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医師と製薬会社の関係

◆医師と製薬会社の適切な関係って?◆


宮田靖志氏(札幌医科大学医学部 地域医療総合医学講座准教授)=司会
斉藤さやか氏(筑波メディカルセンター病院 総合診療科)
俵望氏(洛和会音羽病院研修医)

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皆さんの周りにある、製薬会社名や薬の名前の入ったグッズを数えてみてください。ボールペンにクリアファイル、付箋、レポート用紙……結構な数になりませんか? また、医局で開かれる勉強会に行ったら、おいしいお弁当が出てきて薬の説明が始まった、なんて経験はないですか?

今回は、そういった製薬会社からのサービスが医師の意識や処方にどんな影響を与えているのか、事例や調査データ、文献をもとに読者の皆さんと一緒に考えてみたいと思います。サービスを受けて「得した!」 と思う前に、「これってどうなんだろう?」 とちょっと視点を変えてみる、そんなきっかけになれば幸いです。
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宮田 俵先生は普段、「医師としてどうあるべきか」など、周りの方々と話されることはありますか。

俵 いきなり抽象的な話題にはなりませんが、例えば患者さんから何かいただきそうになったときにどう対応すべきかなど、話し合うことはあります。

宮田 確かに、それには医師としての自分のスタンスが関係してくる場合がありますね。最近、そういった医師としてのあり方や職業倫理、すなわち「プロフェッショナリズム」が問われることが増えてきているんです。

俵 プロフェッショナリズム、ですか。普段はあまり耳にしない言葉かもしれません。

宮田 日本ではまだなじみが薄い部分もありますが、欧米では以前から、医師のプロフェッショナリズムとは何か、議論されてきました。その代表例が、2002年に欧米の内科専門医会が共同で作成した「医師憲章」です1-3)。

「患者の福利優先」「患者の自律性尊重」「社会正義の追求」がこの憲章の3原則ですが、これらの原則に基づく責務のなかには、「医療の質・アクセスの向上」「患者に正直であること」などのほか、「利益相反に適切に対処して信頼を維持する責務」というものがあります。身近な例では、MRさんなど製薬会社の方たちとの関係において、きちんと社会に説明できるような行動を取ることが、これに当たります。製薬企業と医師の間で大金が動くような事例がメディアに取り上げられたりすることもありますが、そこまででなくとも、私たち自身も実際にさまざまな利益供与を受けてきていますよね。

MRさんと、どう付き合っていますか?

宮田 例えば私が大学を卒業してすぐの話ですが、MRさんに高級クラブに連れていってもらうという経験をしました。そのときは驚きつつも「これが医者の世界なんだな」と納得し、あまり問題視することもなくしばらくは同じような状況に浸っていました。

しかしその後、製薬会社からのサービスは受けない方針の医局に勤務することとなり、ずいぶん状況が変わりました。また、米国で医学教育を勉強していたときに「プロフェッショナリズム」が大きな話題になっていることを知り、それを学んだことがきっかけで、製薬会社からの利益供与についても真剣に考えるようになりました。今ではMRさんと会うことはめっきり少なくなってしまいましたね(笑)。

斉藤先生の年代は医局でも中心的な役割を担うようになりますし、MRさんと接する機会も多いのではないですか。

斉藤 MRの方は、「ご挨拶だけでも」といらっしゃるのですが、「結構です」と1人に言ったら、どなたも話しかけてこなくなりました(笑)。患者さんに対してニュートラルであるためには、直接話す必要はないかなと……。

宮田 徹底していますね。医師になった当初から同じ姿勢だったのですか。

斉藤 学生時代に、医療倫理などについて書かれたバーナード・ローの著書4)を皆で毎週1章ずつ読んだりしていました。周りにそういった問題について活発に議論する人が多く、そうした環境に身を置いていたことも影響していると思います。

宮田 俵先生はいかがですか。

俵 上級医の先生が立ち話をしているのを見かけるぐらいで、直接話しかけられることはまだあまりないですね。音羽病院では、MRさんが医局の中までは立ち入れないという決まりがあり、週2回、決まった曜日に訪問してくるようになっているんです。

宮田 きちんとしたルールがあるんですね。

斉藤 食事会などに参加されたことは?

俵 ローテート中の診療科にもよりますが、製薬会社提供の食事会に出席したことはあります。薬の説明もなく、スポンサーとして製薬会社が存在しているだけという会もありました。今考えると違和感がありますね(笑)。

ボールペンから高級ステーキまで

宮田 ここからはいくつか、製薬会社からの利益供与の事例(表1)を見ていきたいと思います。これはすべて私自身の過去の経験をアレンジしたものです。俵先生、事例(1)のM先生の行動はどう思われますか?

表1 M先生の行動は適切だろうか?
事例(1)

ローテート中の2年目研修医M先生は、指導医の先生らとともに学会出張した。学会終了後指導医に誘われ、MRさんと食事に行くことになった。案内されたのは今まで来たこともないような高級レストラン。「何でも好きなものを」とMRさんに促され、1枚2-3万円もするステーキを注文した。何となくしっくりこないものを感じはしたが、ステーキは間違いなくとてもおいしかった。

事例(2)

卒後8年目を終え、転勤するM先生の送別会を開くことになった。例年送別会は、居酒屋で勉強会と称して薬の説明会を行い、その後宴会という流れ。今年も「胃薬○○の説明会ということでどうでしょう?」とMRさんが持ちかけてくれた。かたちだけは会費1000円を徴収したものの、残りの会計は製薬会社が負担。送別会は例年通り盛況で、M先生も楽しんだ。

事例(3)

卒後10年目で指導医の立場にあるM先生は、勉強の場をもっと作りたいと考えていた。そんな折MRさんから「新薬○○の説明会をぜひ」と提案が。快諾すると「お弁当はいくつ用意しましょうか?」数日後、医局員が集まり、豪華な寿司折り付きの説明会が実施された。

事例(4)

M先生は、「『○○』の日本語版、うちで出していますのでぜひどうぞ」とMRさんに渡されたので、お礼を言って受け取った。△△製薬と入ったカバーのついた『○○』が医局にも数冊置かれており、M先生は研修医にもこの本を勧めた。

事例(5)

M先生は、「新薬○○の処方よろしくお願いします。パンフレットもご覧ください」とMRさんから声をかけられた。パンフレットに簡単に目を通した後、同封されていた○○の名前入り3色ボールペンを胸ポケットに入れ、M先生は外来診療に向かった。

俵 すごく身近な設定だなと思いますね。実は私自身も、似たような経験をしたことがあります。上級医と一緒に高級料亭に案内されて、何でも注文してくださいと。でも本当は、不適切なことだと思います。

宮田 研修医でも処方権はありますよね。接待を受けたことが、自分の処方に影響してしまうことはありますか。

俵 自分が直接薬を選ぶときに、どの会社の薬を使っているという知識があまりないので、今の時点ではあまり影響はないと思います。でも自分の処方は、上級医に色濃く影響を受けています。その先生がもしかすると製薬会社から影響を受けているかもしれないと考えると、結局自分も間接的には影響されていることにはなるかもしれません。

宮田 あるところで、医学部5年生に(1)について意見を聞く機会があったのですが、どれぐらいの人が不適切だと答えたと思いますか?

俵 9割ぐらいですか?

宮田 実は、ほとんどの人がこれくらいなら許されると答えたんですよ。意外な答えにびっくりしてしまいました。

事例(2)はどうでしょう。

斉藤 新年会など、医局の定例行事を製薬会社がサポートしているということはよくありますよね。

俵 そうなんですか。自分が体験していないこともあって、(2)には違和感を覚えますね。

宮田 事例(3)はどうですか。

俵 これはポリクリのときに経験があります。医局の先生方と一緒に、週1回、お弁当付きの新薬の説明会に出ていたことがありました。逆に今いる病院では、こういうことはないです。

宮田 ある研修病院の研修医のランチョンレクチャーは、全部、製薬会社提供のお弁当付きという話を聞いたことがあります。

俵 へぇー!

宮田 お弁当が出ないと勉強に来ないので、食べ物で釣るんだとか(笑)。

事例(4)は、いかがですか。

俵 今ポケットに入っているのは、まさしく製薬会社の方にいただいた本です(笑)。でも正直なところ、ありがたいです。毎年改訂後のものをいち早く持ってきていただいていますし。

宮田 本のカバーに薬剤名が書いてあったりしますが、その薬の処方が増えるということはないですか。

俵 うーん。どこからもらったかも、あまり意識していないので……。

斉藤 深層心理としては、頭に入っていると思うんですよね。会社や薬剤の名前を記憶に残すには、視覚刺激だけでも十分ですから。

俵 なるほど。似たような薬だったら、記憶しているほうについ飛びついてしまうかもしれません。

宮田 事例(5)についてはどうですか。

俵 助かるなと思ってしまいます。ボールペンってよくなくなるので。

宮田 3色ボールペンは、もらうとなぜかうれしいですよね、重宝しますし(笑)。周りの人も、製薬会社からもらったボールペンを使っていますか。

俵 そういう人が多いと思います。

自分に都合よく考えてない?

宮田 斉藤先生は、製薬会社からの利益供与に関して大規模な調査をされたんですよね。

斉藤 はい。私たちが行ったのは、47都道府県の診療所と病院で働く現役の医師を対象とした郵送調査です(表2)。

表2 医師とMRとの関係に関する全国調査(斉藤さやか、向原圭、尾藤誠司)
【調査標本】全国の診療所・一般病院の臨床医2632人
(内科・外科・整形外科・小児科・産婦人科・精神科・眼科)

【研究デザイン】無記名自記式アンケートの郵送調査

【実施時期】2008年1-3月 【有効回答率】54%(n=1411/2632)

【回答者】男性:女性=77:23、卒後1-20年:21年以上=59:41、診療所:病院=58:42

【結果】

●製薬会社の販売促進活動にかかわっている回答者の割合
MRさんとの面会98%、薬の試供品を提供される85%、文具を提供される96%、薬の説明会(職場内)への参加80%、食事(職場外)を提供される49%、製薬会社提供の勉強会への参加(職場外)93%、勉強会参加費の補助を受ける49%

●MRさんとの関係について(そう思う-どちらともいえない-そう思わない)
<情報的価値>
MRさんは臨床医学の生涯教育に必要な存在である 73%-15%-12%
MRさんは新しい薬について正確な情報を提供している 73%-19%-8%
MRさんは古い薬について正確な情報を提供している 46%-33%-21%

<販促活動の影響>
MRさんとの会話は自分の処方行動に良くない影響を与える 6%-25%-69%
MRさんからの贈り物は自分の処方行動に良くない影響を与える 10%-23%-67%
MRさんからの贈り物は他人の処方行動に良くない影響を与える 16%-34%-51%

<贈り物の授受>
低額な贈り物を受け取ってよい 28%-35%-37%
高額な贈り物を受け取ってよい 5%-10%-85%

MRさんとの会話や贈り物が自分の処方行動に良くない影響を与えると思うか、また他人に関してはどう思うか、それぞれ結果が示されています。実はこの「自分」と「他人」の間には有意差があって(p<0.001)、自分よりも他人のほうがよりMRさんから影響を受けているのではないかと考えていることがわかります。

さらに、MRさんに接触する回数の多い人ほど、「MRさんの情報的価値が高く」「MRさんからの贈り物を受け取ることは適切である」と考えていることも明らかになりました。

宮田 なるほど、自分の都合のいいように考えているということでしょうか(笑)。

斉藤 自分よりも他人のほうがより影響を受けると思っている人が多いというのも、興味深いですよね。これは米国における先行研究でも示唆されているんです5)。

宮田 そういう心理を、“Self-serving bias”というのですが、斉藤先生のおっしゃった米国での調査でも、61%の医師は、製薬会社からの働きかけに「自分は影響されない」と考えている。でも「自分以外の医師も影響されないだろう」と思っている人は16%しかいないという結果が出ています。

さらに、実は医師だけでなく患者さんも「自分の担当医は大丈夫だけど、ほかの先生は危ないんじゃないか」と思っているという結果もあります6)。つまり皆が皆、自分の都合のいいように考えているわけです。

俵 自分の都合のいいように考えてしまうことが、製薬会社からの利益供与とどのようにつながるのですか。

宮田 なじみのMRさんに「この薬、ぜひ処方をお願いします」と言われてその薬を処方したとしても、「自分はMRさんのくれる情報を鵜呑みにせず、きちんとしたエビデンスに基づいて処方したんだ」と思っているんです。一方で、同僚や他人のことは、「MRさんに言われるままに処方しているんじゃないか」とみている。

俵 自分が影響を受けていることを、認識できないということでしょうか。

斉藤 というよりは、「影響を受けている=何か不適切なことをしている」という心のモヤモヤをはぐらかしたり無視したりしないと、自分のアイデンティティが保てなくなるんです。これを心理学では、「心理的防衛機制」と呼んでいます。

俵 自己を否定してしまわないように、ということですね。

宮田 ええ。「自分は不適切だと思っているけれど、指導医がこう言ったから」と「責任を回避」することもあります。逆に「関係性の利益」を強調して「ガイドラインなど最新の情報をもらうのは患者さんの役に立つからだ」と考えてみたり。 また、「危害の忘却」といって「弁当はもらっても、自分はその薬は処方しないよ」と口に出したりすることもあります。このように、心の「不協和」を解消するために自分を納得させることを、「認知的不協和のマネジメント」と言うそうです。

斉藤 利益供与を受けたことで義務感が生じる、「返報性の法則」という心理作用もあります7)。例えばわざわざへき地まで訪ねて来てくれると、「こんな遠いところまで来てくれてありがとう」という気持ちが芽生えますよね。

俵 「何かしてあげなきゃいけない」と思ってしまうかもしれないです。

宮田 医療機関の規模でいうと、一人診療やグループ診療、診療科別に見ると家庭医がMRさんと最も接触が多いという調査結果も出ています8)。小規模な医療機関で働いたり、開業しているプライマリ・ケア医は、利益供与の機会が多い可能性があるという自覚が必要かもしれませんね。

振り返ってみると私も診療所勤務のときは、かなりMRさんと接触する機会が多かったですね。利益供与も、ずいぶん受けていたような。

■MRさんだけに頼らない、薬の情報の入手法

俵 製薬会社から利益供与を受けないことが、患者さんの利益と具体的にどうつながっているのか、ちょっと実感しにくいのですが。

宮田 直接的な影響としては、純粋にエビデンスに基づいた医療を提供できるということがわかりやすいと思います。さらに、間接的に大きな影響もあります。例えば米国のデータ9)では、1年間で医師に費やされる製薬会社のプロモーション費用は120-180億ドルで、これは製薬会社のマーケティング資金の90%にあたるそうです。その費用を減らせれば、薬の値段が下がるのではないかと言われているんです。

斉藤 長期的に使う薬などは特に、患者さんにとっては1円でも安いほうがありがたいですよね。

俵 患者さんのためという点でいうと、まったくMRさんと接触しないと、新薬の情報が得にくくはないですか。

斉藤 以前勤務していた病院では、薬事委員会で承認された薬・却下された薬のリストが必ず定期的に回ってきていました。そういうシステムが病院のなかにあるとよいと思いますね。

俵 なるほど。新薬以外でも、副作用や、投与方法の変更などについて照会したいこともありますよね。そういうときはどうされているのですか。

斉藤 私は、病院の薬剤師に尋ねます。必要があれば、薬剤師からメーカーに問い合わせてもらいます。私が知らなければいけないことは、薬剤師も知っていなければいけないことですし。そうやって知識が増えることが、病院全体のメリットにもなりますよね。

俵 それならバイアスがかからずに情報を得られますね。

斉藤 「MRさんがいないと、学びの機会がない」という話もよく聞きます。でも利益供与を受けない形でコミュニケーションを取って、学ぶこともできるんですよ。

宮田 薬の情報を、MRさんや製薬会社主催の講演会以外で入手する方法を確保しておくことは大事ですよね。製薬会社がかかわる医学教育を考えたとき、勉強会や講演会は実際に多くの施設で行われていて、医師の生涯教育に一定の貢献を果たしていると思うのですが、どうしても疾患とその治療、特に薬物治療が重視されがちです。コミュニケーションや医療安全、診療の質の改善といった薬以外のことは、製薬会社主催の勉強会ではなかなか学べなかったり、内容にも大きな偏りがあったりすることが指摘されていますしね。

クリアな関係を作りたい

宮田 米国の状況をみますと、米国医科大学連盟(Association of American Medical Colleges:AAMC)が、昨年6月に製薬会社からの援助に関して厳しい勧告を出しています。個人へのギフトの全面禁止、薬のサンプルの中央管理、MRの訪問は原則禁止で医師からの招聘があったときのみ許可する、生涯教育の中央管理室を設置し、資金管理を行う、といった内容です10)。

それを受けて今年4月、「人は誰でも間違える」というレポートで有名な、米国医学研究所(Institute of Medici-ne:IOM)が提言を行いました。AAMCの勧告の内容に加え、製薬会社からの影響を防ぐ教育を各施設が行うこと、製薬会社の影響を受けない生涯教育(CME)の資金供給システムを作ること、そのために、この提言から24か月以内に米国生涯教育認定機構(Accreditation Council of CME: ACCME)が案をまとめることなどを主張しており、さらに踏み込んだ内容であると言えます11)。

こういったかたちで、米国では利益相反管理がかなり強化されようとしています。ただ、このような提言やガイドラインは、今までにもさまざまな学会や機関が作成してきているのですが、必ずしもその内容は統一されておらず、しかも違反した際の罰則は特に規定されていないので、実効性が上がらないのではないかという懸念も持ち上がっています。

斉藤 2002年にいくつかの団体がガイドラインを策定しているんですが12-14)、2007年の調査8)までほとんど認識されていなかったという、周知徹底不足の問題もありますよね。

宮田 これらの事実は、この問題の根深さというか、改善の難しさを象徴しているように思えますね。医学研究・教育はともに今、かなりの部分が製薬会社の出資で成り立っているところがありますから。国からの研究資金が減額されるなかで製薬会社からの支援をすべて断ってしまうと、医学の進歩が立ち遅れてしまう。また教育の面では、先ほども述べたように、製薬会社主催の講演会で新しい治療法などを知って役立つことも無視できないですよね。ですから、「製薬会社との関係をすべて断ち切ろう」と四角四面に主張するのではなく、情報を開示して関係の透明性を高め、患者や国民の理解が得られる体制をつくらなければならないと思うんです。

例えば教育援助にしても、勉強会を製薬会社の名前は出さずに行うけれど、病院のホームページには「当院は○○社からこのような支援を受けており、医学教育に協力してもらっています」と記載し、企業側にもメリットがあるようにする方法などが考えられます。

まずは考えるところから始めて

宮田 製薬会社からの利益供与は、ある種当たり前のことになっており、なかなか真剣に話題にする機会がないんです。ですから、その是非を問うといった大上段に構えた難しい議論からではなく、まずはどんな関係を保つのがよいのかなといった程度の話し合いを、友人や同僚の間で始めてみることが重要ではないかと思っています。

俵 私もはじめはこういった問題について、あまり意識していなかったのが正直なところです。でも来年度からの後期研修ではより利益供与を受ける機会が増えるでしょうし、意識しないままでいたら、疑問を感じずサービスを受け続けていたかもしれないと思うと、今回よいきっかけが与えられたと思っています。

それにこういった問題って、製薬会社と医師にかかわらず、指導医と研修医の関係などでもいえることで、医師としての自分の判断基準をどこに持つかということと関連しているなと思うんです。

斉藤 俵先生のおっしゃったのは、自分は誰のための医師なのかと問うこと、まさにプロフェッショナリズムを考えることにつながりますね。

宮田 学生・研修医時代に製薬会社との関係をクリーンに保てる人は、その後も同様の関係を続けていけるというデータがあります15)。例えば俵先生は、MRさんとの接触の規制がある環境にいるし、今回利益相反について考える機会もありましたから、この先利益供与を受ける前にちょっと立ち止まって考えることができるでしょう。若い人たちが医学界に足を踏み入れるときに、教員や指導医が、これらの利益提供が及ぼす影響について教えていくことも大切だと思います。

そして、読者の方々も今回の記事を読んで、こういう問題があるんだ、ということを心にとどめてもらい、自分なりの「患者にとって最良の医師のあり方」について、まずは周りの人たちと話し合うことから始めてもらえたら、うれしいですね。


医学生への製薬企業の影響を考える
元MRの医師より

賀来敦(北斗病院初期研修医)
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医師のプロフェッショナリズムを育てるためには、医学教育への介入が必要であるが、同時にそれが最も難しい。大学に存在する医師の行動そのものが学生に影響を与える。

「『医学生の人格の涵養』を阻む要因は、医学教育の中にシステムとして潜んでおり、医師としての成長は、本人より、むしろ教育のシステムに懸かっている」と私は考えている。そのシステムの構成因子の一つとして、製薬企業が存在しているのも確かである。

事例(3)のように、製薬企業の商品説明会では弁当など食事の提供が行われている。私の出身大学では唯一総合診療部だけが弁当の出ない「勉強会」を行っていたが、それに参加していた学生が帰り際に廊下で発した言葉は忘れられない。

「薬説なのに、お弁当も出ないのかあ」

早くも供応されることに慣れつつある医学生の姿がそこにあった。 私は、彼/彼女らがそのまま医師になることに、不安を覚えざるを得なかった。

「薬説でお弁当が出るんだから、ビールとかも(MRさんに)お願いしたら出るんじゃない?」

発言した学生は、接待を「強要」してしまっていることを自覚していない。

また製薬企業主催の学術講演会では、終了後に立食型の豪華な食事が提供されることが多い。講演会への学生の参加を一概に否定するわけではないが、問題は、学生を講演会に参加させるために、医師がどう声を掛けているかである。

「講演会ではおいしいものが、タダでたくさん食べられるから」

結果として、学術講演よりも豪華な食事が目的の学生が増加することになる。しかし、こういった発言が医学生に与える影響に、言った医師本人は気づいていない場合が多い。

さらに、事例(4)でも挙げられているような各種ガイドラインやポケットブックの販売促進グッズとしての配布は、私もMR時代に行っていた。これらの配布は法的には一見問題がないようだが、数千円もする書籍を次々と提供する販促方法は、果たして正常な商慣習と言えるだろうか? こういった書籍は医師から要求されることも多く、研修医・医学生用として数十冊単位での請求も少なくなかった。

こうした環境に疑問を感じないまま医師になるか否かは、個人の資質によるのかもしれない。ただ、システムとしてその危険性を内包しているのならば、医学教育における製薬企業の関与を見直すことは急務ではないだろうか。プロフェッショナリズムの土台は、学生のうちに築かれるのだから。

(了)

文献
1)Medical Professionalism Project. Medical professionalism in the new millennium: a physicians' charter. Lancet. 2002;359(9305):520-2.
2)ABIM Foundation; ACP-ASIM Foundation; European Federation of Internal Medicine. Medical professionalism in the new millennium: a physician charter. Ann Intern Med.2002;136(3):243-6.
3)認定内科専門医会 会長諮問委員会: 米欧合同医師憲章と医のプロフェッショナリズム─日本版内科専門医憲章策定をめざすプロジェクトの成果─. 内科専門医会誌. 2006; 18(1):45-57. http://acpjc.naika.or.jp/jpnchap/chart3.html
4)Lo B. Resolving Ethical Dilemmas: A Guide for Clinicians. Lippincott Williams & Wilkins、 1995.
5)Steinman MA、 et al. Of principles and pens: attitudes and practices of medicine housestaff toward pharmaceutical industry promotions. Am J Med. 2001;110(7):551-7.
6)Gibbons RV、 et al. A comparison of physicians' and patients' attitudes toward pharmaceutical industry gifts. J Gen Intern Med. 1998;13(3):151-4.
7)Katz D、 et al. All gifts large and small:toward an understanding of the ethics of pharmaceutical industry gift-giving. Am J Bioethics. 2003;3(3):39-45.
8)Campbell EG、 et al. A national survey of physician-industry relationships. N Engl J Med. 2007;356(17):1742-50.
9)Sierles FS、 et al. Medical students' exposure to and attitudes about drug company interactions: a national survey. JAMA. 2005; 294(9):1034-42.
10)Industry Funding of Medical Education Report of an AAMC Task Force. http://services.aamc.org/publications/showfile.cfm?file=version114.pdf&prd_id=232
11)Steinbrook R. Controlling conflict of interest-proposals from the Institute of Medicine. N Engl J Med. 2009;360(21):2160-3.
12)Pharmaceutical Research and Manufacturers of America (PhRMA). Code on Interactions with Healthcare Professionals. Washington、 DC. April 29、 2002. http://www.phrma.org/files/PhRMA%20Marketing%20Code%202008.pdf(Revised July、 2008)
13)Coyle SL;Ethics and Human Rights Committee、 American College of Physicians-American Society of Internal Medicine. Physician-industry relations. Ann Intern Med. 2002;136(5):396-402(Part 1: individual physicians)、 403-6(Part 2: organizational issues).
14)Accreditation Council for Graduate Medical Education (ACGME). Principles to Guide the Relationship between Graduate Medical Education and Industry. September 10、 2002. http://www.acgme.org/acWebsite/positionPapers/pp_GMEGuide.pdf
15)Anderson BL、 et al. Factor associated with physicians’ reliance on pharmaceutical sales representatives. Acad Med. 2009;84(8): 994-1002.

参考文献
宮田靖志.医師と製薬会社との関係に関するインターネット調査.医学教育. 2009;40(2):95-104.
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宮田靖志氏
1988年自治医大卒。広見町国保三島診療所など愛媛県にて地域医療に従事、2000年札医大地域医療総合医学講座助手、02年同講師。04年ハーバード大リサーチフェローを経て、08年より現職。地域医療、家庭医療、総合内科などの医学教育に従事。

斉藤さやか氏
2003年名大医学部卒、同年船橋市立医療センター研修医。05年汐田総合病院、08年東医大総合診療科非常勤を経て、09年より現職。現在、内科専門医会プロフェッショナリズムワーキンググループとして、宮田氏らとともにワークショップを開催するなどして活動している。専門は総合診療。

俵望氏
2007年熊本大医学部卒。将来は神経内科を志望。音羽病院で初期研修修了後、1年延長して神経内科関連の各科をスーパーローテート中。来年度からの後期研修に向け奮闘する日々。

(出典:週刊医学界新聞(第2854号 2009年11月09日))


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