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医薬品の実態

コレステロール低下薬で大論争 「効果は薄い」と非難する声上がる

医療が進歩しても、健康が大ブームでも、生活習慣病を患って一生治療しながら亡くなる傾向は悪くなる一方で、人間ドックの異常者は何と89%です。時流に逆らって天寿まで、健康・豊か・幸せを願うあなただけを精一杯支援いたします。
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カナダのブリティッシュ・コロンビア州バンクーバーに住む元機械工のマーティン・ウィンさん(71歳)のコレステロール値は、じわじわと上昇していた。自転車で坂を登ると胸に痛みがあり、狭心症が疑われた。そこでかかりつけ医と相談して、コレステロール低下薬、スタチンを使った治療を受けることにした。

ウィンさんのような人は多い。スタチンは歴代1位の売り上げを誇り、米国で1300万人以上、そのほかの国で1200万人の患者が服用している。2006年の売り上げは278億ドル。その半分が、代表的なスタチン系薬剤「リピトール」を販売する米製薬大手ファイザー(PFE)の懐に入る。

スタチンは期待通りの効果を発揮した。コレステロール値は20%下がり、「おかげで長生きできそうだ」とウィンさんは喜んだ。しかし話はここで終わらない。

ウィンさんのかかりつけ医であるジェームズ・M・ライト氏は、どこにもいるような家庭医ではなかった。カナダのブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)の教授で、政府が資金援助する治療薬研究を指揮している。目的は、特定の薬品に関するデータを分析してその作用を解明することだ。ウィンさんの治療開始と同時に、ライト教授の研究チームは長年にわたるスタチンの試験で得た証拠の分析に入った。

確かにスタチンは、心臓発作を起こしたことがある患者の救命には役立つ。再発の確率を少し減らすことで早死にを防げるからだ。ところがウィンさんのように心臓疾患のない大半の患者については、データは予想外の事実を示していた。

◆ほとんどの人に効果がない“特効薬”
65歳以上では効果を確認できなかったのである。コレステロール値がどんなに下がったとしてもである。また年齢にかかわらず、女性には効果がなかった。臨床試験でスタチンを投与した中年男性では、心臓発作が若干減少した。しかし“悪玉コレステロール”の値が大幅に下がったにもかかわらず、死亡したり入院が必要になったりする疾患の総数は減らなかった。

「ほとんどの人が、効果がないどころか健康を害する危険すらある薬を服用している」とライト教授は指摘する。こうした証拠を踏まえ、ウィンさんが狭心症でないと判明したことから、ライト教授はスタチン治療の中止を決めた。「明らかな効果がないのでやめることにした」と、ウィンさんも納得している。

しかし米国の医師、企業、マスメディアは、「悪玉コレステロール値が高いと早死にするから、数値を下げなくてはいけない。スタチンはそのための最良の薬だ」と繰り返している。全米コレステロール教育プログラム(NCEP)が発行している政府公式ガイドラインによると、スタチンは不可欠な薬であり、米国での服用者は4000万人に上る。「歯の健康のためのフッ素のように、スタチンを水道水に添加すべきだ」と、冗談混じりで提案する研究者もいるほどだ。

ファイザー以外でスタチンを販売しているのは、米製薬大手メルク(MRK、商標は「メバコール」と「ズコール」)、英アストラゼネカ(AZN、同「クレストール」)、米ブリストル・マイヤーズ スクイブ(BMY、同「プラバコール」)だ。スタチンは不可欠だという業界の宣伝文句を見聞きしない日はほとんどない。例えばファイザーはテレビや新聞の広告で、人工心臓の開発者でリピトール服用者のロバート・ジャービック博士を起用している。新聞広告では、「心臓疾患の危険因子が複数ある方の場合……リピトールによって心臓発作のリスクが36%下がります」と謳っている。スタチンの効果を疑う者などいなかったのである。

ところが、そもそもコレステロール値を下げる必要があるのかどうか、疑問を呈する研究者は多い。1月14日にメルクと米シェリング・プラウ(SGP)が明らかにした試験結果によって、この疑問はさらに強まった。広く使われているスタチン系コレステロール低下薬を、作用メカニズムが異なる「ゼチア」と併用したところ、効果が高まったのだ。2つの薬を組み合わせることで、患者のコレステロール値はスタチン単独よりも大幅に低減した。ところが、2年間の治療でさらに数値は下がったものの、治療効果は全く表れなかったのである。

◆宝くじに当たる確率より低い?
第2の重要な点は、ファイザーのリピトールの新聞広告の中のなにげない部分に隠れている。劇的とも言える“心臓発作のリスクが36%下がります”の数字のところに星印が付いており、小さい文字で但し書きがある。

「大規模な臨床試験で、偽薬(砂糖の錠剤)を投与した患者の3%が心臓発作を起こしたのに対し、リピトール投与患者では2%でした」

ここで簡単な計算をしてみよう。この数字は、3年4カ月にわたる治験の対象者各100人につき、偽薬を投与した患者のうち3人、リピトール投与患者のうち2人が心臓発作を起こしたことを意味する。薬による差はどれぐらいかといえば、心臓発作を起こした人が100人に着き1人少ない。すなわち、1人の心臓発作を防ぐのに、100人がリピトールを3年以上服用しなくてはならなかったことになる。そのほかの99人は、測定可能な効果は得られなかった。つまり、患者1人に効果が表れるまでの治療必要例数(NNT)は100となる。NNTは一般には知られていないが、有用な指標だ。

例えば胃潰瘍の原因となるピロリ菌を除去する抗生物質治療の場合、NNTは1.1である。11人に投与すると10人が治癒する計算だ。NNTが低ければ、多くの患者が治療効果を期待できることになる。

何年もスタチンを服用しても効き目があるのは100人に1人だと説明すれば、患者は驚き、ウィンさんと同様、多くは服用するのをやめるだろう。

さらに、多くの患者にとって効果は「NTT=100」にも満たないとする根拠もある。NNTを決定する試験は、製薬業界が費用を負担し、高血圧や喫煙といった様々な危険因子を持つ患者が注意深く選ばれて実施されている。しかし、米国政府が資金を出して行われた大規模な試験では、統計的に有意な薬効は全く確認できなかったのである。

また、「臨床試験は様々な要因に左右されやすいため、“わずかだが効果がある”という結果には常に疑わしさがつきまとう」と、ノースカロライナ大学チャペルヒル校の薬学教授で、製薬業界を長年批判してきたノーティン・M・ハドラー博士は指摘する。「NNTが50以上ということは、宝くじに当たる確率より低いということだ。最悪の場合、全員が“外れ”かもしれない」と言う。

最近の学術論文では、5年以上スタチンを服用しても低リスク患者のNNTは250以上だと報告されている。

◆薄く広い予防措置にどれだけの予算を投じるべきか?
製薬業界に批判的な、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で臨床医薬を専門とするジェローム・R・ホフマン教授はこう問いかける。

「250人を1部屋に集めてこう言ってごらんなさい。年間1000ドルを払って、ある薬を毎日飲んでください。下痢や筋肉痛などの副作用があります。しかも250人中249人には全く効果がありません。運動するのと同じくらいの効果はあるでしょう──。何人がその薬の服用を選ぶだろうか」

製薬会社をはじめとするスタチン支持者は、NNTが高いことをあっさり認めている。ファイザーの担当者からは、「ご指摘の通り、この試験ではNNTは100前後になります」との回答があった。

その一方でいくつか反論も返ってきた。NNTが高いからといって広く使用されるべきではないということにはならないというのだ。NNT100超という数値が示す通り効果は小さいものの、何百万人もの患者が使用している以上、1000人単位で心臓発作を防ぐことができるからだ。

筋は通っている。だが、同時に医療政策に関する重大な問題も提起している。スタチンの投与や前立腺がんの検査のように、恩恵を受けるのはほんの数パーセントの人に過ぎないような予防措置に、どのぐらいの予算を投じるべきかということだ。

「全体の視点で考えるなら全員にスタチンを投与すべきだろう。しかし、個人の視点で考えるなら投与すべきではない」と、英ダーリントン記念病院で顧問医を務めるピーター・トルービー博士は言う。「全体の視点からは大きな価値があったとしても、一人ひとりの視点からはほとんど利益にならないことがある」。地域の慈善事業のために宝くじを買うようなもので、目的は立派だが、くじが当たる確率は極めて低い。

またスタチン支持者は、NNTは投与後3~5年で計算されるため、数値が異様に高く出がちだと主張する。ファイザーは、試験では100人に投与して1件しか心臓発作を抑えられなかったものの、将来的な心臓発作のリスクを軽減することで、「基本的に一部もしくは100人全員に効果がある」と述べている。

もっと長期にわたってスタチンを投与すれば効果は高まるというのが支持者の考えだ。「スタチンを5年間だけ服用しても意味がない。コレステロール低下薬は一生飲み続けるべきだ」と、積極的なスタチン治療を唱える人物もいる。NCEP委員会の委員長で、米テキサス大学南西医療センター付属人間栄養センター(ダラス)所長のスコット・グランディ博士だ。

グランディ博士の推計では、人が一生の間に心臓発作を起こす可能性は約30~50%(女性より男性の方が高い)。スタチンはそのリスクを約30%低減させるという。スタチンの服用を30年以上続けると、100人当たりの心臓発作は9~15件減る計算だ。つまり、1人の心臓発作を防ぐためにスタチンを一生飲み続ける必要のある人はわずか7~11人ということになる。

批判派は、こうした楽観的見通しをにわかに信じることはできないと反論する。心臓発作が30%減少するというのは、「あくまで最良のシナリオであり、それを実証した研究はない」とライト教授は指摘する。さらには、スタチンは登場して20年と歴史が浅く、長期投与でNNTが下がるという証拠はまだ皆無に近い。

最も重要なのは、心臓疾患の既往症がない人へのスタチン投与試験で心臓発作はわずかに減少しているものの、死亡や深刻な疾患は減っていないということだ。「心血管のリスクが減少しても、代わりにほかの重大な疾患が生じる恐れがあることを患者に伝えるべきだ」とジョン・アブラムソン博士は言う。米ハーバード大学医学部の臨床指導者で、ビジネスが医療に及ぼす影響を探った『オーバードーズド・アメリカ(薬漬けの米国)』の著者でもある。

◆生活習慣を変える方が効果が大きい
心臓疾患のない患者の場合、薬を服用しても死亡や重大な疾病は減少しない――。ファイザーは回答文書でこの重要な論点について反論はしなかった。スタチンは「冠動脈事故による死亡のリスク」を減らすと改めて主張した上で、ライト教授の研究は査読のある科学雑誌に掲載されたものではないと指摘している。

NNTが100でも、100%安全で価格が安い薬なら、広く使われて問題にはならない。だが、推計でスタチン服用者の10~15%に筋肉痛、認知障害、性機能障害などの副作用が出ている。またスタチンが広く使われれば、薬代だけでなく、医師の診察やコレステロール値などの検査費用も必要となるため、年間数十億ドルのコストがかかる。医療費には限りがあるため、「本当に有効な治療がなされなくなってしまう」と、米カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部のベアトリス・A・ゴロム准教授は言う。

では何が有効なのか。恐らく、食事を地中海式に切り替えるか、少なくとも魚をもっと食べるように促すことだろう。試験規模が小さいため説得力には欠けるものの、どちらの方法でもスタチンより心臓発作が大きく減るという研究結果が複数出ている。身体の健康を保つことも重要だ。UCLAのホフマン教授は、「本当に効果があるのは生活習慣、運動、食事、減量だ。NNTは依然として高いが、薬よりずっと安上がりだし、生活の質の向上にもつながる」と述べている。

スタチンに限らず、ほとんどの薬がリスク対効果という難問を抱えている。現代の薬には、知られざる側面――効果があるのはごく一部の人だけという事実――がある。「薬の効き目は絶大だと考えがちだが、実際の効果を知れば驚くだろう」と、米ダートマス大学医学部のスティーブン・ウォロシン准教授は言う。

例を挙げよう。βブロッカーという、うっ血性心不全の治療に欠かせないとされる薬がある。しかし研究によると、平均24人が7カ月間飲み続けて、1人の心不全による入院を予防できる(つまり、NNTが24になる)。さらに1人の死亡を防ぐためには40人が薬を飲む必要がある(NNTは40)。「有効だと言われている薬でも、NNTは20以上になる」と、米ミシガン州立大学医学部で家庭医学を担当するヘンリー・C・バリー准教授は言う。

ほかの多くの薬でも、NNTは大きい。英グラクソ・スミスクライン(GSK)の「アバンディア」という糖尿病の進行を抑える薬がある。2006年には米国で26億ドルを売り上げたドル箱商品だが、2007年に心臓発作のリスクを高めるという臨床試験データが発表され、大きな話題となった。あまり知られていないが、実はアバンディアが患者の命を救うという証拠はないのだ。スタチンがコレステロールを下げるように、アバンディアに血糖値を下げる効果があるのは確かだ。だが血糖値が下がっても、心臓病、脳卒中、腎不全といった糖尿病の恐ろしい合併症の予防にはつながらないのだ。

アバンディアの評価を行った米食品医薬品局(FDA)の諮問委員会のクリフォード・J・ローゼン委員長は、臨床試験では「ブドウ糖のコントロールには優れているものの、心血管事故を減らすという明確な結果は得られなかった」と、医療専門誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に解説記事を書いている。「アバンディアは現行制度の欠点を象徴している。NNTは無限大に近い」とUCLAのホフマン教授は言う。

グラクソのマーレイ・スチュワート臨床開発担当副社長は、心臓病などの主な糖尿病合併症に対するアバンディアの効果について「まだ結論が出ていない」とする一方、インシュリンが必要になる時期を遅らせるなどの効果があると主張している。

効果があると考えられていた治療法なのに、臨床試験で“落第”したものはほかにもある。ホルモン補充療法は心臓病に対して効果がない。抗精神病薬は知的障害のある患者の攻撃性を抑える効果が偽薬よりも少なかった。

◆製薬会社の売り上げ至上主義が事実を歪めて伝える
消費者と医師が正確な知識を持っていて、合理的に治療法を決められるのなら、薬の効果についての真実を知ってもうろたえることはないだろう。しかしダーリントン記念病院のトルービー博士とUBCのライト教授らの研究によれば、患者の期待は、薬の実際の効果を大きく上回っている。

認識のズレはなぜ起こるのか。その理由の1つとして、薬の効果の表現方法が問題視されている。「心臓発作が36%減少」と表現されると、「NNTが100」より劇的で重要なように思える。「NNTの数字を知ればびっくりするだろう」と、米国立衛生研究所(NIH)医学研究応用室長のバーネット・S・クレーマー博士は言う。

製薬会社は前者のような表現を好んで使う。つまり心臓発作が起こる割合が大きく減少することを前面に出し、NNTには触れないようにするのだ。しかし副作用の話になると、その逆だ。副作用が実際には「50%の増加」になっていても、「100人に1人」と説明して不安を消そうとするのだ。「NNTを知らない医者が多い」と、米マサチューセッツ大学医学部の小児科准教授としてNNTの活用を勧める小児心臓内科医、ダルシャック・サンガビ氏は述べている。

「スタチンの問題は、有効な薬を売ろうとしてやりすぎた典型的な例だ」と、米テキサス大学医学部(ガルベストン)で家庭医学を教えるハワード・ブローディ教授は語る。結局、製薬業もビジネスなのだ。企業は売り上げを伸ばし、株主に利益を還元しなければならない。問題は、多くの薬の効果は患者のごく一部でしか見られないということだ。スタチンの場合は心臓疾患のある患者だ。だがそのような患者だけを相手にしていては、爆発的な売り上げは期待できない。そこで製薬会社はあらゆる手段を使って、自社の薬がもっと広範囲の――当然、効果が小さい――患者にも不可欠だと宣伝する。

「コレステロールが高いのなら、減らさなければならない――。ファイザーをはじめとする製薬会社のマーケティング担当者は、巧みに消費者にそう思い込ませた。心臓血管疾患の既往症がなければ効果がないという重大な事実を隠すのでは、科学的とは言えない」

米カリフォルニア・ウエスタン法科大学院保健法研究所長でサンディエゴ患者安全センターのブライアン・A・リアン共同所長はそう批判する。「証拠に基づいていないことを示す調査結果があり、私を含め異議を唱える人間はいた」。だが、製薬会社のこのマーケティング方法は功を奏した。

◆薬の効果を賞賛する研究者には製薬会社から多額の報酬
ファイザーは、製薬業界には「厳しい規制」があり、広告やマーケティング活動で用いた表現はすべて「リピトールの成分表示と治験に基づくデータを正確に反映している」と回答している。

だが製薬会社は、薬の効果を賞賛する研究者や医者に多額の報酬を払っている。「スタチンが有効だと強く主張する人は、必ずと言っていいほど製薬業界から大金を受け取っている」と米ミシガン大学医学部で内科担当のロドニー・A・ヘイワード教授は言う。2004年に改訂されたNCEPのガイドラインでは、悪玉コレステロールの目標値を今より低くすることが推奨されている。つまり、もっと多くの人が薬を飲むように誘導しているのだ。

ところが、9人の専門委員のうち8人が製薬業界から経済的な支援を受けていた。それが、医学界で激しい論争を巻き起こした。「ガイドライン策定の過程に歪みがあった」と、ミシガン州立大のバリー准教授は言う。同氏を含む35人の専門家は、「ガイドラインは証拠に乏しく、製薬会社との関係で委員の考えが偏っている」とする抗議文をNIHに提出した。

NIHの役員でNCEPのコーディネーターを務めるジェームズ・I・クリーマン博士は、利害の対立が表面化したことは「我々のような組織にとっては非常に重大な事態であり、真剣に受け止めている」としながらも、「科学的な事実には全く誤りはない」と答えている。

◆現場の医師も患者も分かりやすい“数字”を求める
クリーマン博士が主張する“事実”を誰もが信じているわけではない。スタチンを批判する人々から見れば、米国人は分かりやすい指標に頼りすぎる。コレステロール値のような、経過観察をして改善できる基準値がほしいのだ。

「数字を示すと、それにこだわって改善しようと努力する」と、テキサス大学のブローディ教授は言う。バリー准教授は、「米国の文化では、何もせずに眺めているより、何か行動を起こすほうが安心できるからだ」と説明する。これは医師も同じだ。国のガイドラインや患者の要望、それにコレステロールを検査して減らすことが収入につながる一種の“業績給制”が、医師を後押ししている。

ブローディ教授は自身も、数値を重視するこのやり方に「巻き込まれている」ことを認め、無縁でいるのはほぼ不可能だと言う。「コレステロールの検査はしなくていいなんて言ったら、たいていの患者は、“こいつはニセ医者だ”と診察室を飛び出すだろう」。

それでもブローディ教授は考えを改めた。「今では、すべての人がコレステロールの検査を受けるべきだという考え方は迷信だと思っている。考えてみれば当たり前だ。今までなぜ気づかなかったのか」。

コレステロールは心臓病の危険因子の1つにすぎない。米オークランド研究所アテローム性動脈硬化症研究部のロナルド・M・クラウス部長によれば、「LDLコレステロール」が多いと、動脈の中に堆積物ができ、心臓病が起こりやすい状態になる。だが、ほかの要因がなければ発症には至らないのだ。「心臓病の患者を診察すると、コレステロール値は心疾患のない人と比べてそう高くはない」と言う。

外国と比較してみると、このことがよく分かる。スペイン人はLDLの値が米国人とほぼ同じだが、心臓病の発症率は米国の半分に満たない。スイス人は米国人よりコレステロール値が高いが、やはり心臓病の発症率は低い。オーストラリア原住民であるアボリジニはコレステロール値が低いが、心臓病の発症率は高い。

さらにミシガン州立大のバリー准教授によれば、スタチン以外のコレステロールを下げる薬には「心臓発作や脳卒中を予防する効果がない」という。腸でのコレステロールの吸収を阻害するゼチアという薬がある。米IMSヘルス(RX)によると、メルクとシェリング・プラウが販売するこの薬の2006年の売り上げは15億ドルに上り、2007年上半期の売り上げは25%の伸びを見せている。両社はゼチアとスタチンを組み合わせた「バイトリン」という薬を開発し、2007年に20億ドル以上の売り上げがあった。

メルクとシェリング・プラウは2006年、遺伝的にコレステロールの高い患者にゼチアとスタチンを組み合わせて投与した場合と、スタチンだけを投与した場合とを比較する臨床試験を実施した。両社は結果の公表を遅らせて専門家の反感を買い、議会の調査を受けかねない状況になった。

1月14日にようやく公表された結果を見ると、ゼチアとスタチンを併用した場合は、スタチン単独の場合よりもLDLが減っていたが、それ以上の効果は見られなかった。それどころか、スタチン単独の場合より併用した場合の方が患者の動脈は厚くなっていたのだ。両社の共同事業体の広報担当、スキップ・アーバイン氏は、「試験は小規模だった」とし、「LDLコレステロールを下げることと心臓血管疾患による死亡が減ることの間には強い相関がある」と主張している。

◆コレステロールを下げても健康にはならない
コレステロールを下げること自体が万能の策ではないなら、スタチンが心臓疾患のある患者に有効なのはなぜなのか。米ブリガム・アンド・ウィメンズ病院心血管部門(マサチューセッツ州ケンブリッジ)の医師ジェームズ・K・リャオ氏は10年以上前からこの謎に取り組んでおり、スタチンには別の生物学的効果があるのではないかと考えた。

リャオ氏の研究チームはこの仮説を立証した。少し専門的な説明をすると、スタチンは肝臓でコレステロールに変わる物質の生成を阻害することで血液中のコレステロールを下げる。一方で、この物質はほかの重要な化学物質の材料にもなっているのだ。

おもちゃ工場に例えて考えてみよう。同じプラスチックがおもちゃの車のほか、トラックや電車に加工される。プラスチックの生産量が減れば、車(コレステロール)だけでなく、トラックや電車(ほかの化学物質)の生産も減ってしまう。人体ではこの物質が体の機能を司る遺伝子のオンとオフを切り替える信号の働きをしており、これが効果と副作用の両方をもたらしているのだ。

リャオ氏は、この物質の生化学的なプロセスを解明した。最近の研究で、Rho-キナーゼ(ローキナーゼ)という酵素が重要であることが分かった。スタチンで動脈の炎症を抑えられるのは、この酵素の量を減らすからだ。Rho-キナーゼを減らしたラットでは、心臓病が起こらなかった。「スタチンの効果は、コレステロールを減らすことで生じるのではない」と、リャオ氏は結論づけている。

この研究結果によって、スタチンが心臓疾患のある人には効果があり、単にコレステロールが高いだけの人には効かない理由も説明できそうだ。比較的健康な状態であれば、Rho-キナーゼ値も正常であり、動脈の炎症もほとんどない。だが、喫煙や高血圧によりRho-キナーゼ値は上昇する。スタチンはRho-キナーゼの値を正常に近づけ、悪要因を打ち消してしまうのだ。

すべてを考え合わせると、「現時点の研究結果から、LDLコレステロールは無視してよいことになる」と、ミシガン大のヘイワード教授は言う。コレステロールを下げることが生死に関わる問題だと捉えられている米国において、これは挑戦的な発言だ。スタチン支持派のある心臓病の権威は最近の会議で、「ヘイワード氏の“殺人行為”について法廷で責任を問うべきだ」と息巻いていたという。NECPのクリーマン博士も、個人的な意見として、ヘイワード教授に不利な証拠の方が圧倒的に多いだろうと述べている。

◆薬が合理的に使われれば製薬会社は大打撃を受ける?
最近の研究結果はLDLを減らす必要性を唱えてきた人々の反発を招く一方、スタチンのもっと効果的な使用法も示している。驚くことに、肯定派も否定派も一般的な健康法については意見が一致しているのだ。心臓病が心配なら、まず食事を改善し、運動を増やす。そうすれば「高リスクの人の数を大幅に減らすことができ」、薬が必要な人もかなり少なくなるとクラウス氏は言う。

それでも治療が必要な患者については、LDLコレステロールの値ではなく、患者ごとの心臓病リスクに基づいてスタチンの処方を判断すべきだというのが、ヘイワード教授の最近の研究で出た結論だ。リスクが高いほど、薬もよく効くのだ。「リスクが同じ患者が2人いれば、スタチンはLDLの値にかかわらず同じ効果があることが分かっている」と明言する。

近いうちに、この結論に沿ってさらに的確な治療法を模索することが可能になるかもしれない。ヒトのゲノム配列を初めて解読した米セレラ・グループ(CRA)は、薬の効果の有無を予測できる遺伝子パターンを発見している。探索研究担当のジョン・スニンスキー副社長によれば、この遺伝子パターンは60%程度の人に見られ、それ以外の人ではNNTが非常に高くなる。また、「コレステロール値は全く関係ない」とも述べている。

もし薬が今よりも合理的に使われるようになれば、製薬会社にとっては大打撃だ。しかし国民は健康になり、財政的にも助かるだろう。この理想は実現するだろうか。NNTのデータやコレステロールとの関連の薄さ、遺伝子パターンの解明によって、医師の行動や患者の考え方は変わるのか。UCLAのホフマン教授は、米国の医療報酬のあり方が変わらない限りは難しいと考える。「現在の医療制度は初めに“データありき”ではなく、“カネ儲けありき”だからだ」。

(出典:日経ビジネス オンライン)


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