を担当した。

その選挙で圧勝し、鳩山が首相になると、同9月3日には小沢氏に幹事長への就任を要請している。つまり、小沢代表では8月の選挙が戦えない、と直前に看板から引きずりおろしてかろうじて間に合った、という記憶である。

わずか8カ月前のことである。


国民が選んだ政権は独裁者が支配する政党だった

今の国民世論では小沢氏は幹事長を辞めるべきだ、議員辞職するべきだ、というのがすでに70%を超えている。民主党の支持率も40%を切る、という状況である。専門家は、小沢氏の政治資金問題は官僚組織を政治主導で作り直そうとする小沢氏と組織防衛に走る官僚の権力闘争である、と解説する。

しかし、国民はそうは見ていない。何はともあれ自らの秘書が3人も逮捕された小沢氏がどんな言い訳をしてもすでに聞く耳を持たない。それどころか、鳩山首相はじめ多くの民主党幹部が腫れ物に触るように小沢幹事長の話をするものだから、昨年、圧倒的に支持した「政権交代」とはいったい何だったのか、という思いを強くしている。

事業仕分け作業の頃には、結果はともあれ、今までにない大掛かりな予算削減の努力をしている、良い仕事をしている、と思っていたが、年が明けてみるとまるで違う世界に突入した。自分たちが選んだ政権は独裁者が支配するとんでもない政党になってしまった、という驚きである。

1.予算は削られていないばかりでなく、史上最高の赤字国債を発行する。
2.「正三角形」という外交政策でアメリカとの関係がギクシャクし始めた。
3.中国との距離が縮むのはいいが、どうも朝貢・屈辱外交のようだ。
4.陳情を幹事長が一手に引き受け、というのは結局利権の独り占めではないか。
5.自民党に「政治とカネ」の問題を国会で追求されるのはブラックジョークだ。

このほかにも鳩山首相自らの政治資金管理がデタラメで、かつ親からの相続・贈与であったこと、などが判明し、ツー・トップもろともリーダーとしては認められない、というのが国民の感覚である。そうなると民主党の今の看板では支持率が下がり続けるのは当たり前で、どう転んでも反転は難しい。夏の参議院選挙まで持たないという完全な「デジャブー」状況となってしまった。


国民は「小沢民主党」とはすでに決別している

しかし、小沢幹事長が退けば、鳩山首相も後ろ盾がなくなり、軽く吹っ飛ぶ。迷走と妄言を繰り返す首相を退陣させれば小沢幹事長も今までのような強権政治はできなくなる、など両者が一蓮托生であることは間違いない。国民の心はすでに「小沢民主党」とは完全に決別している。これは検察が今後小沢問題でどう出るかと関係なく、健全な政党だったら自ら判断しなくてはいけない局面である。

しかし、民主党の場合、ここから先が難しい。というか、まったく五里霧中なのである。衆議院だけでも300議席を超え、テレビ討論などでの論客を多く抱えながら、民主党には指導者がいない。党首経験者は今の首相と幹事長のほかにも菅直人、岡田克也、前原誠司の3氏など、自民党にも引けを取らないくらい多士済々の印象を受ける。しかし、これらの人はいずれも(首相ではなく)野党党首としてもいかがなものか、という事態を招いて交代させられている。つまり伸びシロが少ないことはすでに実証済みである。

もう一つの問題は小沢幹事長がいなくなったら、民主党はどうなるのか?と言う問題である。今まではカネと選挙、そして人事と基本政策、さらに連立維持など、すべてに関して小沢氏に一元化されていた。民主党が旧社会党から自民党までの寄せ集めであり、国民新党や社民党との連立が維持されてきたのは、小沢氏がいたからである。

小沢氏がいなくなれば、あるいは幹事長ではなくなれば、まず鳩山首相が吹き飛ぶ。民主党幹部で鳩山氏を強く支持する人は少ないからだ。本人にビジョンと政策があり、人望と国民的支持があれば別だが、そのいずれも「ない」ことはこの4カ月で実証済みである。首相になって100日間のハネムーン期間でさえも、言っていることはコロコロ変わるし、麻生前首相を上回る「アー勘違い!」発言を連発している。

「最後は自分が決める」と言いながらズルズルと結論を伸ばすのも、これで4人連続となる「(たたき上げではない)家業としての」首相に共通の現象である。これは生まれ育ち、染色体などの問題だから、小沢氏のくびきが外れたら突然変わる、というものでもないだろう。鳩山氏は間違いなく、小沢氏と運命共同体(首相の言葉では一蓮托生)なのである。


長期政権を樹立するための小沢氏の野望

その後、民主党政権の誰が首相になってもピラミッド型に組織を維持することはできないだろう。独裁者のいいところはイラクのサダム・フセインやユーゴのチトーのように、少数派であっても、国を一つにまとめることができる、という点である。小沢氏が去れば、民主党は「自民党化」する。田中角栄氏以降の自民党は「自分党」と言われていたように、森羅万象を取り扱う総合百貨店である。これは利権が分散しているからである。

小沢氏は中国利権(田中・橋本氏などが占有)でも台湾利権(金丸氏が担当)でもロシア利権(森、鈴木宗男氏など)でも、何から何まで自民党から移植することに専念してきた。沖縄普天間の問題でも辺野古を反古にしたのは、すでに自民党がその利権を押さえているからだ、と言われている。自民党は業界別、地方別、国別に利権を分散し、それぞれの「専門家」がお互いの利権を認めることによって長期政権を維持してきた、とも言える。

これを一番良く知る小沢氏が利権(すなわち陳情の対価)を一元化し、強引に既得権益を剥がして独裁体制の構築に余念がなかったのは、そうすることによって長期政権を築く、という野望があったからにほかならない。その意味では小沢氏はまさに田中角栄の愛弟子であり、「越山会」ならぬ「陸山会」と言う言葉も35年遅れの「デジャブー」である。


ポスト小沢体制で起こりえる5つの事態

今の民主党は小沢氏の強烈な指導体制の下に首相でさえも意味不明の意思決定を次々としている。これらがポスト小沢体制の中ではほとんどすべて宙に浮くことになる。数ある小沢裁定の中からいくつかの事例を考察してみよう。

1.鳩山首相では選挙が戦えない、という理屈で退陣に追い込まれる。
2.JALに送り込んだ稲盛CEO(最高経営責任者)をバックアップする人がいなくなる。国土交通省の役人とJALの中の組合や派閥の動きが活発になり、週3勤務の稲盛さんでは押さえが利かなくなり、改革も宙に浮く。
3.国民新党と社民党との連立は解消に向かう。一見まったく必要のないこの連立こそ、まさに夏の参議院選挙用の便宜であったが、小沢氏以外の民主党議員でこれを支持している人は基本的にいないと考えられるので、連立を解消して、必要なときにはより政策的に近いと思われる公明党との連立に向かう。
4.普天間問題は時間切れとなり、自民党の作った日米合意を踏襲することになる。
5.経団連や官僚が民主党を分割支配するようになる。少なくとも政・官・財の対話が復活し、官僚の国会答弁も一部復活する。

このほかの珍現象としては、「一・一コンビ」の復活で市川雄一氏を常任顧問にして小沢氏に近づこうとしていた公明党は肩透かしを食った形になり、これを静かに沙汰止みに葬ることになる、なども想定範囲の事象となる。


「最も避けたかった事態」が到来するかもしれない

小沢氏が退けば民主党は小グループの派閥が乱立する、まさに自民党型の政党となるだろう。それ自体はほかに突出した指導者のいない民主党においてはやむをえないことであるが、国民の期待した「政権交代に伴う新しい政治」は幻に終わる。

時あたかも経済的には国内総生産(GDP)で中国に間もなく抜かれ、民間部門においても韓国・台湾・中国・インドなどの新興企業に次々に抜き去られていくニュースが紙面を賑わせている。日本のバイオリズムが極端に下がり、「巣籠もりデフレ」からの脱却は容易ではなくなる。小沢の強権政治を否定することはできるが、あるいは行政の最後の砦として「政治主導」の民主党のドンを陥れることはできるかもしれないが、それだけで今の日本が遭遇している深い苦悩の中から抜け出せるものでもない。

そこに国債の格付けが下がり、どこかで暴落の危険が増してくれば、国民資産の大半が国債購入に当てられてきたわが国としては間違いなくパニック状態になるだろう。いくらノー天気な、ダメ政府でも信頼してその発行する1000兆円近い国債をほぼ無制限に買ってきた国民でも、そのとき初めて近年になかった怒りが爆発するに違いない。

拙著『新・国富論』(講談、1986年刊)以来20年以上にわたって新しい国家の建設を提言してきた私としては「最も避けたかった事態」が到来することになる。

(出典:NIKKEI BPNET 2010年1月27日)



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