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WILDハンター(仮)

WILDハンター(仮)

十一章「荒くれ者の中へようこそ」

 砂漠の町レクサーラ。ハンターにとってここはセクメーア砂漠への入り口。商人にとってここは貴重な特産品を得るための交易地。しかしそれだけではない。いくらオアシスの近くにつくられたとはいえ、何故このような辺境に村が興されたのか。その起源は古く遥かいにしえに滅んだとされる古シュレイド王朝中期までさかのぼる。
 時の王は今の領土をなんとか広げようと思案をしていた。何度となく南方の砂漠地帯、北方のツンドラ地帯へ開拓隊を組織しむかわせたが成果は一向にあがらず帰ってこれる者も少なかった。失敗が続きとうとう民は開拓へ向かうことを拒んでしまった。これ以上は無理か、そう王は考え開拓の中止を諸侯へ言い渡した。その席である公爵が王にこう進言した。王よ民が従わぬのであれば従うものを使えばよいだけのことです、と。王が腑に落ちない表情のままでいたのでその公爵は気味の悪い笑みを浮かべたまま言葉をこう続けました。牢にいれられている囚人どもを使うのです見事開拓に成功すればそのままそこで暮らすことを許すとおっしゃって、これを聞くと王はもろ手をあげて喜んだ。そして各地の牢獄から囚人が集められ南方の開拓へかりだされた。そして彼らは自由に暮らせる場所を求めて砂漠をさまよい、ようやく見つけたオアシスのそばに築き上げた村。それが今のレクサーラなのだ。
 そうレクサーラは囚人の町。それでもセクメーア砂漠最大のオアシスのそばにある唯一の村ゆえに発展してきた。しかしその閉ざされた環境ゆえにすぐ盗賊や夜盗たちのたまり場になってしまっていた。元々囚人の中に人殺しや盗賊が多くいたので治安の良い村ではなかったがこれによりこの村では王国の目が届きにくいことをいいことに人買いや密売、盗品市が横行していく。しかしそれでもただやりたい放題ではなく組織じみた取り決めがおこなわれ、それぞれ気の合うもの同士が徒党を組み秩序をつくっていった。やがて古シュレイド王朝が滅びたあともこの村は何も変わらずむしろ悪党どもの楽園として繁栄し今に至る。しかし表向きはあくまで砂漠の交易地。物騒なことはすべて砂の下でおこなわれている。
 さて例のディアブロス騒動からリータ、カイヅ、サイツの3人は生まれ故郷でもあるこのレクサーラに腰を落ち着けているのだが、彼らはどこに寝泊りしているのだろうか。当然この町にもハンターズギルドが運営するハンター用の宿泊施設はあるがもちろん彼女たちはここにいない。彼女たちの家はレクサーラの北東のはずれにある。古ぼけた赤レンガの町並みの奥にぽつんとある小さな教会がそれだ。ここでは数人のシスターが身寄りのない子どもたちをひきとって孤児院のようなこともしている。リータたちも拾われてここで育てられた。ではあの角竜が捕らわれた日から物語を続けよう。
――ガラガラ…グォォォン…ガラガラ――
 アプトノス3頭に引かれた巨大な荷車にがんじがらめにされたディアブロスがおびえた唸り声をあげている。その理由は、
「だ・か・ら!なんでお前はそんなに気が弱いんだ!」
 荷台に乗りディアブロスの顔のすぐ前で説教をしているリータにあるだろう。ディアブロスの意識が戻ってから延々とこの調子で怒鳴り散らしている。それをうるさそうに聞きながらサイツは荷台の空いているスペースで横になり、カイヅは御者台でアプトノスたちの手綱を握りながらずっと苦笑したままになっている。二人は鬼の説教におびえきったディアブロスを哀れに思いながらもちょっかいを出したあとのこちら側への飛び火を考えると黙っているしかなかった。
「ん~?おまえの口は生臭くないな…?まさかおまえ肉食ったことないのか?」
 リータはそんな二人をまったく気にもせずディアブロスの口の近くで匂いを嗅いだりしてディアブロスの食性まで調べ始めた。そんなこんなで騒がしい道中だったが、
「リータさん、カイヅさん、レクサーラが見えてきましたよ」
 カイヅの安堵した声が響くとリータとサイツは荷台から立ち上がって行く手を見ると、その先には夕日に輝く美しい湖面と赤銅のように輝く赤レンガの家々が立ち並ぶレクサーラがあった。日が沈むまでのこの数十分がこの町が最も美しく見える瞬間だろう。
「いつも通りシスター・リザの教会へ向かいますか?」
「あぁそうしてくれカイヅ」
 荷台の二人にカイヅが声をかけるとサイツがすぐにそう答えた。が、
「ダメだ!」
 リータが叫ぶと二人は、え?と怪訝そうな顔でリータの方へ振り向いた。なんで?と言いかけたサイツより先に腕組みをしてリータが言った。
「教会のみんなに渡す土産がない!」
 サイツとカイヅは呆気にとられたが、たしかにいつも帰るときは食べ物やいっていた地方の特産品を山ほどもって帰っていた。それを考えるとリータの言ったことも分かるが、
「でもやっぱり帰ってきてるのに顔を見せないのはまずいだろ?」
「そうですよ。シスターとの約束を忘れたわけではないでしょ?」
「…そりゃそうだけどさ」
 そう彼らがハンターとして各地をまわることをシスター・リザに話したとき最初は中々賛成してくれなかったが、この町に来たときは出て行くまでに必ず顔を出すことを約束したのだ。親代わりのシスターとの約束を破ることはもちろんできないが、今回はディアブロス討伐をしてそのままレクサーラ入りしてしまったために手土産が何もないことがリータを悩ませていた。彼女なりに教会のみんなをがっかりさせたくないのだ。そんな彼女の様子を見てサイツがやれやれと、
「土産ならこいつでいいだろ?」
 そう言ってディアブロスの頬をなでた。その言葉にはカイヅもさすがのリータも呆気にとられた。生きた飛竜を土産になんて誰も考えないだろう。
「なぁ…サイツ…さすがのあたしでもその発想はなかったわ」
「え…えぇ…さすがにそれはいくらなんでも無理が」
「じゃあ、ちょっと試してみるか?カイヅちょっとアプトノスをとめろ」
 そう言うとサイツはディアブロスに向かって話しかけ始めた。
「なぁ?おまえは暴れるのが好きか?好きだったら首を縦に、嫌だったら横にふりな」
 話しかけられて少々ディアブロスは驚いたようだったがすぐに首を横にふった。それを見てカイヅもリータも驚いた。カイヅは今まで飛竜に言葉がわかるだけの知能があるとは思っていなかったし、リータは一方的に自分の気が晴れるように説教していただけでそこまで考えていなかった。
「おまえはこのままだとこの町にある闘技場ってところで死ぬまで戦わせられることになるんだがそれは嫌か?」
 サイツのその言葉にディアブロスは大きくうなずいた。そこでサイツはにやりと笑ってこう続けた。
「おまえは野生でもうまく生きていけないだろうから俺達の仲間にならないか?もちろんちゃんと飯は食わせてやるぜ」
 そう言いながらサイツは腰の解体用ナイフを引き抜いた。そしてディアブロスを押さえているロープを切っていきながらさらに言葉を続ける。
「まぁそれが嫌ならこのまま逃げだせ、もし仲間になってもいいと思うならこれからいくところへついてきな」
 ロープを全部切り終わるとディアブロスはゆっくりと立ち上がり翼を背伸びするように広げ、さっぱりしたという感じで首も伸ばしている。カイヅとリータをやや緊張しながら事の成り行きを見守っている。しかしディアブロスは別段なにをするでもなくリータたちをじっと見ている。サイツは満足そうな笑みを浮かべて、
「スカウト成功かな?」
「グロァァァ…」
 その言葉にまるで、“よろしくお願いします”とでもいうようにディアブロスは唸り3人に向かっておじぎのようなしぐさをした。それを見てサイツはディアブロスへ近づこうとしたが、それよりも先にリータが急に走り出してディアブロスの鼻っぱしらにひたっと顔をくっつけた。それを見てサイツとカイヅは目を合わせてにんまりと笑った。と、
「ふふふふふ…」
 顔をくっつけていたリータが不気味に笑いだし二人がぱっと見ると、そこには悪魔のような笑みをこぼすリータの姿が、そして顔を離すと、
「このフォウルグ興産に入ったからには覚悟するんだね!」
 そう腰に手を当て仁王立ちで高らかに宣言した。それを聞いてディアブロスはおびえたように後ずさり、カイヅとサイツはあちゃ~と額に手を当ててうなだれた。そんな周りの反応をまったく気にせずにリータは、
「とりあえず名前を決めないとなぁ。教会のみんなに紹介するとき困る」
 勝手にそんな独り言を言っているが、
「それはたしかにそうだな」
「ん~…ディアブロスだとそのまんまですしね」
「グォォン」
 まわりも納得して新入りの名前を考えることに。しばらく3人は腕組みしたまま真剣に考えている。と、サイツが威勢よく切り出した。
「デンドロ!」
「却下!こいつに合わない!」
 0・5秒でリータに跳ね返された。続いてカイヅ。
「ツキサシ!」
「それはギザミランスの名前だ!」
 サイツの激しいツッコミ。満を持してリータ。
「トロンベ!」
「「それはダメだ!」」
 二人のツッコミがひとつになった。
「「「ん~~……」」」
 けっきょく決まらずまた考え込む3人。見かねたようにディアブロスがのっそりと近づいてきて砂地に角を使って文字を書き始めた。
「「「おぉ!?」」」
 それを見て3人とも書かれていく文字を凝視している。そして声をそろえて、
「「「ディ…ノ…ギュ…ノ…ス?」」」
 3人がそう言いディアブロスを見るとディアブロスは大きくうなずいた。しかし、
「長いからディノでいいな」
 そうサイツが言い、
「まぁ発音も難しいですし」
 カイヅも同意して、
「なんだか気取ってていやだしな!」
 リータも納得してめでたし、めでたし。ただ当のディノだけは当惑気味に3人を見比べていたが、やがてあきらめたようにため息をついてうなだれた。
「さて!それでは我らがシスター・リザの教会へいきますか」
 サイツの呼びかけに二人とディノもうなずき空になった荷車へリータたちは乗ると、3人と1頭は半分ほどになった夕日を浴びながらレクサーラの町へ向かった。が、もちろん飛竜が普通に町へ向かってきて騒ぎにならないわけもなくリータたちが懸命に事情を説明し何も問題を起こさないと誓紙を書かされたうえディノを入れるのは教会の区域のみという条件でなんとか許された。これだけでもだいぶ疲れた3人だったが、ここから先が本番だった。なんとか町の外をぐるっと回り教会の入り口まできて3人はひとつ深呼吸をした。
「いいか、ディノ」
「グロォォ…」
 サイツの妙に重い口調にディノが首をかしげると、
「絶対にうかつに動いてはいけませんよ」
 カイヅもまるで今から狩り場へ望むような口ぶりだ。
「へッ…今にわかるさ」
 含みのある笑みでリータがそう言うとサイツが意を決したように扉へ手をかけた。
「今帰ったぞ~みんな!」
 そう言って扉を開けると、
「「「「「「「おっかえり~~~~!!!!」」」」」」」
 待ち構えていたように一斉に7人の子どもが飛び出してきた。先頭きって駆け出してきた赤いシャツの男の子がサイツに抱きついてきながら
「サイツ兄ちゃん!まだリータ姉ちゃんの尻にしかれてるの?」
「テリーおまえの口は相変わらず変わらないなぁ」
 サイツはテリーと呼んだ9歳くらいの男の子のばさばさになっている髪をなでながらそう言い返した。とそこへ8歳くらいのおかっぱ頭の女の子が抱きついてきた、
「テリーばっかず~る~い~~あたしもサイツ兄ちゃんに会いたかったんだから!」
「おうおう、ミナも久しぶりだな~ちょっと背が伸びたか?」
 そう言ってサイツはかがむとミナの肩を片手で抱いてやった。
「リータねぇちゃあああん!今度のお土産はなに?」
「っとナジャごめんね~今回はお土産ひとつしかないんだ」
 リータはそう言い走りよってきた5歳くらいのやんちゃ盛りな男の子を抱き上げた。とそばまで走りよってきてリータの防具を見た10歳くらいのおとなしそうな女の子がぽつりとこうもらした。
「リータお姉ちゃんなんかごつくなったね」
「はははは、テートは正直に言うね。それでもあながち間違ってないのがなんとも」
 快活に笑いながらリータはテートの頭をガシガシとなでまわしてやった。そして顔をそばまでもっていって、にひ~とおたがい歯を見せて笑った。
「カイヅ兄ちゃああああん!」
「お~よしよし、久しぶりですね~デルいい子にしてましたか?」
「うん!ちゃんとシスターの言いつけも守ってるしごはんも残してないよ」
 絶叫しながら抱きついてきた7歳くらいの品のいい顔立ちをした女の子を受け止めながらやりとりをしていると、双子だろうか容姿が瓜二つの6歳くらいの男の子がカイヅに走りよってきてこう尋ねた。
「「カイヅ兄ちゃん!今度はいつまでいるの?」」
「カイ、ソルただいま。今度もそうですねリータの気分次第ですかね」
「「え~~」」
「ははは、でもちゃんとまた今度の旅のお話を聞かせてあげるから安心なさい」
「「やった!」」
 カイヅの答えに落ち込んだ双子だったけれど旅のお話のことを聞いておたがいにハイタッチして喜び合っている。そして一通り話したいことが終わると7人は、
「「「「「「「で、なんでおねぇちゃんたちディアブロスを連れているの?」」」」」」」
 と声をそろえてリータたちに聞いてきた。それにリータは自慢げにこう答えてやった。
「ふふふ…聞いて驚くなよ~こいつはディノっていってな~あたし達の新しいお仲間さ」
「「「「「「「えええええええええええええ!?」」」」」」」
 それを聞いて子どもたちが驚かないわけがない。口々にすごいすごいと言ってリータに次々と質問をぶつけ始めた。どこで知り合ったの?とか、リータお姉ちゃんがやっつけたの?とかさわってもいい?とかもうものすごい勢いでリータも圧倒されっぱなしになっている。その隙にサイツがディノの耳元でささやいた。
「こいつらは俺達の後輩みたいなもんでな、まだ子どもでさっきみたいにおまえのとこにもくると思うからうまく相手をしてやってくれよ」
 それを聞くとディノは小さくだがしっかりとうなずいてくれた。それを見てサイツはほっと胸をなでおろした。すると、
「こらぁぁああ!おまえら!今日の礼拝はまだ終わってないぞってリータ!?」
 建物の中から修道服を着ているが雰囲気があまりシスターっぽくない赤茶色した長髪の女性が出てきたが、リータを見てひどく驚いたようだ。その女性を見てリータは意地の悪い笑みを浮かべながらからかうように声をかけた。
「いよぅ、ルーナ。修道服も似合ってるねぇ」
「あんたこそあいかわらず色気のない格好してるねぇ」
 ルーナと呼ばれたシスターも負けずに言い返す。どうやら二人にはかなり因縁があるようだ。睨みあう二人の空気がまわりを巻き込んで場を緊迫させていく。とそこへのんびりとした声が響いた。
「はいはいみなさん、リータたちは長旅で疲れてるんだからその辺でやめておきなさい」
 もう一人、建物の中から修道服に身を包んだ金髪で優しい雰囲気をもった40代くらいの女性が出てきた。
「シスター・リザ…」
 ルーナが精一杯抗議の声で女性の名を言ったがどうにもならないのだろう。おとなしく引き下がった。そこでカイヅが丁寧にあいさつの言葉を述べた。
「どうもご無沙汰していました。シスター・リザ」
「いえいえ、よくまた無事に帰ってきてくれましたカイヅ、サイツ、リータ」
 柔らかい口調でシスター・リザはリータたちに声をかけた。そして外にいるディノに気がつくとのんびりとした口調でリータたちに尋ねた。
「あらあら、こちらの飛竜はどうしたのですか?」
「あ~実はこいつがやられそうになったのを助けたのが縁で…かくかくしかじか」
 とサイツが事のいきさつをシスター・リザに説明した。その説明を聞くとおもむろにシスター・リザはディノに近づいていった。それを見てルーナが、
「シスター・リザ!危ないですよ!あの気性の荒いことで有名なディアブロスですよ!」
 そう言ったが、シスター・リザはまるで臆することなくディノの目の前に立った。そしてディノの瞳をしばらく見つめていたが、
「大丈夫ですよ、ルーナ。この子は優しい目をしています」
そう言いディノの頬に触れた。するとディノもまるで母親に甘える子どものように頬をシスター・リザの手にすりよせている。この光景を見てはルーナも何も言えない。
「それではみなさん、リータたちに新しいお友達ができたことを祝って今日はごちそうにしましょう」
 ディノの頬に触れたままシスター・リザがみんなの方を振り返って言うとにっこりと笑い、子どもたちからはわーっと歓声があがった。サイツも小さくガッツポーズをし、カイヅは苦笑して、リータはルーナと片手でハイタッチした。その夜は教会前の広場でつつましいパーティーが開かれました。ディノのまわりで子どもたちとサイツは大声で調子はずれで楽しそうに歌い、カイヅはのんびりとシスター・リザと話をし、リータはルーナとおたがい憎まれ口をたたきあっている。砂漠の楽しい夜はこうして更けていきました。


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