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アインシュタインが見た日本

私はこの数年、たびたび世界中を旅行して回った。そもそも学者らしからぬ処かも知れぬ。私のような人間は本来、静かに自分の部屋に引きこもり、勉強をすべきなのだろう。山本氏より日本に招かれたとき、私は数ヶ月におよぶに違いないこの大旅行への決心をすぐに固めた。だがそれは、日本をこの目で見る機会をみすみす逃すならば、自らを決して許せぬであろうと云う、唯一の理由からの決心であった。

ベルリンに暮らしてこの方、私が日本に招かれたと知れたときほど、人に心底うらやましがられたことはない。私たちにとって神秘の薄衣に覆われた国といえば日本に比すべきはなかったからである。

私が日本に着いて、まだ二週間をへたのみである。しかも多くは依然として到着の当日同様、神秘めいたままであるとはいえ、いささかを理解するすべを心得たとはいえよう。日本には、欧米人に対する気おくれが見られる点である。我が国における教育制度は、個としての存在をかけた闘いを、あたうかぎり有利な条件下で、優勢に展開する能力の付与を唯一の目的としている。

ことに、都会においては個人主義が徹底し、全力を挙げた戦争がところかまわず認められ、人はより多くのぜいたくや享楽を求め、熱に浮かされたのごとく働いている。

家族の絆はゆるみ、いにしえの芸術や徳は日常に然したる影響を与えていない。個々人の孤立は、生存競争のもたらす当然の帰結と見放され、彼の明るい無邪気さを人間から奪い取る。

合理性を旨とする教育、これが我が国のごとき状況下の生活実利にとり、不可欠ではあろうが、個々人のこうした生活態度を一層とげとげしいものにし、また一人の人間の孤独をより強く意識にきざみつけるのである。

日本では全く異なっている。ここでは個人が自力に依存する度合いが欧米に比してはるかに低い。法律がそれほど後ろ盾をしているわけではないのだが、ここでは家族の絆が我が国に比べ、非常に密である。日本人が教育を通して会得している徳、あるいは多くの場合、生まれながらにして十分備わっている心ばえの美しさは、世間の有形無形の“評判”という圧力のために更に完璧なものとなる。

しかしこの国において、個人を譲る互いの緊密なつながりが我が国より維持しやすい理由はもうひとつある。それは日本独特の習慣で、自己の感情や情動を外に表さず、どのような事態にあっても冷静で余裕をたもつことである。この事実から、多くの精神的に相容れない人物どうしであっても、軋轢や紛争を生ぜずに一つの屋根に暮らしうるのである。
ヨーロッパ人には不可解に映る日本人の微笑の裏の深い意味が、私はここにあるように思う。
個人の感情表現をおさえる躾が、精神の貧窮や個人そのものの抑圧につながるのだろうか。私はそう思わぬ。

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