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2015/01/14(水)05:06

不眠症の本質は「睡眠時間の誤認」である

睡眠・休養(171)

不眠症の本質的な問題は睡眠状態誤認であることを世界に先駆けて喝破したのは日本人研究者だったそうです。不眠症は実際よりも睡眠時間を短く、寝つきを長く感じているそうです。 日本人は、主要国の中で最も睡眠時間が短く、睡眠の不満は多いそうです。 厚生労働省では、日本人の5人に1人が不眠に悩んでいるそうですが、2014年11月6日に発表された民間会社の全国20~79歳の男女7,827人の実態調査によると、国際基準「アテネ不眠尺度」で、約4割が「不眠症の疑いがある」、約2割は「不眠症の疑いが少しある」と判定されています。 また、睡眠と寝起きに関する実態調査委員会の調査では、寝起きがだるい:48.1%、寝起きの目覚めが悪い:9割を超えています。 ・質悪い、目が覚める 眠りに不満96% ・働き盛りの約8割が「かくれ不眠」 ・「寝起きがだるい」「疲れが取れない」が9割を超える ・若手7割 「睡眠不足で仕事に支障」 ・現役世代はお疲れモード? 「睡眠で休養取れず」 厚生労働白書 ・東京在住者「睡眠に不満47%」 世界5都市調査 ・機嫌悪い・起きない 中学生の7割、睡眠に問題 今年3月に厚生労働省が「健康づくりのための睡眠指針」を発表しています。 2014年版厚生労働白書によれば20~39歳の若い世代でも「睡眠で休養がとれている」と思う人は半数だそうですが、年齢に関係なく疲れ知らずになるのは簡単なので、喜ばれています。 ****************************【以下転載】**************************** シャンパングラスを持つ手が疲れてきた。テーブルの上にいったん戻すか、我慢するか。それにしても長い。いつまで話し続けるつもりなんだ、この部長は。「…にとって大事な三つの袋がありー…」おいおい、もう10分近くも話してるぞ。乾杯のあいさつは1分までとマナー本にも書いてあるだろうが(怒)。「えー、それではご唱和ください。乾杯」。 一席ぶって満足げな部長にとってはあっという間であろうが、聞かされる側はその2倍、3倍の長い時間に感じる。ひな壇から招待客のイライラがみてとれる新郎新婦は1時間くらい圧迫面接を受けたような気分に。同じ空間と時間を共有しているのに、おのおのが感じる時間に大きな違いが生じるのは実に興味深い現象である。 時計がなくても、頭の中である事象の長さをカウントすることができるのは、我々が生来持っている時間認知機能のおかげである。測定インターバルもミリセカンドから数時間のオーダーまで幅広い。ボクサーやアナウンサーなどの例を見ても分かるようにトレーニングで時間認知機能は向上する。カップラーメンが好きな人であれば、いちいちタイマーを使わなくとも絶妙なゆで加減ではしを手にすることができるようになる。 逆に時間認知にひずみが生じる疾患もある。その1つがこのコラムでおなじみの不眠症である。不眠症の患者さんにとって最大の関心事は睡眠時間であるが、肝心のタイマーにある種の狂いが生じていることが知られている。 ■「何時間、眠れていますか」の答えに自信はありますか 「何時間、眠れていますか」 寝床に横になっていた時間ではなく、眠りに落ちていた時間である。睡眠時間を尋ねられたら読者の方々は的確に答える自信をお持ちだろうか。 長年の不眠症に悩むKさんのケースで考えてみよう。さまざまな病院で何種類もの睡眠薬を処方されたが効果がなく、睡眠ポリグラフ検査(1晩中脳波を測って睡眠の長さや深さを客観的に測定する検査)を希望して来院した方である。 Kさんは普段、朝6時に起床する。これは現役時代から変わりが無い。夜は随分と早くなった。昔はバラエティー番組やプロ野球ニュースを見るのが日課であったが、最近はとんと興味が無くなってしまったという。不眠で疲労感が強いため、夕食を終える頃にはまぶたが重たくなり、22時前に睡眠薬を服用して消灯する。ご本人いわく「疲労感や眠気はあるのに眠れない。それから長い夜が始まるんです」。 Kさんには自宅と同じ22時~6時まで睡眠検査室で寝てもらった。翌日に正味眠れた時間を一緒に計算する。色々な計算方法があるが、消灯してベッドで横になっていた時間から眠れずに目が覚めていた時間を引き算してもらうのが一般的だ。 まず寝つきにかかった時間を思い出してもらう。「よくおぼえていないがとにかく時間がかかって苦しかった。1時間ちょっと、いや1時間半はかかったような気がする」Kさんにとって1日のうちで最も苦しい時間である。 次に途中の目覚め時間。自宅では一晩に2回ほど目を覚まし、トイレに行くという。今回の検査では3回であった。「1回目と2回目はトイレも含めてそれぞれ15分、30分くらいでまた寝たかな。3回目はなかなか寝つけず1時間近く目を覚ましていた」。 最後に朝の目覚め。「4回目に目が覚めた後はすっかり頭がさえちゃって、もう眠れなかった。家だったらリビングで一服するんだけど、検査中だからそれもできなくて辛かった。検査終了まで1時間以上は起きてたよね…」。 ■はたしてKさんは何時間眠ったのか… さてKさんが感じている「目覚めていた時間」を計算してみる。 ・寝つきにかかった時間:約 1時間30分 ・1回目の目覚め時間:約15分 ・2回目の目覚め時間:約30分 ・3回目の目覚め時間:約1時間 ・朝の目覚めから検査終了まで:約1時間 感じている目覚め時間の合計は4時間15分。ベッドで横になっていたのは8時間なので、差し引きで正味の睡眠時間は3時間45分となる。消灯時間の半分以下しか眠れていないのだから、夜が辛いのも納得である。検査で緊張したためか普段よりも眠りが浅かったというが家でも似たり寄ったりで「最後に5時間以上寝たのがいつだったか思い出せない」と嘆くことしきり。 では、Kさんの睡眠脳波検査の結果をみてみよう。 ・寝つきにかかった時間:47分 ・1回目の目覚め時間:15分 ・2回目の目覚め時間:18分 ・3回目の目覚め時間:32分 ・朝の目覚めから検査終了まで:41分 実際にKさんが目を覚ましていた時間は2時間33分、脳波で確認された睡眠時間は5時間27分、自分で感じていた睡眠時間よりも2時間近く長いという判定結果であった。 結果を説明されたKさん。しばらくしてボソリと「私はウソをついたわけではないですよ…」。もちろんですKさん、誰も疑ったりしていません。Kさんの不安、疑念、怒りを解くために普段の診療では次のような説明をする。 ■不眠症患者の大部分は実際より睡眠時間を短く感じている (1)慢性不眠症の患者さんの大部分(ほぼ100%)は脳波で測定した実際の睡眠時間よりも眠りを短く感じる。同様に、寝つきにかかる時間(消灯から入眠までにかかる時間)も長く感じる。 (2)脳波上の睡眠時間と主観的な睡眠時間の乖離(かいり)が大きい場合は「睡眠状態誤認」という診断名がつけられる。睡眠状態誤認はれっきとした不眠症の一型である。 (3)睡眠状態誤認は詐病や意図的な誇張ではなく、睡眠時間を正しく把握できない時間認知機能の低下が関連している。 今から50年以上前に、不眠症の本質的な問題は睡眠状態誤認であることを世界に先駆けて喝破した日本人研究者がいた。このグラフはその金字塔的な業績から作成した(遠藤四郎、精神神経学雑誌、1962)。不眠症患者が実際よりも睡眠時間を短く、寝つきを長く感じているのが一目瞭然である(スクリーン部分)。Kさんのデータは赤点で示した。この中では“軽症”の部類に入る。対照的に健常者の多くはy=xのライン近辺に位置している。すなわち時間認知が正常に働き、脳波睡眠と主観的睡眠感がほぼ一致している 高血圧や糖尿病の治療であれば診察室で血圧測定や血糖値を測れば重症度や治療効果がある程度判断できる。その点、不眠症は実に厄介である。なにせ患者さん自身の「体験談」に頼らざるを得ないから。その真偽が怪しいとしたら…。 「先生、前回出してもらった睡眠薬、ぜんぜん効きませんでした。なんとか助けてください」 この「ぜんぜん」とか「助けて」というキーワードに主治医は弱い。何で効かないのだろうと首をひねりながらも根負けしてもう1錠追加…。気付いてみたら3錠も4錠も睡眠薬を処方して、その後の対処に窮した経験をもつ医者は少なくない。 ■睡眠薬の効果が乏しいのは当たり前 しかし睡眠薬を多剤併用している患者さんの中には睡眠状態誤認が数多く含まれている。なにせ脳波上はすでに寝ているため睡眠薬の効果が乏しいのは当然で、睡眠薬の過量服用や長期服用に陥るケースが少なくない。しかし今の医学教育では睡眠障害を系統立って学ぶ機会が少なく、臨床現場ではほとんど認識されていないのが実情だ。 残念ながら、睡眠状態誤認のメカニズムはいまだ明らかになっていない。慢性不眠症の人では、前頭葉や基底核の神経活動が低下していることが最近の脳画像研究で明らかになっている。これらの脳領域は感情、記憶、運動調節に重要であることはよく知られているが、時間認知にも深く関わっていることが明らかにされている。睡眠状態誤認の発症にも何らかの形で寄与している可能性がある。今後取り組むべき不眠症のナゾの1つである。 ここで1つの疑問が生じる。睡眠状態誤認は何が問題なのか…。睡眠状態誤認では自分で考えているよりも実際には寝ているのだから、軽症と言えるのではないか。不眠症でよく指摘される生活習慣病や、うつ病を悪化させるなどの心身への悪影響も少ないのではないか。 残念ながら答えは「NO」である。脳波上の睡眠時間がある程度保たれていても、寝つきの悪さに苦しみ、睡眠時間を短く感じて熟眠感がないと、日中にも倦怠(けんたい)感やうつ気分、パフォーマンスの低下が生じるなど他の不眠症と何ら変わるところはない。睡眠薬が効きにくいという点ではむしろ重症と言えるだろう。 睡眠状態誤認の例からも分かるように、不眠症の重症度や治療効果と脳波上の睡眠パラメーターにはしばしば乖離が生じる。そのため、不眠症の国際的な診断基準には「睡眠時間が○○時間以下」「目覚め回数が△△回以上」などの具体的な指標は一切取り入れられていない。不眠症とは、かくも個人的な体験なのである。 三島和夫(みしま・かずお) 1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員、JAXAの宇宙医学研究シナリオワーキンググループ委員なども務めている。 (出典:日本経済新聞)

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