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WILDハンター(仮)

WILDハンター(仮)

八章「蒼穹駆ける赤」

――ヒュオォォォォ――

 ジャンボ村を旅立ってはや一年、ドブロク達は気ままな旅を送っていた。ソラスの背中に乗り各地を転々と文字通り飛び回っていた。今、彼らは北エルデ地方の峻険な山々のあいだを飛んでいる。

「にゃ~~~!?さすがにこの高さだと寒さが沁みるにゃ~」

 そう言いながらサウロはソラスの背中にくくりつけてあるリュックから防寒用のコートを取り出して羽織った。それを見てドブロクは、

「ははは、毛皮を着てるのに寒いとは相当の寒さなんだな」

 と冗談めかした口調で言った。それにソラスも続いておかしそうに唸り声をあげている。サウロは風圧でばたつくコートの前をしっかり掴みながら憤慨してこう言った。

「こ…この寒さがなんともないだんにゃさんが変なのにゃ!」

「ふふふふ、ハンターたるものこれくらいの寒さ…ハックシュン!」

 ドブロクはくしゃみを一回すると体を震わせて、サウロの上から手を伸ばしてリュックからコートを取り出して羽織った。それを見てサウロは満足そうに笑い、

「にゃははは、ハンターにもにゃっぱりこの寒さはつらいみたいですにゃ♪」

 ドブロクは、それをくやしそうに聞いていたが寒いものはしかたがない。黙ってコートの前をしめながらサウロの上機嫌な笑い声とソラスのうれしそうな唸り声を聞いていた。それからしばらく経ち、ふと耳をすますとドブロクの耳にソラス以外の羽音がかすかに聞こえた。周りを見渡してみたがそれらしい影は見えなかった。ほっとしてまた前を向くと今度はソラスが首を振り何かを探し始めた。サウロも耳をそばだてて何かを探っている。

「やっぱり何かいるのか?」

「はいにゃ!たぶんリオレウスだと思うにゃ~こっちには気づいてないみたいにゃ」

「そうか、一応そのまま警戒を続けてくれ、ソラス!近い町のそばにいこう」

「グルァ!」

「了解にゃ!」

 矢継ぎ早に出した指示に二人とも返事をして、ソラスは高度を下げて南に進路をとった。そして方向を変えた直後にサウロが叫んだ。

「だんにゃさんまずいにゃ!向こうがこっちに気づいて近づいてくるにゃ!」

「ちっ!風で臭いが流れたか羽音を聞かれたか!それとも縄張りに突っ込んだか!?」

 言うや否やドブロクは腰のデルフ=ダオラを抜き、拡散弾を込めるとサウロに聞いた。

「来る方向と距離は?」

「ちょっと待つにゃ…方向は西にゃ!距離はおよそ15kmにゃ!」

 目をつむって耳に神経を集中させていたサウロがそう叫ぶと、ドブロクは言われた方に銃口を向けた。すると遥か遠くに赤い点が見えた。スコープの最大望遠でも判然としなかったけれどそれがこちらに近づいてくるのが分かった。

「接触まであと4~5分ってところか…、サウロ!しっかり捕まってろ!」

「はいにゃ!」

 そうサウロは返事をするとドブロクの腰に抱きついた。ソラスは向かってくる相手を睨んで威嚇の体勢をとっている。グングン近づいてくる赤いモノの形が分かるほどの距離になってソラスと向かってきたリオレウスが吼えた。リオレウスはソラスの近くまでくるとソラスの左側を併走するように飛び会話でもするように何回か吼え、それにソラスも答えるように吼え返していた。そのあいだもドブロクはリオレウスから狙いを外さずにデルフを構えている。二頭は何度か吼えたあと、相手が業を煮やしたようにブレスを吐いた。ソラスはそれを急降下してかわしたが、背中に乗っている二人はその風圧とGで顔がすごいことになっている。それでもかまわずにドブロクはデルフの引鉄を引いた。放たれた弾丸は見事にレウスの腹に当たり爆散した。しかし、リオレウスは驚いたもののそれほど痛くなかったようですぐに追いかけてきた。そしてすぐ後ろにぴったりと張りつきブレスを吐いてきた。だが、ソラスはそれを見事に避けきっている。しかし激しく上下に揺れる背中に乗っているドブロクとサウロはしがみつくので精一杯になっている。

「ぎにゃあああああああ!?!?!?!?毛が逆立つにゃああああ!!!!」

「うおおおお!?久しぶりにこれをやられると気持ち悪…ぅっぷ」

 色々とやばそうな二人をまったく気に留めずソラスは鮮やかな飛行でレウスのブレスをかわしていく。そのまま逃げ回っていると山地を抜けて緑地がすこし残っている荒野に出た。だいぶリオレウスとの追いかけっこを続けているが向こうはあきらめる様子が見えない。疲れてはいるようでさっきからブレスを吐いてくることをしなくなったが、ぴったりはりついている。

「サウロ…リュックから閃光玉をとってくれ…」

 さっきまでの激しい飛行ですっかりグロッキーになったドブロクが力の無い声でサウロに指示をだした。

「はい…これ…」

 サウロもグロッキーになっているが、指示通り後ろのリュックから閃光玉を取り出してドブロクの手に渡した。

「サンキュ…あとお前…語尾に“にゃ”をつけるの忘れてるぞ…」

「ぁ…しまったにゃ…」

 よっこいしょと体を少し起こしたドブロクはソラスに指示を出した。

「まぁいい…ソラス…地表すれすれを飛んでくれ、あいつが落ちても大丈夫なくらいの高さで頼む」

「グルァ!」

 了承の咆哮をあげソラスは翼をたたみ急降下をかけ、レウスもそれを追いかけた。

「ちょっとはこっちも気にしろおぉぉぉ!!!!」

「ぎにゃああああああああああ!!!!!」

 ドブロクとサウロの絶叫を引きずりながら高度をぐんぐん下げていった。地表にぶつかるすれすれではばたき勢いを殺すと、そのまま地面から4~5mの高さをソラスは疾駆している。その少し上をリオレウスも離れずについてきている。しかしかなりグロッキーだった背中の二人にはきつかったのだろう。サウロはドブロクの腰につかまったまま白目をむいて泡をふいている。ドブロクも顔面蒼白で今にも突っ伏しそうだったがなんとかこらえているようだ。飛行が安定した辺りでドブロクは腰のポーチからロケット花火のような筒を取り出しその先端に閃光玉を取り付けた。そしてデルフを構えると導火線に火をつけた。

「3,2,1」

――ボシュッ…ヒュウゥゥ…ドンッ!グルゥアアアアア…ドゴォォォォォン……――

 ソラスの後ろには大きな砂煙がたっている。後ろを振り返りながらドブロクは気まずそうにひとこと、

「あれは…死んだかもな…」

「もう僕はダメにゃ…」

 サウロをそう言うと腕の力が抜け、ずり落ちそうになったが間一髪ドブロクが右腕で押さえてやった。そしてソラスにこう言った。

「ソラス…もう少し飛んだら降りて休憩しないか…流石に俺も限界だ…」

「グアァァ…」

 ソラスはすまなそうな唸り声をあげると少し先の木々が生い茂っている近くに着地した。ドブロクはサウロを抱えて身を投げ出すように降りると、そばにあった大木の根元にサウロを下ろして自分も横になった。それを心配そうにソラスが見ている。

「ふっ…そんなに心配するなって、ちょっと一眠りしたら近くの村か町に連れて行ってもらうからお前もちょっと休んでおけ」

 それを聞いてソラスもゆっくりとその巨体を伏せた。だが眠る様子はなくしきりに周りを気にしている。それを見てドブロクは笑みをもらした。

「見張りをよろしく頼んだ」

「グルゥゥゥ…」

 ソラスの静かな唸り声を聞きながらドブロクは深い眠りに落ちていった。


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