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WILDハンター(仮)

WILDハンター(仮)

五章「蒼の騎士」


――ヒュォォォォ…――

 切り立った山肌が抜き身の刀身を思わせるフラヒヤ山脈の山々の間を一片の桜が通り過ぎていく。よく見るとそれはリオ種の雌リオレイアの亜種であった。さらにその背中を見ると蒼い鎧と蒼い槍を身につけた人の姿が見えた。蒼いレウスシリーズを着た男はさっきからしきりに眼下に広がる雪原を見回している。何かを探しているようだ。下を見回しながら男が彼とは別の方を見ているレイアに声をかけた。

「マリナ~ヤツは見つかったかい?」

「グァゥゥ」

「そうか…こっちも見当たらない」

  否定の唸り声をあげるマリナと呼んだレイアに男はそう告げた。一通り見終わったのか、マリナは身を翻して山陰に消えていった。彼らは一体何を探しているのだろう?

―― 一方その頃… ――

 一晩たってサヒヲが目を覚ますと、部屋にはおいしそうな匂いが溢れていた。

「うぅ~ん、よく寝た~~~ッ!」

 すぐ脇のタカーシュが寝ていたベッドと向こうの壁際にあるダクシュのベッドは既にもぬけの殻になっていた。よく見るとダクシュのベッドは使われた形跡がない。

「あれ?師匠~ダクシュさんは?」

 寝巻きのままサヒヲは台所で朝食のしたくをしているタカーシュに尋ねると、調理に手が離せないのかタカーシュの声だけが返ってきた。

「昨日の夜にもう出かけたみたいよ」

「えぇ!?たった一人で真夜中にですか!?」

 サヒヲはそれを聞いてあたふたしたが、タカーシュの落ち着いた声がまた台所から響いてきた。

「ほんの下調べのはずよ、私達への情報面でのサポートとあいつの生態を記録して持ち帰るのが彼女の任務なのだから」

「なるほど~」

 サヒヲが納得していると、タカーシュが両手に底の深いスープの入った皿を持って居間に入ってきた。

「さ、彼女の分は別にとってあるから先に食べちゃいましょう」

 そう言って、テーブルに皿を置きサヒヲを見たタカーシュは笑いをこらえながらこう続けた。

「サヒヲ、あなたまた頭がすごいことになってるわよ」

「ほえ?」

 タカーシュに鏡を指差され、その前にいってサヒヲがそこに映る自分の姿を見ると…

「なんじゃこりゃあああ!?!?な…直さなきゃッ!?」

 そこにはものすごい寝癖のついたサヒヲのブロンドの髪が映っていた。あわててサヒヲはそばにあった櫛をとって髪をとかし始めた。その様子をおかしそうにタカーシュは眺めていた。と、その時家の扉が開きダクシュが帰ってきた。昨日会ったときのギルドガードではなく防寒具のような装備をしている。

「お仕事ご苦労様、朝ごはんはいかが?」

「もらいます」

 なにやら残業帰りの夫と妻の会話のようであるが、とりあえず髪を直したサヒヲと3人で朝食をとることにした。

「ダクシュさんは何してたんですか~?」

「朝の散歩です」

「むぅ…秘密主義は嫌われますよ~」

「ご忠告どうも」

  食事をしながらサヒヲはダクシュに行き先を聞いたがはぐらかされてしまった。ただの散歩に防寒具をわざわざ着込むはずはないのだが、

「それで、朝の散歩で何か見つかったかしら?」

「いいえ、村の周りを一周してみましたがそれらしい痕跡はありませんでした」

 食事を終えたタカーシュがそう聞くと、ダクシュは流石にこっちはごまかせそうにないと思ったのか率直に答えた。自分の問いに満足のいく返答をもらえなかったサヒヲは、むくれてこのやりとりを聞いていた。このあと二人の話し合いの結果、それぞれが別行動をとって雪山を探索することになった。それが決まるとダクシュは手早く装備を整えて、二人よりも先に雪山の狩り場へ向かった。

「師匠~」

 ゲネポスUシリーズを着込みながらサヒヲがタカーシュに声をかけた。タカーシュも自分のフルフルSを着込みながら答える。

「何?」

「もしあいつに会ったらどうするんです?」

「その時は、角笛を吹いて片方に教えるのよ」

 そういい、タカーシュはテーブルの上に置いてある角笛を指指し、さらにつづけた。

「そして出会った方は無理せずアレと戦うわ、深追い無用で相手の攻撃パターンを覚えることが最優先、わかった?」

「は~い、狩れそうなら狩ってもいいんですよね?」

「その程度の相手ならね」

 サヒヲの問いにそう答えたけれど、実際はそんなわけがない、とタカーシュは確信していたが…、二人とも準備をすっかり整えると雪山の狩り場へと向かった。粉雪が舞い散る中、轟く咆哮が彼女たちを待ち構える。

――その頃、別行動をとっていたダクシュは雪山エリア3にいた――


「ふぅ…冷えるわね」

 そうつぶやき、手元においてあるホットドリンクを一口含んだ。彼女がいる雪山エリア3、ここは周りを高台に囲まれ、天井には大きな亀裂と空洞がある大型のモンスターがよく寝床として利用するエリアなのだ。件の飛竜が寝床としているのも恐らくここだと読み、ダクシュは雪山につくと真っ先にここを捜索した。そして予想通り何か大型の飛竜がいた形跡を発見した彼女は、標的が現れるまでエリア2へ繋がる入り口の近くに隠れることにしたのだ。だがここには眠るとき以外戻らないのか標的は一向に姿を現さなかった。

「もうすぐ太陽が昇りきるころかしら」

 天井の亀裂から差し込む日の光を見てそんなことをつぶやき、ふところから携帯食料を取り出そうとしたとき…、

――グオオォォォン!!ガァァァァァ!!――

 エリア2の方から二匹の飛竜の咆哮が轟き、ダクシュは反射的にエリア2に出た。声の聞こえた方を見ると上空で二匹の飛竜が空中戦を繰り広げている。片方は桜色の鱗を持つリオレイア亜種、もう片方は黄土色の鱗を持った見たことのない飛竜だった。

(縄張り争い?いやリオレイアが雪山に営巣するはずがない)

 二匹の雪山には不釣合いな飛竜の闘いを見ていると、どうやら空中戦はリオレイアの方が優勢だったのだろう。黄色い飛竜はエリア6の方向へ逃げ出した。

「こうしちゃいられないわね」

 ――エリア6――


「マリナッ!あいつを絶対に逃がすな!」

「グォオオオン!」

 “あいつ”と呼んだ飛竜を追ってマリナをエリア7におろさせようとしたが、そこには迎え撃つ体勢を既にとっている飛竜の姿があった。黄色い飛竜はおりてくる彼らに狙いを定めると、マリナの首めがけて飛び掛ってきた。

「マリナ!」

――ドォォォォォン――

 男の掛け声と共にマリナは飛び掛ってきた飛竜にブレスを浴びせた。それをもろに食らった飛竜は雪原に叩きつけられた。雪に埋もれた場所を睨みながらマリナはゆっくりと着地した。マリナの背中に乗っていた男は降りると、ブレスで叩きつけられた場所に近づいてさきほどの飛竜を確認しようとしたが…、

「いない!?」

 男が隆起した雪原の穴を覗いたが黄色い鱗が何枚か散らばっているだけであった。

「マリナ気をつけろ!まだ仕留めきってない!」

そういうと男はすぐさま槍を構えて周りの気配を探りはじめた。マリナも辺りを睨み回して警戒している。

――ズゴゴゴ…――

 足元から妙な地鳴りが響き、マリナのすぐ後ろの雪が盛り上がりソレは姿を現した。黄土色の鱗に所々青い筋の入った模様、他の飛竜種よりも発達した顎と前足を持ったソレが姿を現したとき、男はソレの名前を叫んだ。

「今日こそ決着をつけるぞ!ティガレックス!」

「ガアアアア!!!!」

 男の宣戦布告を、前足を雪原に突き刺しティガレックスは咆哮で応えた。

「マリナ!下がってろ、こいつはお前と相性が悪い!」

「グォォォォ」

 男の指示にマリナは素直に従ったが、心配そうな鳴き声をもらした。それに男は親指を立て、大丈夫だ、とサインを送った。それを見てマリナは渋々飛びたち、エリア6の山頂付近へおりようとしたが…

「ガアアア!!!」

「マリナ避けろ!」

 ティガレックスが、ゆっくりと飛び上がっていくマリナに狙いを定めて跳びかかってきた。さっきとは違い完全に不意をつかれたマリナはブレスが間に合わない。ティガレックスの牙がマリナの首に突き立てられる。まさにそのとき…

――ゴォォォォォ――

 エリア5へつづく洞窟の入り口からものすごい勢いで銀色の光がティガレックスへと迫っていく。そして…

――ドゴンッ――

「ガゥア!?」

 銀色の閃光はマリナに跳びかかったティガを弾き飛ばすと雪原に突き刺さった。マリナと男は、呆気にとられて洞窟の方に目をやってみると、そこには二人の女性の姿があった。

「あら、今の一投で仕留めたと思ったのに随分硬い鱗ね」
そう盾をもったフルフルSガンナー装備のタカーシュが言い、雪原に突き刺さった彼女の槍「ヴァルハラ」を引き抜いて構えた。後ろからアイアンインパクトを担いだゲネポスU装備のサヒヲが走りよってきた。

「師匠~~いきなり武器を構えろって何があ…あ~~~~!!!この間の黄色いヤツ!」

 そう言って、まだ叩きつけられた衝撃で立ちあがれていないティガを指差した。それをやれやれと肩をすくめたタカーシュが、あらためて男とマリナに目を向けて話しかけた。

「あなた達は何者ですか?飛竜とPTを組むハンターの噂なんて聞いたことがありませんけど」

 いぶかしそうに尋ねられて、男は癇にさわったのか多少ぶっきらぼうに答えた。

「誰とPTを組むなんてのはハンターの自由だろ、そっちこそ何者だ?」

「たしかにそうですね、私達はギルドの依頼を受けてそこの飛竜を狩りにきた者ですが…」

「だったら手を出さないでくれ」

 タカーシュの言葉を聞いて男はそういった。

「何いってるんです!?力を合わせた方がいいに決まってるじゃないですか!」

 それにサヒヲが驚いて抗議の声をあげたが、男の無言の圧力に圧されてそれ以上、何も言えなくなった。

「あなた達はマリナに村へ送らせる、狩りの姿をあまり他人に見せたくないのでね」

 男が二人にそう告げると、マリナが二人の前におりてきた。と、ようやく体勢をととのえたティガレックスがタカーシュ達に突進してきた。

「目を閉じて!」

「ガアアア!?」

 男が閃光玉を投げて叫ぶと、一瞬で辺りが真っ白になる程の膨大な光がティガレックスの目をくらませた。

「はやく乗って!」

「は…はい!」

 男の命令にサヒヲは慌ててマリナの背中によじ登った。タカーシュも無言でそれに続く。二人を乗せるとマリナは一息に崖の上から飛び去った。と、

「ヒギャァァァァァアアアアア!?!?!?!?高いぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 何かの奇声が響き渡り、凄まじいやまびこが起こったもののすぐに収まった。

「さて…ようやくだな」

「ガゥゥゥゥ」

 男がそう呟くと、視力の戻ったティガレックスが唸り声をあげて応えた。男はブループロミネンスを携えたままゆっくりとティガに歩みよっていく。

「お前が長を殺して里を逃げだしたことは許されないことだ、そこまでして自由が欲しかったのか?」

「ガァァァ」

 男の言葉にティガはうなずいた。

「そうか…ではせめて本来の姿で相手をしよう」

 そう言うと、男は何故か盾と槍を手放して両手を静かに握り締めた。そして目をつぶると、何か呪文のような言葉を紡ぎ始めた。

「我が身に刻まれた楔を外し我が身の枷を解き放つ、我が力と体その全ての鎖を断ち切る」

 途中から彼の身体を得体の知れないオーラが包みはじめ、彼の顔の形が徐々に変わり始めた。その形はまるで…

「うおおおおおっ!アクセス!!」

 かっと目を見開き、そう叫ぶと彼の両篭手がはじけとび腕から飛竜の蒼い翼が生え、手は蒼い鱗で覆われ爪は鋭利に研ぎ澄まされたナイフのようになり顔も皮膚から蒼い鱗が浮き出し、歯もナイフのように鋭くなりその瞳は金色に輝いている。ティガレックスは本気の相手を前にして禍々しい歓喜の咆哮をあげた。そして二匹の決闘が幕を開けた。

「いくぞ!」

「ガアアアア!!!!」

 己の爪と牙の激突、傷を負い、弾かれ、投げ飛ばし、叩きつける。生きるための命の奪い合いとは違う。ティガレックスにとってはただ楽しむためだけの闘い。彼にとっては尊敬する人の敵討ち。獣と獣の意地をかけた闘い。かなりの時間戦い続けた両者は満身創痍で立っているのがやっとの状態だった。二人とも呼吸は荒く、男の頭からは赤い筋が何本も滴り落ち、ティガレックスの顔の鱗と甲殻は所々剥がれ角は無残に叩き折られている。

「これ…で…終わりにす…ぞ」

「ガァァァ」

 男はそう言うと、ティガに向かって爪をかざしながら駆けだした。ティガレックスもそれに応じて男を噛み砕こうと口を開けて突進した。

「うおおおおおおッ!!!!」

「ガアアアアアアッ!!!!」

――ドグシャァァァァ…――

 その一部始終を見ていた影があった。彼女は彼を知っていてその目的も分かっていた。だからあえて彼の邪魔はしなかった。ただそれだけのこと。
「それでもこういう結末は好きじゃないわね…」
 ダクシュはそう呟くと、彼の身体を担いで洞窟の中へ消えていく。鈍く光るクイックキャストの銃身をティガレックスの亡骸がじっとみつめていた。


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