[小説] ワイプアウト - その1
- 事故 -全身に衝撃が走った、警告音が鳴り響く中、マシンに搭載されている自動安全装置が作動し、俺の身体は座席ごと空へ放り出された。景色がまるでスローモーションをかけたモノクロ映像のように目の前をゆっくりと通り過ぎていった…俺は目を閉じた、瞼の裏には家族や友人そして愛する女が俺を哀れむように見ていた。風を切り裂き、重力を支配し、己の極限を超えて加速し続ける中マシンが砕け散るまでひたすら翔び続ける…終わりのないゴールを目指して、マシンと自らの魂を削りながら、どれだけ遠くそして速く飛翔しても、最後は全て失ってしまう。(「何故こんな馬鹿げたレースにマジになってんだ…?」、と意識の奥底からふと聞こえた気がした)…何故、俺は身体と魂がボロボロになってもまだ翔び続けているんだ?このレースで得られる刹那の快楽を求めて、だろうか…俺は答えを出せぬまま、暗闇の中、まどろみの波間を漂っていた。暫くして少し遠くの方で爆発音が聞こえた、俺のマシンが大破し砕け散ったのだろう、爆発音と共に最後にマシンが叫んだような気がした。「…もう終わりにしようぜ、お前も俺も 」俺は繋ぎ止めていた糸が切れたように意識を失った。意識を取り戻したのはその事故から4ヶ月後の事だった。(…続く)