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WILDハンター(仮)

WILDハンター(仮)

四章「二人の戦姫と一人のギルドナイツ」

        四章
「二人の戦姫と一人のギルドナイツ」

 ジャンボ村の発展に大きく関わった6人のハンター、その内の二人タカーシュとサヒヲの師弟コンビはドブロクが旅立つ半年ほど前にジャンボ村を後にしていた。彼女達が今いるところ…それは…

「ふぇ…へ……ヘックションッ!」

「あら、風邪でもひいた?」

 くしゃみをしたゲネポスU装備にアイアンインパクトを腰につけたサヒヲをフルフルS装備(見た目はおハルさんに無理をいってガンナー仕様にしてもらった)に巨大な盾を持ちヴァルハラを背負ったタカーシュは心配そうに振り返って見た。二人とも自分の得物の他にどでかいリュックを背負っている。

「グズっ…師匠…この寒さ…なんともないんでずが?」

 サヒヲは鼻をすすりながらそうタカーシュに聞き返す。

「雪山なんてこんなものよ、フルフルを狩るために何度か来たことがあるから私は慣れてるけど…あなたは初めてですものね」

「ぅぅ~~…こんなに寒いものだとは思わなかったでず…」

 彼女達はとある依頼を受け、フラヒヤ山脈のそばにあるポッケ村へ向かっていた。そこで新種の飛竜が確認されたといううわさがドンドルマに流れ、興味をもった何人かのハンターが向かったのだが…、彼らがドンドルマに戻ってくることは無かった。そこでギルドはドンドルマにいる腕利きのハンターにポッケ村周辺の調査を依頼したのだが、彼らは“相手がなんなのか分からないのにいけるか”とその依頼をはねのけたのだ。ギルドもそれなりの報酬を提示したであろうが、先の戻らなかったハンター達がドンドルマで名うてのチームだったことも彼らが尻込みする理由なのだろう。だが、ことがことだけに一般のハンターでは難しいとギルドは判断し、過去の実績も含めてジャンボ村にいるタカーシュに依頼を出したのだ。タカーシュはギルドの依頼であるということと、サヒヲに雪山の狩猟を経験させておくのもいいと思い、引き受けることにしたのだが、かなりの長旅になるので、タカーシュはジャンボ村の部屋を引き払うことにした。向こうで、依頼を済ませてからもしばらくサヒヲを鍛えるために雪山にとどまるつもりだったからだ。そして、彼女達は今ポッケ村への間道を歩いているのである。

「ホットドリンクはまだ残っているわね?」

「はい~…でも残りが少ししかないですけど」

「もう少しでポッケ村のはずだから残りを気にしなくていいわ」

 そのタカーシュの言葉を聞くやいなやサヒヲはものすごい速さでホットドリンクの瓶を取り出して飲み干した。

「ぷっは~~キク~~~~」

「ほんと…たまにおっさんくさいわね」

「ぇ?何か言いました?」

「いいえなにも」

 サヒヲのリアクションにタカーシュがぼそっとツッコミを入れたが、サヒヲに聞き返されてもそっけないそぶりでかわした。ホットドリンクで身体の温まっているうちにポッケ村に到着しようと、二人は急ぎ足でまた進み始めた。崖の上のやや広い道を登りきると、そこは峠のてっぺんで開けた雪原になっていた。崖のそばまでよってタカーシュは東の方を眺めていると、

「ここからポッケ村が見下ろせるみたいなんだけど…あそこかしらね?」

 そうサヒヲに言うと煙のようなものが立ち上っている辺りを指差した。

「そうですね~火の無いところに煙は立たないっていうし!」

「…それ用法間違ってるわ…」

「えええぇぇ!?!?」

 いつものショートコントをしていた二人だったが後ろに何かの気配を感じ、それぞれの得物に手をかけて振り返ると…、そこにはこれから向かう道の方からポポというマンモスのような長い毛に包まれた草食モンスターの群れがゆっくりと登ってくるところだった。それを見て安心した二人は武器から手を離してポポ達が来た方へ歩き出そうとしたとき…

――ドサ…――

 不自然な落雪の音…

――グルルルゥ…――

 何者かの唸り声…

「上ッ!」

 ソレに気づいたタカーシュが山頂に近い崖の上を見ると、今まで見たことの無いモノがいた。黄色い鱗に所々青い縞の入った体、今まで見たどの飛竜よりも発達している前足、翼ができたばかりのトカゲといった風貌のソレは真下を通っていくポポの群れに意識を集中させているようでタカーシュ達には全く気づいていない。サヒヲはその異様なモノにただ驚いているようである。無理もない。ソイツの体色はまるでこの場に不釣合いなのだ。この雪山で保護色として身にまとうなら白か灰色が妥当なはずなのに今、目の前で獲物を狙っているソレは砂漠に生息している方がしっくりくる色合いをしている。それが意味することは二つ…、ソレが元々ここにいるモノではないということと、前にいた主を倒して餌場を勝ち取ったということ。そしてもう一つ分かったこと…これはタカーシュの直感だったが、恐らく…、

「あいつがターゲット…」

「あ…あんなの相手にするんですか…」

 静かにつぶやいた言葉にサヒヲが緊張でこわばった声で返した。今の状態では確実にこっちがやられる。そう思い、タカーシュはサヒヲにこう告げた。

「あいつがポポに仕掛けたら一気に向こうの道へ駆けるのよ」

「はいッ」

 それにサヒヲは小さく返事を返した。と、上で様子をうかがっていたソレがポポの群れに飛びかかろうと太い前足に力を込め始めた。次の瞬間、ソレはポポの群れの真ん中にいた一頭に狙いを定めて襲いかかった。それが飛び出した瞬間二人も矢のようにポポ達が来た方の道へ駆け出した。後ろからポポの断末魔の声と肉をむさぼる音が聞こえてきたが、二人は振り返らずにただ自分達のなすべきことを果たした。

「ふぅ…ここまで来れば安心かしら」

「ゼェゼェ…そうだと助かりますぅ~~」

 二人は一気に山道をふもとまで駆け下りて一息ついていた。

「まぁ、元々食事しにきただけのようだったし…こっちとしては幸運だったわね」

「そうですね~あんなのと疲れてるまま戦ったら…怖いですよ~」

「ふふっ…そうね」

 さっきの飛竜のようなモノについて話していた二人だったが、特に恐怖の類は感じていないようだ。そして十分休憩したとはいえないが、またアレに出会ったら今度こそ命はないと二人は感じていたのでポッケ村へ急ぐことにした。

「ここを越えておよそ10キロ東の高地にあるらしいわ」

「ひえ~まだ10キロもあるんですか…」

 地図でポッケ村の位置を確認したタカーシュにサヒヲが落胆の声をあげた。と、出発の用意をしていたサヒヲにタカーシュが自分のリュックから薬の瓶をとりだして渡した。

「これ、なんですか?」

 渡された瓶をしげしげと眺めながらタカーシュに聞くと、

「狂走薬グレートよ」

「強壮薬!?」

「そう、ゲリョスの体液を特殊加工した薬で効いてる間はいくら走っても疲れないのよ」

 微妙な聞き違いでサヒヲの顔が真っ赤になったが、ためらいなく薬を煽るタカーシュを見て、そういう薬じゃないのかと気づき自分も一気に煽った。飲むとすぐに身体の奥からふつふつと力が湧いてくる感覚と自分の身体が軽くなったような感覚を覚えた。

「お~これはすごいですね」

「さ、全力疾走でいくわよ」

 リュックを背負うと、タカーシュは薬の効力に驚いているサヒヲをおいて走り出した。と思ったら既に後姿が豆粒ほどになっている。

「あ…ちょっと待ってくださいよ~~」

 そのスピードに驚いてサヒヲが追いかけてようと走り出してサヒヲはまた驚いた。さっきまで息を切らして運んでいたリュックの重みが全く感じられないのである。さらにすごく離されたと思っていたタカーシュにいとも簡単に追いつけたのだ。サヒヲに気づいて後ろを振り向いたタカーシュが驚いたように、

「あら、スピードを加減したにしては追いつくのが早かったわね」

「マジっすか師匠!?」

「えぇ、ギリギリ見失わない程度にしてたんだけど…成長したのね」

「お~~師匠に久しぶりに褒められた~~」

 そんなことを話していると…

「きゃ…わッ!?」

――ドシャアアン――

 雪の深みにはまってサヒヲはもろに雪藪につっぷしてしまった。

「やっぱりまだまだのようね」

「ほ…ほんひゃ~~」

 タカーシュがため息まじりにそういうと、雪でかじかんだ口を動かして落ち込むサヒヲなのであった。その後は何事もなく無事に二人はポッケ村の入り口に辿り着けた。

「ふ~なんとか着きましたね~」

「そうね、さぁここの村長に挨拶して部屋へ行きましょう」

 二人が村の中に入ろうとしたとき、門のそばに一人、赤髪の女性が立っていることに気がついた。どうやらかなり高位のハンターのようでギルドガード蒼を着込んでいるが、腰はギルドガードではなくボロボロのコートのような防具をつけ、腰には幻獣キリンの素材を使ったヘビィボウガン「クイックキャスト」をぶら下げている。彼女も二人に気づくとそばに歩み寄ってこういった。

「タカーシュ・ケルドさんとサヒヲ・リュノさんですね、お待ちしておりました」

「あなたは?」

 タカーシュは大体の見当はついていたがそう尋ねた。尋ねられた女性は軽くおじぎをして答えた。

「これは失礼、ギルドからあなた達の補佐をするように言われましたダクシュと申します」

「「補佐?」」

 二人同時にそう聞き返した。それをすましてダクシュと名乗った女性は答えた。

「はい、今回の相手は未確認の飛竜ということで、特別にギルドナイツを一人つけろと上からの指令です」

「それがあなたというわけ?」

「そうです」

 タカーシュが聞くとダクシュは簡潔に答えた。

「ほえ~ギルドって意外にハンターを大事に思ってるんですねぇ」

 サヒヲがそんなことを言うとタカーシュが多少あきれた風に何か言おうとしたが、ダクシュがその前に答えてしまった。

「そういう訳ではありません、私は確かにあなた達のサポート役を任されています、ですがそれだけではないのです」

「ほむ?別なお仕事も頼まれているってことですか?」

「そうです、むしろ…」

 言いかけたダクシュの言葉をタカーシュが阻む。

「未発見の飛竜の情報をドンドルマに持ち帰るのが最重要任務ってところかしら?」

 ダクシュがちらっとタカーシュを見たが構わずに続けた。

「その通りです、あなた達のサポートといっても実際に同じ狩り場に立つわけではありません、他になにか質問は?」

 その答えにサヒヲはがっかりしていたが、タカーシュは一つさっきからずっと気になっていたことを尋ねた。

「あなた…ダクシュっていったけど、それって本名なの?」

「いえ、コードネームのようなものです、希望しなければそれぞれのファミリーネームがつけられるので本名と言えなくもないですけど…」

 それが何か?というまなざしをタカーシュに向けると、

「いえ…知り合いに同じファミリーネームの人がいたから気になっただけよ」

「そういえばドブロクさんのもダクシュでしたね~」

 その言葉を聞いてサヒヲが思い出したようにいった名前にダクシュが聞き返してきた。

「兄を知ってるんですか?」

「「えええええええええええ!?!?!?」」

 意外な一言に二人とも驚きの声を張り上げた。とりあえず、タカーシュとサヒヲはダクシュと打ち合わせするためにひとまず村長のところへ向かった。ポッケの村長は女性でしめ縄がされた巨岩の前で焚き火にあたっていた。話を聞くと彼女が言うには、最近ここいらで黄色いトカゲが目撃されるようになり、山菜取りにいった村人が危うく食われそうになったのでギルドに狩猟の依頼を出したのだという。この村はその環境のせいで作物が十分に作れず、周辺の山に自生している雪山草の出荷で生計を立てている。このまま山に踏み入ることが出来ない状態が続くと村を捨てなければならなくなる。そういう状態であった。
一通りの説明を聞くと三人は用意されていた家に入って一息つくことにした。用意されていたのは簡素な家だったが適度な広さもあり、最低限の設備と部屋には手ごろな大きさのテーブルが一つに椅子が三脚、ベッドが三つ備えられていた。タカーシュとサヒヲはひとまず背負っていたリュックをベッドの脇に置いて持ってきたものの整理を始めた、ダクシュは家に入るとすぐに暖炉に火をおこしはじめた。しばらくして二人の荷物の整理が一通り終わると、テーブルでのんびり紅茶を飲んでいるダクシュにタカーシュが話しかけた。

「あなたとドブロクさんが兄妹っていうのは本当なの?私達は彼から家族のことを聞いたことが無いからなんとも言えないのだけど」

「えぇ、本当のことです、ただし兄は家出をしてドンドルマに来たようですが…」

 カップを置いてダクシュは、そんなことを聞いても仕方ないだろうという顔をしたが、答えてくれた。が、これまた意外な答えにサヒヲが驚いて聞き返した。

「ドブロクさんって家出人だったんですか!?」

「はい、元々兄はミナガルデのギルドナイツに推されていたのですが…」

 そこでダクシュは言葉を切り、ため息を一つして続けた。

「兄は、“そんなめんどくさいもんになる気はない!”と言って…」

 ダクシュはあきれた口調で兄が家出した理由を語った。それをポカ~ンとした顔で聞いていたサヒヲだったが、

「でもギルドナイツってたしかハンターにギルドから贈られる最高の栄誉って聞いたことがあるんですけど?」

 その話はサヒヲがドンドルマで狩りをしていた頃、酒場で酔っ払っていたハンターから聞いた話だったのだが、

「栄誉と言うには暗い部分も大きいのよ」

 何か言おうとしたダクシュより先にタカーシュが答えた。

「ほえ?それってどういう…」

「ギルドナイツには二つの顔があるんです」

 サヒヲのタカーシュへの問いにダクシュが答えた。

「さっきサヒヲさんが言ったのは表のギルドナイト、正確にはギルドナイツとは別の組織です…ナイトはハンターの規範となるべき者たちで、ギルドが心・技・体、全てを認めたハンターに贈られる称号です、対してナイツはギルドの闇の部分…“機密”の管理や様々な表立って言えない仕事をこなす者たちです」

 ダクシュの説明を聞きサヒヲは、ん~と頭を抱えて唸ってしまった。その様子を静かに微笑みながらタカーシュがかいつまんで説明してくれた。

「要するにナイトは表の役者でナイツは裏の黒子ってことよ」

「あ~なるほど~~」

 その説明で納得できたサヒヲはさっぱりとした顔でポンと手を叩いた。

「それではそろそろ本題に入りましょうか」

 二人のやりとりをおかしそうに見ていたダクシュがそう言うと、二人とも真面目な顔になり黄色いトカゲの狩猟について話し合った。が、

「けっきょく分かっていることが少なすぎますね」

 そうダクシュはもらした。それに対して二人も頷く。二人が来る途中に偶然出会ってなければ姿すら分からなかったというくらい情報が無いのだ。ここは実地調査するしかないという結論に三人は達し、目撃情報を頼りに周辺の痕跡を探して生態を調べるところから始めた。しかしあまり悠長にことを進めるわけにもいかず、村のことも考えると一週間程度で決着をつけなければならない。とりあえずタカーシュとサヒヲの疲れをとるためにこの日はすぐに眠ることにした。



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