緊急提言・「改革のための改革」を止めよ 日本経済復活のための13の政策(2) 中川昭一・衆議院議員 中央公論
母子家庭への対策 母子家庭では、母親が低賃金のパート労働にしか就業できず、生活保護を受ける世帯も多い。そして、子供の教育費用の負担も困難で、親子世代間で貧困の再生産が生じかねない状況にある。責任がない子供に貧困が引き継がれる事態を起こしてはならず、母子家庭が十分に生活を維持できるための配慮は欠かせない。 (2)抜本的な少子化対策 この観点では、抜本的な少子化対策が効果的である。もちろん、少子化対策は母子世帯を守ることを主眼とはしていない。しかし、効果的な子育て支援は、人口減少を抑えて活力ある国づくりに直結するだけでなく、国としても大事な子供を育てる母子家庭を支えることで、貧困の再生産を食い止めることにもなる。 少子化対策の要点は、女性が就業しつづけながら子供を産み、育てられる環境をつくることにあり、女性の就業継続と育児・保育・教育の支援にある。そして、抜本的な少子化対策は、女性の労働参加率向上を通じても経済活性化の効果が大きい。 たとえば、少子化対策で大きな効果を挙げているフランスでは、育児・保育・教育に手厚い補助があることに加えて、N分N乗方式の所得税制とは、所得税を個人単位ではなく、世帯単位で課税し、世帯の人数でその所得を割った額を基準に税額が決まる方式である。分かりやすく言えば、年間所得1000万円の世帯が親2人と子供3人の合計5人で構成されているとすると、たとえば年間所得を5で割り、200万円(1000万円の5分の1)に対する所得税を5倍した税額をこの世帯の所得税額とするのである。この形では、子持ち世帯への減税額は大きく、少子化対策としても効果は大きい。 ただし、所得額が少ない母子世帯には所得税減税の効果は薄い。従って、日本が行う少子化対策では、女性の就業継続支援と育児・保育・教育への手厚い補助に重点を置くことが最優先で、母子世帯に限らず、子育てに必要な最低限の育児費や教育費は国が全部面倒を見るくらいのことをしなければならない。 母子家庭のみならず、多くの女性に働く生きがいと生活力を与え、将来不安の大きい日本に再び夢と活力を与える少子化対策を、どうして今まで本気で実行してこなかったのか理解できない。実行しなかった理由が財源問題とすれば、これこそ本末転倒の最たるものである。このまま日本が衰退することや数千万人の大量移民を受け入れざるを得なくなることよりも財政再建のほうが大事、と本気で思う人々がそういるとは思えない。ならば、実行すればよい。 ちなみに、フランスの実例を基に経済効果を試算すると、年2,5兆円の支援額で出生率の劇的な改善と2020年にかけて1.5倍に上がる経済効果が見込まれる。一方、平成20年度生活保護費2兆53億円のうちの母子世帯分(単純比率で計算すると2215億円)が少子化対策で軽減される効果も期待できる。 フリーターへの対策 (3)基礎年金の全額税方式化 フリーターは、未熟労働に従事していることがほとんどで、低所得のまま固定されている。また、国民年金に加入することになっているが、多くは加入しておらず、このままでは家庭を支えるに足る所得も得られず、年金受給年齢となっても生活保護を受けるしかないなど、日本経済だけではなく、社会に与える悪影響も大きい。なにより当人が一番辛いだろう。 もちろん、このようなことが放置されてよいはずはなく、職業訓練や正規雇用者に転換させる取り組みなどが行われている。しかし、年金受給については抜本的な対策は採られないままで、このまま多くが生活保護受給者になってしまうと、必要となる生活保護予算額は年間17兆7000億円から19兆3000億円になるとの試算もある。 若年非正規雇用者の将来不安を払拭するためには、現在議論されているが、基礎年金を全額税方式化するのが適当である。国民年金の未納率が急上昇しているものの、現在の年金制度がこれで存続できるのかということばかりが問題ではない。将来年金を全く受給できない国民が激増することが最大の問題のはずである。そして、多くの国民に、ずっと勤労していたにもかかわらず、年金を支給せず生活保護を与えることは、理屈はともかくとして、先進国の社会保証体制としてはどう見ても失格である。 もちろん、全額税方式にすれば、過去の保険料納付を勘案しない全員一律給付としても12兆円の財源措置が必要となり、GDP比で2.5%近くに上がる財政支出となる。しかし、一方で国民と企業が納付している保険料10兆円余りが納めなくてよくなる計算になる。また、現在の国民年金には10兆円の積立金が、厚生・共済年金には50兆円の基礎年金相当の積立金があると見込まれ、全額税方式とすれば全てが税金で賄われるために不要となる。積立金は過去の保険料を負担してきた人々によって積み上げられたもので、今までの負担者にその分積み増していく資金とするのが適当だが、増税負担が大きくならないよう当初は激変緩和に積立金を活用していく余地はある。いずれにしても、増税実施は、本格的景気回復後にすべきである。 (4)非正規雇用者正規雇用者との差の縮小 非正規雇用者は、賃金のみならず社会保険の位置づけなど、正規雇用者との差が大きい。すでに日本は主要国の中でも最高水準のパートタイマー比率となっているが、制度的な差がある限り、企業はコスト上も有利な非正規雇用者を優先して使い続けることになる。 制度上の不合理な差を早急に解消するのは当然で、この差の解消が日本の1人当たり名目賃金の下落を押しとどめ、消費拡大を下支えすることにもなる。また、定年後のシニア人材の活用を進めることも、技能の継承につながるのみならず日本経済の活性化にもつながる。 所得差是正策のひとつは全パート労働者への厚生年金適用である。現在、週所定労働時間20時間以上ないし年収65万円以上のパート労働者への厚生年金の適用拡大が検討されており、最大で企業側負担は3400億円と試算されている。仮に全てのパート労働者に厚生年金を拡大適用すると、企業側負担は合計で約8200億円程度と試算される。なお、この企業負担増の部分については、業績が厳しい中小企業での雇用も多いことから、同額程度の法人税減税(後述)と併せて実施する必要がある。 また、最低賃金も上げていかなければならない。すぐに、日本の2倍近い最低賃金水準にある欧州諸国並みとはいかないが、当面経済成長率やインフレ率を上回る年5%くらいずつは引き上げる必要がある。 正規雇用者への対策 弱者や不合理な待遇にあえぐ人々を救済することは当然としても、まともに働いている正規雇用者についても将来不安や豊かさへの不安は強まっている。毎年行われている「国民生活に関する世論調査」でも、みずからの生活水準を下と見る人々の割合は漸増傾向が続いている。 (5)定率減税の復活 これらの人々についても、物価上昇と購買力の低下が鮮明となれば、定率減税を復活させる形で所得税減税を進める。08年4月の消費者物価上昇率は前年比でプラス0.9%だが、仮に08年度の物価上昇率を1%とすると、被雇用者の実質購買力は2.6兆円落ちる計算となる。これは、ちょうど定率減税の廃止による負担増約2.6兆円(国税ペース)と見合っていて、定率減税の復活が被雇用者の購買力を維持させる金額になる。 (6)法人税減税 将来不安の軽減の一方で、企業や自営業者にとって経済成長を確かなものとする政策も当然行わなければならない。それは基本的には法人税減税である。 法人税の減税効果については、2兆円規模(法人税収の10%程度)の減税を行った場合、企業の設備投資が約1兆円増加するとの見方がある。さらに、法人税減税は海外企業の対日直接投資を促進させる効果も期待でき、10%の減税は対内直接投資を30%も増加させるとする試算もある。これを日本に当てはめれば、1,2兆円の対内直接投資の増加となる。 この法人税減税においては、雇用を支え、日本経済を支える中核の、中小企業への減税を特に重視すべきだ。全てのパート労働者に厚生年金が適用になった場合の負担増加額と、生産性を向上させるIT投資などについての投資促進税制や第3次石油ショック的な状況にあっての事業転換などへの支援も入れて、2兆円の法人税減税を行うことが適当である。 また、将来の経済活性化を展望すると、この減税には投資減税など企業の競争力を強化させるものも含まれる。ベンチャー投資、研究開発、環境や省エネなど将来の技術立国を形づくっていく分野で行うことは、危機的な原油・資源高を克服するバネになるものであり、ぜひ優先して実施しなければならない。また、3年前に米国が行ったような、企業の海外利益の国内送金、特に地方への再投資の減・免税も検討に値する。米国はこれによりGDPを1%押し上げた。 次ページ(3)につづく