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テーマ:政治について(19782)
カテゴリ:海外の話
昨日の日記で触れた古森義久氏のブログの11月12日のエントリですが、どうも書いている内容が胡散臭いんですよね。 自分でもアメリカの中間選挙についてはそれなりに注目していましたから、どうもこの古森氏の認識には首を捻らざるを得ません。 -- 【米国中間選挙結果への日本の過剰反応】 フジテレビ「報道2001」に出演して、アメリカの中間選挙結果について論じました。所用で一時帰国しての行動です。 討論の相手は町村信孝元外相や鳩山由紀夫民主党幹事長などでした。 ここで私が強調したかったのは、アメリカの中間選挙でブッシュ政権の対外政策ががらりと変わり、日本への影響も大、しかもマイナスだろうとする日本のマスコミの大方の見方は正確ではないという点でした。 以下、その根拠などを列記します。「報道2001」で発言したことに、さらに発言したかったことを追加しています。 ▽アメリカの民主党が連邦議会の上下両院の多数派を12年ぶりに占めたからといって、ブッシュ政権自体の敗北とか、「死に体」を必ずしも意味しない。アメリカの大統領は与党と密着した総代表ではなく、あくまで独自の選挙で国民から直接に選ばれる元首である。日本では国会議員のなかから政府の長が選ばれるので、アメリカでも議会の議席の消長はそのまま行政府の長の力の減増につながるように思われるが、アメリカ大統領の独自の権限は議会の勢力構成にかかわらず、強大である。 ▽大統領はとくに外交、軍事、安全保障などの対外政策履行の絶対権限を持っている。一方、議会は正面からそれらを動かす権限はない。議会は法案を審議し、法律を作ることが任務で、大統領への圧力もその法案審議を通してしかかけられない。 ▽議会は「共和党敗北」といってもなお下院では435議席のうち200議席ほどを有する。上院は拮抗、無所属のリーバーマン議員は民主党寄りとされるが、イラク民主化ではブッシュ支持を打ち出した。もともとアメリカの連邦議員は投票に関しては党の拘束がなく、共和党のブッシュ大統領の支持する法案に民主党議員が賛成することは多々ある。 だから大統領が野党多数派議会に機能を封鎖されることはない。しかも大統領には拒否権があり、気に入らない法案が可決されてきても、突っ返す権限がある。 ▽ラムズフェルド国防長官は「更迭された」というのは正確ではない。「辞任を認められた」のだ。ラムズフェルド氏は過去に二度も辞意を表明して、大統領から止められた経緯がある。今回はその辞意が認められてということだ。 ▽民主党はブッシュ大統領のイラク政策を叩くばかりで、対案となる統一されたイラク政策がない。ヒラリー・クリントン上院議員らは93年の上院の審議ではフセイン政権下のイラクに軍事行動をとることに賛成した。民主党でもイラクからの即時撤兵を主張する人超少数派に過ぎない。 ▽イラクは内部での抗争やテロはあっても外部に対する脅威ではない。もしフセイン政権を倒さなかった場合、イラクは地域的な脅威となった。あるいは大量破壊兵器の備蓄はなくても、開発の意図は十二分にあった。だからもしフセイン政権を打倒しなければ、同政権は核兵器などを開発しただろう。 ▽議会が民主党多数となっても、こんごブッシュ大統領の対外政策はイラクも含めて、それほどは変わらない。大統領の権限は強く、ブッシュ氏の意思も強い。日本の反ブッシュ勢力も議会選挙の結果だけで、ぬかよろこびするな。 ざっとこんなところです。 番組では私の「日本では過剰反応です」という発言に、意外にも鳩山幹事長が同意してくれました。 http://komoriy.iza.ne.jp/blog/entry/71815/ -- まあ、産経の「正論」みたいに、民主主義国の政治姿勢の変化に過剰反応してもしょうがないのはその通り。 でも、ここに書かれているアメリカの政治に対する理解や中間選挙結果の分析はかなりおかしい。 まず、 『アメリカの民主党が連邦議会の上下両院の多数派を12年ぶりに占めたからといって、ブッシュ政権自体の敗北とか、「死に体」を必ずしも意味しない』 だそうです。 アメリカの大統領と与党の関係が、日本のような議院内閣制の首相と与党の関係と異なるのはその通り。 でも、ブッシュはやはり共和党の大統領。2年後に共和党候補を勝たせるという意識を持たない訳にはいかない。その意味で、次回選挙では共和党を勝たせるような修正を行わざるを得ないでしょう。 特に自分の弟を将来大統領にしようと思えば。 ====== 続いて、 『大統領はとくに外交、軍事、安全保障などの対外政策履行の絶対権限を持っている。一方、議会は正面からそれらを動かす権限はない。議会は法案を審議し、法律を作ることが任務で、大統領への圧力もその法案審議を通してしかかけられない。』 『大統領には拒否権があり、気に入らない法案が可決されてきても、突っ返す権限がある。』 とも書いてます。 これもその通りですけど、逆もまた同じなんですよね。 つまり、大統領が対外政策履行の絶対権限を持っていたって、その履行のための法案は議会が作るってこと。 大統領は望まない法が議決された場合の拒否権は持っていても、望んだ法を議会に通させる権限はない。 そして、閣僚などの指名に対しては議会の承認も得なければなりません。 古森氏の書きぶりでは、まるで大統領が議会の干渉を何も受けないかのように読み手をミスリードしそうです。 ====== そして、 『議会は「共和党敗北」といってもなお下院では435議席のうち200議席ほどを有する。上院は拮抗、』 これが全く見当違いであることは、前に11月5日、11日の日記でも書いた通り。 下院は両党とも180程度の指定席を持っているから、共和党も200程度の議席数になったのであって、通常1桁の現職の落選が、今回の共和党は約20人、一方の民主党は現職全員当選なのですから、共和党大敗は明らか。 また上院は拮抗と言うが、それは3分の2は改選されていないからなのであって、改選33議席のうちの9議席しか取れなけれはやはり大敗でしょう。 ちなみに、古森氏はコメント欄で >議会での共和党の後退(大敗とか惨敗という規模ではありません) と自ら書いてますけど、アメリカの選挙でこれを大敗、惨敗と呼ばずして、何をそう呼ぶのでしょう。 ====== 『民主党はブッシュ大統領のイラク政策を叩くばかりで、対案となる統一されたイラク政策がない。ヒラリー・クリントン上院議員らは93年の上院の審議ではフセイン政権下のイラクに軍事行動をとることに賛成した。』 民主党に統一されたイラク政策がないかどうかは関係ありませんね。 ブッシュ政権が現在のやり方でイラクで損害を増やし続ければ、民主党に対案がなくとも「アメリカ兵の死傷者数」という客観情報が、ブッシュ大統領自らが政策転換しなければならないように圧力をかけるのです。 このままではブッシュ大統領の任期切れまでにアメリカ兵の死者は5千人に達するでしょう。これを減らすことはブッシュ大統領に課せられた義務なのですから。 しかしヒラリー・クリントンが「93年」の上院の審議なんてものに出てるはずないんですけどね(苦笑)。 ====== 更に、 『イラクは内部での抗争やテロはあっても外部に対する脅威ではない。もしフセイン政権を倒さなかった場合、イラクは地域的な脅威となった。あるいは大量破壊兵器の備蓄はなくても、開発の意図は十二分にあった。』 これもおかしな話。 「開発の意図」を理由に攻撃したなら、それによって「開発の意図」を排除できなければおかしいですよね。 じゃあ「意図」ってものはどうやって排除するの? 保有だとか計画だとかなら、実際に備蓄されているものや実験施設や図面といったものを廃棄することで排除することは可能でしょう。でも「意図」を排除するとなったら、その「意図」を持っている人を皆殺しでもしようって言うのでしょうか? そもそもその「意図」を誰が持っているのか、どうやってわかるというのでしょうか? なんだか「フセイン政権」という何者かが「意図」を持っていて、「政権」が崩壊したことでその「意図」も消えたと古森氏は主張しているようなんですが。 実際には「意図」というのはあくまでも個々人の頭の中にあるものなのだから、たとえ政権が崩壊したって、「開発の意図」を本当に持ってた人が生き残ったなら、未だに「開発の意図」は十二分に存在しているはずなんですけどね。 その上、一番おかしな点は『このイラクは内部での抗争やテロはあっても外部に対する脅威ではない』の一文。 イラクについて、今アメリカが考えなければいけないのは「外部に対する脅威」であるかないかではなく、「内部での抗争やテロ」の方でしょうに。 問題は、この3年半の間、アメリカ人をイラクの「内部」に派遣し続けていることにより、既に数千人もの死者が出ているってことでしょう。 ブッシュ政権が、イラクの「外部に対する脅威」だけに注視すれば良いという状態を作り出す気なら、それはイラクからアメリカ人が全て引き上げるってことなんですけどね。古森氏はそれがわかっていないのではないでしょうか? ****************************** どうも、古森氏はブッシュ大統領を日本の番犬という視点からしか見ていないようで、ブッシュ大統領であれ誰であれ、アメリカの政治家はまずアメリカ国民の安全確保が最優先という事実を忘れているとしか思えません。 それはこの最後の一項にもよく現れていると思います。 『議会が民主党多数となっても、こんごブッシュ大統領の対外政策はイラクも含めて、それほどは変わらない。大統領の権限は強く、ブッシュ氏の意思も強い。日本の反ブッシュ勢力も議会選挙の結果だけで、ぬかよろこびするな。』 選挙で共和党にノーを突きつけたのはアメリカ国民であって、そのアメリカ国民に向かって「ブッシュ氏の意思も強い」「ぬかよろこびするな」を言うならまだわかりますけど、「日本の反ブッシュ勢力」なんてものにこんなこと言っても何の意味もないと思うんですけど。 完全に視点がずれてますよね。 そもそも、共和党が大敗し、イラクでアメリカ人の死傷者数がどんどん増えている現状においても、ブッシュ大統領が単なる「意思」で対外政策を変えずに推し進めるというのは、ブッシュ大統領がアメリカ国民の「意思」など無視すると言っているようなもの。 そういう人物がいかに危険かを人々に警告するのもジャーナリストの役目ではないんでしょうかね。 ブッシュ大統領個人はともかくとして、ブッシュ政権は、日本の思惑よりもアメリカの民意、アメリカ国民の安全を最優先にした対外政策を取ると、私は思ってます。 ですから、アメリカの対外政策はまず間違いなく変わります。 でも、それは民主主義国なんですから当たり前のこと。 それに対して両極端の意味での過剰反応しているのが産経新聞と古森記者と言えるようです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2006年11月26日 23時08分53秒
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