久しぶりの友人と
テレビの国会中継を、ほんの少し見た。 参議院の予算委員会である。 安倍首相が「過去の植民地支配と侵略を認めた村山富市首相談話」について「継承する」と答弁。 当たり前のことを、この男はようやくいえるようになってきたようだ。 しかし継承をいいながら歴史認識については語らず、答弁の中身はにわかに逃げの一手。 この件は夕方、共同通信のサイトに「安倍首相、対中侵略を否定せず 参院委、村山談話継承を表明」の見出しとなっていた。 この男、このあいだは「歴史については歴史学者の考えを待つ」という逃げの手を打っていた。 歴史について無知ゆえにものをいえない総理大臣が給料をとっているのだ、この国では。 日本は本当にイヤな国になった。 午前中、洗濯をした。 洗濯機を回し、干す段になったらおどろく数のタオルが出てくる。 なにごとかねと陽くんに聞くと、バスタオルを使わないからなのだそうだ。 大きめのフェイシャルタオルを1枚、シャワーや入浴のたびに使ってその都度洗いに出すという。 バスタオルを使えよ、それで1枚を入浴3回分ぐらいにするんだよ。 洗濯機の中がタオルでみっちりになってしまい、洗濯機のモーターが重くなりかわいそうだろ。 と、まぁ、そのようなことをいうと「みいちゃん(かみさん)も同じようにやっているよ」と答える。 家族みんなが同じようにやったらシャツなんかが洗えなくだろといっておいた。 もちろんシャツを洗うときはもう一度洗濯機を回せばいいのだが、何だか妙に腹立たしい。 陽くんはそのままシャワーを浴び始めてしまい、腹立たしいまま何枚ものタオルを干し続けた。 午後、めずらしく板やんが電話をかけてきてくれた。 板やんというのは板谷恒男さんという友人の愛称だ。 岩波映画の演出部仲間。 映画について語りに語り合った40数年来の友人である。 八王子に来ているので後で会えないか(?)という。 二つ返事で会うことにし、待ち合わせ場所をどうしようと聞くと、前に来たときに本屋があったなぁという。 「駅のそばか?」 「そうそう、駅のそばだった」 「わかった、くまざわ書店だ。OK、そこの2階で会おう。時間は、3時半でいいか、あるいは4時か」 「4時だな。駅はどちらに出るの?」 「いま八王子のどこにいるんだい?」 「北八王子から10分ほどのところだ」 そう聞いて、ふと、ならば北八王子で会おうかという考えが頭をもたげた。 以前はゆるゆる歩きながらも20分ほどで行けた距離なのだ。 しかし、いまのぼくはすぐ息が上がってしまい、北八王子の駅まで歩く自信がない。 電話で、そんな話をし、バスで八王子駅前に行くほうが早いんだと話す。 結局「4時、本屋としよう。駅の北口を出て左へ行けばすぐにある」ということにして電話を切った。 彼はビールを飲みたいだろうが酒場が開いている時間ではない。 ぼくは酒を飲まないからかまわないが、さて会ってからどこに行こう。 4時2分前に本屋に入り、2階へ上がるとすぐに「おう!」と声がかかった。 「やぁ、早いね。何時ごろ着いた?」 「10分まえほどかな」 「待たせちゃったな」 「いいや、なんでもないよ」 ファミリーレストランならビールもつまみもあるしコーヒーもある。 行ったことがないが、セレおの中に最近できたロイヤルホストに入ってみようと駅ビルに戻った。 エレベーターに乗って表示を見ると10階にある。 なんだぁ、10階はレストラン街みたいなもので蕎麦屋もあり、ロイヤルホストに入らなくてもいいではないか。 だいたいファミリーレストランが気に入っているわけでもないし、酒とコーヒーを供する店はいろいろある。 じつは7階だか8階だかのテナント店がロイヤルホストに変わったのかと思っていたのだ。 だからようすを見に行きたいと思ったまでで、10階なら別に考えて選ぶまでもなかったよ。 とりとめもない話をしながら店の前に到着。 板やんは頓着なくドアを開け、入っていこうとしている。 そうだよな、話ができればどこだっていいよなと思いながらあとに従った。 すると、案内された席が南向きの窓際で、視界が広々と開けており気分がいい。 板やんも「おお、いいねぇ!」とよろこんだ。 ビールジョッキを傾けるにはぴったりの場だ。 椅子を引いて腰掛けたり荷物を置いたりメニューを受け取ったりという、つきもののばたつきが終わり、一息ついてあらためて窓の向こうに広がる景色に目をやる。 「八王子って、もっと平たい空き地ばっかりだと思ったよ」と板やん。 「ちょっと前までそういう状態だったよ。ことに南側は茫々たるようすだった」 「八王子にきて何年になる?」 「8年、だな」 「もうそんなになるのか」 ウェイトレスがきてビールとコーヒーをたのみ、彼はいくつかのつまみ、ぼくはアイスクリームを注文した。 板谷くんとふたりで向かい合うのは何年ぶりだろう。 10年ではきかないな。 最近は何を読んでいるのかを聞くと、つと立ち上がり、脇に置いたザックから本を取り出している。 ハードカヴァーではないが単行本の風体で輪ゴムがかかっている。 買ったばかりの本らしい。 さっきの本屋にあったので買ったんだといいながら表紙を開いて見せてくれる。 『中国化する日本』。 副題に『日中「文明の衝突」一千年史」』とある。 ふうむ、おもしろそうだ。 共通の友人であるしのちゃん、四宮鉄男さんが薦めてくれたという。 本の話と映画の話であっという間の2時間が過ぎ去った。