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ビタミン

意外に知らないビタミンの話 発見100周年 疲れとビタミン不足

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意外に知らないビタミンの話 発見100周年 先を越された名声

■日本人の研究、鈴木博士が結実

人間の健康に欠かせない栄養素でxあるビタミン発見100年の歴史は、ビタミンB1から始まった。その出発点に立つ日本人の存在は大きい。今やさまざまな種類のビタミンの効能が明らかになり、生命のメカニズムの解明から医薬品まで幅広く役立っている。

明治から大正にかけて、国内で年間約2万人の死者を数えた難病といえば「脚気(かっけ)」であり、世界中で恐れられた。手足のしびれから、運動まひなどを起こし、ひどくなれば心不全で死亡する。その原因を突き止めるのが急務だった。

そのころ、鈴木梅太郎・東京帝国大学農科大学(東京大学農学部)教授=故人=は、白米だけで育てたニワトリが1カ月で脚気のようにけいれんを起こして死ぬことに着目していた。そこで、白米には含まれない米ぬかから脚気を治す有効成分「アベリ酸」の抽出に成功し、明治43(1910)年12月13日に東京で発表した。

ところが、国際的には1911年にポーランドのカシミール・フンク博士が抽出した同様の物質を「ビタミン」と命名し、発表した。これが先に認められ、広まっていった。この物質が、後のビタミンB1であった。鈴木博士の論文は日本で発表されたことから、なかなか海外の学会に伝わらなかった。後にドイツ語に翻訳されたが、なぜか「新しい栄養素である」という一文が抜け落ちていて注目されなかった。

多くの脚気患者を救ったノーベル賞級の鈴木博士の功績に対し、日本では最初に発表した12月13日が「ビタミンの日」になっている。

古代からの難病であった脚気の原因をめぐり、日本人が営々と重ねた原因研究の結実が米ぬかの成分であり、それはビタミン研究の幕開けでもあった。

ビタミン発見の歴史や健康への効果などについて報告する。

(出典:産経新聞 2010.10.5)





意外に知らないビタミンの話 発見100周年 歴史を動かしたビタミン

白米食の陸軍に脚気の死者

脚気(かっけ)の発症を防ぐビタミンB1がもう少し早く見つかっていたら、日清戦争(1894~95年)、日露戦争(1904~05年)に従軍した兵士の多くが重篤な病気から救われ、戦況はかなり変わっていただろう。1910年に見つかったB1は、日本人にとってそれほど重要な栄養素であった。

当時の陸軍省医務局の記録などによると、日清戦争では約20万人が動員され、戦死者は約980人だったのに対し、それをはるかに上回る兵士が脚気で死亡した。日露戦争では延べ100万人規模の動員で戦死者約4万6400人に対し、脚気による死者は約2万7800人に上った。ところが、海軍の場合、日清・日露戦争で脚気による死者はほとんどなかった。

陸軍と海軍の大きな違いは食事にあった。陸軍は、兵士の食事に白米を提供することで人気があった。玄米からB1を含むコメ糠を取り除いてしまう白米は、そればかり食べていると脚気になりやすい。しかし、ドイツで学んだ軍医で作家の森林太郎(鴎外)らは細菌説を主張し、白米食を変えなかった。

一方で、海軍ではパン、麦飯に加えて肉なども出した。英国で医学を学んだ高木兼(かね)寛(ひろ)・海軍軍医総監が中心になって栄養説を採用したもので、脚気がない同国の海軍のバランスがとれた食事を研究したことが功を奏した。

ビタミンについては、大航海時代に船員がかかった血液の病気、壊血(かいけつ)病に効果的なライムジュース(ビタミンC)に含まれるなど経験として知られ、歴史に影響を及ぼしてきた。その知見はビタミン学の確立とともに花開く。

(出典:産経新聞 2010.10.19)





意外に知らないビタミンの話 発見100周年 疲れとビタミン不足

■働き盛りに不足しているB1

「江戸患い」という言葉が江戸時代にあった。地方の藩から江戸に来た武士の脚がむくんで乗馬できなくなるといった症状がひどくなると、死に至った。ところが、不思議なことに帰郷すると治ってしまうのだ。

原因は、元禄時代から江戸で富裕層に流行した白米食の習慣にあった。つまり、玄米を精米して白米にする際にビタミンB1を多く含む胚芽(はいが)などを取り除くので、B1不足で脚気(かっけ)になってしまう。地元では玄米が混ざった食事なため、回復するというわけだ。

古文書などから、脚気を病んだとみられる人物の中にはNHK大河ドラマ「篤姫」でおなじみの幕末の将軍13代家定、14代家茂、家茂に嫁いだ皇女和宮らがいる。脚気が進行して心不全を起こしたらしく、いずれも青年期に亡くなっている。

明治43年に日本人がB1を発見したが、脚気患者はあまりなくならなかった。

第二次世界大戦の後、国は流通の基準となる法定米を7分つき米から保存の利く白米に変えたため、B1不足は解消されていないという説もある。

昭和25年に政府は、B1の問題を含めて全体の栄養改善策として、パンと脱脂粉乳の学校給食を導入した。

ところが、現代人にも慢性ビタミン不足の症状の一つである「疲労」を感じる人が増えている。

社会的ストレスの増加から、働き盛りの年齢層では疲労対処のためのB1の要求量が高まっている。飽食社会といわれながら、栄養バランスを考慮していない料理や加工の過程でビタミンが失われている食品もある。

どうすればよいのか。疲労とビタミンの関係について、次回報告する。

(出典:産経新聞 2010.10.26)





意外に知らないビタミンの話 発見100周年 疲労はB1不足にあり

ビタミンB1が極端に不足すると脚気(かっけ)になることは歴史的な事実で示されたが、不足すると疲労の原因にもなることが分かってきた。そこで、B1を十分に補給して細胞の活力になるエネルギーを生み出す仕組みを助け、疲労に対して働く「薬」としての使用が盛んになっている。

それでは、B1が体内でどのように働き、エネルギーづくりに役立っているのだろうか。

食事で体内に取り入れた栄養素のでんぷんなど炭水化物は胃腸で消化吸収されて細かな分子になる。さらに、体の一つ一つの細胞の中で分解されて 大半が活動のエネルギーになる。その際、B1は、反応をスムーズに進行させる潤滑油のような役目を果たしている。

もう少し詳しく言えば、炭水化物が分解されて、ピルビン酸という小さな分子になった後、アセチルCoA(コエンザイムA)という分子に変わるときにB1は必要だ。このアセチルCoAを原料にエネルギーを作り出す回路(TCA回路)が働くから、回路を活性化し、元気を出すうえでB1は非常に重要なビタミンなのだ。

これに対し、B1不足によって代謝がうまく進まないと、エネルギーが十分に作り出せず、疲労状態になってしまう。B1の増減によって体調には雲泥の差がある。

このようなB1の薬としての働きが明らかになると、B1の摂取が、脚気などの症状が出るほどの欠乏状態までには至らないものの、必要量に不十分な潜在的欠乏状態が問題になる。それは疲労感をはじめ、倦怠(けんたい)感など「なぜか調子がよくない」状態と結びつけて考えられている。

(出典:産経新聞 2010.11.2)





意外に知らないビタミンの話 発見100周年 現代人の疲労が重くなる

ロシアの作家、イワン・ツルゲーネフ(1818~83年)のこんな言葉がある。

「疲れた人は、しばし路傍の草に腰をおろして、道行く人を眺めるがよい。人は決してそう遠くへは行くまい」

多くの人は休息を取れば、疲労や悩みから回復する。しかし、そんな古き良き時代は遠ざかりつつあるのでしょうか。

平成16年に文部科学省疲労研究班が大阪府で行った疫学調査(約2700人)では、疲労を感じている人は約6割で、10~20年前に比べてほとんど増えていなかった。しかし、その疲労の質に違いがあった。そのうち、「6カ月以上疲労が継続する」と慢性疲労を訴える人が39%にも上っていた。「休めば治る」という一過性の疲れは少なくなり、疲労の症状は重くなっていたのだ。

当時の研究班のリーダーだった理化学研究所の渡辺恭良(やすよし)・分子イメージング科学研究センター長によると、疲れの原因は、運動による消耗、人間関係の精神的なストレス、気候など環境とさまざまな要因が複雑に絡み合っている。疲れてくると刺激に対する反応が鈍くなり、思考力が落ちて注意力が散漫になり、行動量が低下する。作業量や効率が6~7割に下がったときが要注意で、この状態を測定することにより、疲労の程度を定量的に測定する方法が開発されている。

このような疲労の回復にはエネルギーの補給が重要で、欠かせないといわれている。回復にはまた、傷んだ細胞の部品を修復する必要性も高い。そこで登場するのが、ビタミンB1をはじめとするB群、C、E。これらのビタミンの絶妙な作用を次回に紹介する。

(出典:産経新聞 2010.11.9)





意外に知らないビタミンの話 発見100周年 脳の疲れの回復も

疲れがたまってくると、もともと柔和な人が突然キレたり、日ごろ、テキパキ仕事ができる人の集中力が鈍ったりする。

疲労の状態は、「だるい」「肩凝り」といったエネルギー切れによる筋肉の不調だけではない。脳内の神経ネットワークがうまく調整できずに神経の機能が健常に保てなくなる状態でもある。

そこで大切なのはビタミン類。中でもビタミンB1はエネルギー生産だけではなく、脳神経の機能もサポートしていることが分かってきた。

まず、脳はエネルギー源としてブドウ糖を使う。このとき、糖質を効率よく利用するにはビタミンB1が必要だ。

疲労の研究で知られる理化学研究所の渡辺恭良(やすよし)・分子イメージング科学研究センター長は「ビタミンB1には、神経の機能維持に必要なタンパク質などが壊れたときに、それを修復する役割もある。また、最近の研究で、神経伝達を調節する効果があることも分かってきた」と説明する。

これまでに分かったビタミンB1の脳神経に働く仕組みを紹介しよう。

ビタミンB1の本体は「チアミン」という物質だ。体内ではまずリン酸の分子が2個結合して「チアミン2リン酸」に変わることにより、エネルギーを生み出す機能を持つ。

脳神経にかかわるのは、もう1個リン酸が結合し「チアミン3リン酸」になったときだ。脳神経細胞の情報の運び屋である神経伝達物質が放出される際に、それを促進しているらしい。つまり脳神経細胞のネットワークを活発にし、機能を維持している。

精神の疲労回復にも役立っているらしい。

(出典:産経新聞 2010.11.16)





意外に知らないビタミンの話 発見100周年 自然の薬

「トマトが赤くなると医者が青くなる」。イタリアの古いことわざで、トマトが熟すと病気が減るという意味だ。確かにトマトはビタミンA、C、E、B群など健康を保つ栄養素を豊富に含む。

「冬至の日にカボチャを食べるとカゼをひかない」という日本の伝承もカボチャに健康に良い栄養素が含まれるとされたからだ。それは、ビタミン類である。

経験から得た養生訓(ようじょうくん)は実に科学的だ。

ビタミンは人間の体内で作ることができないので、食事などから摂取しなければならない。

例えば、豚肉や米ぬかに多く含まれるビタミンB1はエネルギーを生み出すときに役立ち、緑黄色野菜に多いビタミンCは抗酸化作用がある。ビタミンは毎日の食事で必要量を取っていれば生理作用を健常に維持し、病気を予防する効果がある。

ところが、必要量に満たない状態が長く続くと欠乏症になる。ビタミンB1不足の場合、脚気(かっけ)のほか、意識障害などを起こす「ウェルニッケ脳症」が知られている。この病気はビタミンB1を薬として大量に投与することにより回復する。

このように、ビタミンを推奨量の倍以上、集中的に投与することで薬理効果を出すことができる。健常な人でも疲労のために、ビタミンB1などを含むビタミン剤の服用は効果がある。また、ビタミンB1(チアミン)の吸収をよくしたフルスルチアミンなどが開発されている。ただ、ビタミンA、D、Eなどの脂溶性ビタミンは、体内に蓄積しやすい。このため、副作用が出ないように上限値が決められているので気をつけよう。

(出典:産経新聞 2010.11.23)





意外に知らないビタミンの話 発見100周年 高齢者の摂取量

ビタミンはどれだけの量を取れば健康な生活が維持できるのだろうか。

厚生労働省は「日本人の食事摂取基準」の中でビタミンそれぞれについて、摂取量の基準を決めている。その中で重要なのは「推奨量」で、性別年齢層ごとに、健康を維持するために必要な量が具体的な数値で示される。

こうした摂取量の目安に基づいて働き盛りの人たちはビタミンを取り入れればよいのだが、高齢者になると少し事情が異なる。

加齢によって、食事量が減少し、摂取量が少なくなりがちなうえ、ビタミンの吸収能力が下がっている。国民健康・栄養調査などではビタミン不足との結果も出ており、摂取不足に気をつける必要がある。

どうしても食事から十分摂取できないときは、医薬品ビタミン剤を服用することも一つの方法だ。中には、ビタミンを吸収しやすいカタチにして配合した薬もある。

ちなみに、推奨量より多くの量を服用することで、薬理作用が発揮される。例えば、ビタミンB1・B6・B12製剤の場合、「眼精疲労・肩凝り・腰痛の緩和」といった効能・効果が認められている。

高齢者のビタミン摂取について詳しい滋賀県立大学人間文化学部の柴田克己教授は「各人の摂取量を正確に知ったうえで、十分なビタミンの補給ができるのが理想。現状では一般化していないが、実験では尿中に排泄(はいせつ)されるビタミンB群を測定する方法がある。ビタミンの不足状態を確認することができるため、普及させていきたい」という。

体内で不足するビタミン量を知れば、病気も危うからずということか。

(出典:産経新聞 2010.11.30)





意外に知らないビタミンの話 発見100周年 食材での補給

日露戦争(1904年)で、ロシア軍もビタミン不足に悩まされていた。日本陸軍は白米中心の食事でビタミンB1不足に陥り、脚気(かっけ)による病死者を出したが、ロシア軍の場合は緑黄色野菜に含まれるビタミンC不足である。出血が止まらず、ひどいときは死亡する壊血病に多くの兵士がなった。しかし、激戦地の旅順など中国北東部の極寒の地では、新鮮な野菜の補給は望めない。

実は、この窮状を救う手立てはあったのだ。それはロシア軍の敗走後、倉庫から見つかった大量の大豆である。大豆にビタミンCはほとんど存在しないが、発芽させて「もやし」に育てれば、ビタミンCは十分に補給できていた。

ビタミンがどのような食材に多く含まれるかを知っておくことは、日常生活でも栄養バランスを保つうえで大切だ。主な水溶性ビタミンでは、B1が豚肉、大豆▽タンパク質の代謝にかかわるB6がサンマ、バナナ▽造血に関係するB12が豚レバー、貝のカキ▽Cがジャガイモ、レモン-である。

ただ、水洗いしたり、煮たりするときに外に出てしまう。総じて熱にも強くない。必要以上の量を摂取しても排出されるので、毎日摂取する必要がある。

脂溶性のビタミンは、目や粘膜を守るAがウナギ、ニンジン▽骨の形成にかかわるDが干しシイタケ、シラス干し▽老化を防ぐEがベニバナ油、アーモンド。調理で油を使うと吸収力が増し、熱にもやや強い。

ビタミンは微量栄養素だが、人間には不可欠なものだ。食品からの摂取が十分でないと思われたときは、欠乏の状況に応じてビタミン剤で補給するのもよい。

(出典:産経新聞 2010.12.7)





意外に知らないビタミンの話 発見100周年 健康社会に役立つ

ビタミンは、人間は体内で作れないが、生命維持に不可欠な微量栄養素である。「なぜ作れない」。その宿命は進化の謎だ。

実際、ビタミンB1は細胞のエネルギー生産をサポートして疲労の改善や、脳神経の活動にもかかわるほど重要だが、人間は作れない。しかし、牛は4つある胃の1つにビタミンB1を作る細菌が巣くう。ちゃっかり細菌からビタミンB1を供給される形で共生している。

有毒な活性酸素の除去や、コラーゲンの生成にかかわるビタミンCについては人間など霊長類とモルモットが作れず、「犬や猫などの哺乳類が体内合成できるのになぜか」という疑問が深まる。

このように常に補給する必要があるビタミンの中でもビタミンB1は、日本人に多い脚気(かっけ)の予防・治療との関係で、効率良く吸収する方法が研究されてきた。

突破口を開いたのが藤原元典博士だ。京都大学医学部の講師だった藤原博士はビタミンB1を分解する酵素を調べていて、ニンニクのしぼり汁にビタミンB1を混ぜると、そのビタミンB1の姿がなくなり、体内で元のビタミンB1に復元されることに気付いた。

ニンニクの成分とビタミンB1が結合して新しい物質に変化していたのだ。しかも、吸収量が抜群に上昇した。1954年、医薬品ビタミンB1剤「アリナミン」の誕生である。

ビタミンは健常者であれば通常の食事で賄えるが、偏食や吸収率に個人差、年齢差があることから、潜在性欠乏症も増えているという。一方で、健康や病気に対する新たな作用も分かり、薬として使用される機会も多くなった。人間が作れないという宿命があるだけにビタミンの正確な知識が必要だ。=おわり

(出典:産経新聞 2010.12.14)


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