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カテゴリ:核
いつもは論旨が不明だったり矛盾していることの多い産経新聞の「正論」ですが、昨年12月23日付けの屋山太郎氏の書いたものは、言いたいことがよく伝わってくるものでした。 久間防衛庁長官の更迭の是非はともかく、彼のイラク戦争は首相個人としての支持という発言がいただけなかったのはその通りだし、NPT脱退を想起するとの談話という手段も、確かに現在の日本がとり得る選択肢の一つでもあります。 中川氏のようにNPT堅持は大前提などと言って、脱退の議論を回避しておいて、核の議論をするかのようなポーズを示すよりはずっとまともです。 -- 【正論】政治評論家・屋山太郎 久間防衛庁長官の更迭を求む ■国家安全保障への認識あまりに低い ≪いつ周辺事態と認定≫ 久間章生氏は防衛省昇格後の初代防衛大臣となる予定だが、これほど戦略思考もなく国際情勢認識もない人物が防衛大臣になっていいのか。小泉純一郎氏は田中真紀子氏を外相に起用し、その立ち居振る舞いや外交的非常識で日本の国際的評価を貶(おとし)めた。これに匹敵する下策が久間氏の防衛庁長官起用だ。 久間氏は北朝鮮の核実験実施について「核実験をやっただけでは周辺事態認定にならない。緊張状態が高まってくれば認定できる」と述べた。これに先立って7月、北朝鮮は7発のミサイル実験を行っている。その改良と並行して核の小型化を進めていることは歴然だろう。久間氏の発想だと“核ミサイル”が完成したと判明したのちに周辺事態に認定するというのか。「北」はそれを武器に新たな脅迫をしてくることは間違いない。「周辺事態認定や国連の制裁決議を解除しなければ撃つぞ」とこられた時、久間氏はどうするのか。 イラク戦争について久間長官は「政府は米国の戦争を支持すると公式に言ったわけではない」(7日)と述べた。小泉前首相が個人的に支持したと思い込んでいたようだが、翌日「認識不足だった」と発言を撤回した。発言の間違いや撤回をあげつらうつもりはないが、この勘違いはあまりにも重大である。 ≪脅迫に宥和政策の愚≫ 日本が米国に軍事的に協力しているのは日米安保体制を強化したいためである。日本は軍事的危険を一切負わないが、日本の危急の場合は米軍が保証してくれ、というような調子の良い軍事同盟がいつまで続くと思っているのか。米国の保証を確実にするために日本はテロ対策特措法など種々の立法を行って補強してきた。結局、最後に残るのは集団的自衛権の「行使」だというのが、防衛政策の究極の問題だ。「北」から撃たれた弾道ミサイルをキャッチする情報網は米国に負っている。日本向けは日米両軍の連携によって撃ち落とすが、「米国に向かっているミサイルを撃ち落とすことはできない。憲法を改正しないと難しい」と久間長官はいう。 日本が行う憲法改正の作業は国内問題である。日本国内の事情で同盟国に何も協力できないというジレンマに歴代内閣は苦しんできた。久間氏は国内事情、憲法解釈を口実に軍事的コミットを避けようとしているとしか思えない。 中川昭一自民党政調会長が提起した「核論議」について久間氏は「議論すること自体が他国に間違ったメッセージを送ることになるのではないか」という。山崎拓氏や加藤紘一氏も同様のことをいうが、クリントン政権は宥和(ゆうわ)政策をとり、コメも重油も原子炉もカネも差し出したが、これで「北」は10年の歳月を稼ぎ、核実験までたどりついた。久間氏はあと何年を「北」にやろうというのか。独裁国家の脅迫に対して宥和政策をとって成功した試しはない。ヒトラーに譲歩したチェンバレンしかりである。 核拡散防止条約(NPT)第10条は「異常な事態が自国の至高の利益を危うくしていると認める場合には…脱退する権利を有する」との脱退条項がある。日本は「北朝鮮が核保有国として認められる事態になった時には第10条を想起する」との談話でも発表したらどうか。これでもっとも慌てる国は中国とロシアだろう。その証拠に媚中派の雄・二階俊博国対委員長は麻生外相の「核論議是認論」に対して「任命権者の責任だ」と安倍首相の責任まで厳しく追及している。二階発言は中国がどれくらい気にしているかのバロメーターでもある。 国連は北朝鮮に対する経済制裁を決議したが、この制裁についてもっとも有効な手段をもっているのは中国だ。「北」の全石油輸入量の90%、食糧の50万トンは中国から入っている。中国は日本に核武装の口実を与えるなら、「北」の核を潰そうと真剣に考えるはずだ。アメリカは中国が計算の結果を出すまで、日本の動きを見守るだろう。 ≪「核を持たない力」とは≫ かつてフランスはドゴール時代、ピエールガロワ将軍が「中級国家の核理論」を唱えて核武装した。「ソ連がパリを攻撃した時、アメリカがニューヨークを犠牲にしてまでソ連に報復してくれるとは思えない。自ら10発持ち、やられたらモスクワをやり返す」というのだ。民主党の岡田克也氏は「核を持たない『力』を示せ」という論者だが、国際政治や軍事の世界に「持たない力」などあるわけがない。安倍首相よ、省昇格に当たって久間氏を更迭せよ。久間氏は長崎に帰って県議にでもなったらどうか。(ややま たろう) (2006/12/23 05:16) http://www.sankei.co.jp/ronsetsu/seiron/061223/srn061223000.htm -- まあ、ここに書かれている「結論」には久間氏の問題点以外は全く賛成しませんけど。 現在の日米同盟に対し「調子の良い軍事同盟がいつまで続くと思っているのか」とおっしゃるが、それを続けるのが政治家の力量なのではないのか。 そのためにも重要なのがアメリカが作った憲法9条を守ること。これがあるがためにアメリカは「調子の良い軍事同盟」を自らの責任で維持する必要性が生じているのですから。 で、それにも関らずアメリカが続けたくないと言うなら、まず「普通の軍事同盟」を結ぶことの損得を日本国内で議論すべき。 今のアメリカと「普通の軍事同盟」を結んだら、入よりも出の方が大きくなりそうというのは、NATO諸国を見たら容易に類推できます。 イギリスは、何でイラクやアフガンであんなに国民の命を失わなければならなかったのでしょうってこと。 また屋山氏は「米国の保証を確実にするために日本はテロ対策特措法など種々の立法を行って補強してきた。」と言ってますけど、現在の日米安保に米国が日本の防衛を助けることが明記されているにも関らず、それが「保証」にならないと言うなら、どんな「補強」をしたところでそれもまた「保証を確実にする」ことになどならないでしょう。 他にもクリントン政権の対北朝鮮政策や、核を「持たない力」に対する評価など、私の結論は正反対と言っていいです。 でもこれらは、個人の価値観の相違の話。 いつも見られる牽強付会や支離滅裂が、今回のものにはほとんどみられない、その意味でまともな「正論」と言えるものだと思います。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007年01月08日 01時44分40秒
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