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テーマ:日々自然観察(9870)
カテゴリ:昆虫(甲虫)
どうもこの連中は苦手である。雌雄で形態が違うし、雄にある突起の形は体の大きさ(幼虫時代の栄養の多寡)で相当に変化する。これはクワガタやカブトムシでも同じだが、多くは1cmに満たない小さい種類なのでずっと分かり難い。 実は、糞虫類の種類を詳しく調べるのはこれが始めてである。まず、保育社の甲虫図鑑にあるコガネムシ科の検索表を使って、亜科を調べる。触角は8節か9節なので、11節のセンチコガネ亜科ではない。また、第8節が杯状ではないのでアツバコガネ亜科でもない。残るはマグソコガネ亜科かダイコクコガネ亜科となる。検索表に拠れば、前者では尾節板(お尻の先端)は一般に上翅(鞘翅)に被われて見えず、後脛節の端棘は2本、後者では尾節板は上翅より露出し、後脛節の端棘は1本、とある。写真を見ると、お尻の先端が見える。また、後脛節端には長い棘が1本と短い突起が1つ認められ、この状態が「端棘が1本」と言えるのか些か自信がないが、図鑑の図版を見るとダイコクコガネ亜科の虫の後脛節端と同じ形をしている。従って、写真の虫はダイコクコガネ亜科に属すと考えて問題ないであろう。
次は属の検索である。後付節の基節(第1節)は第2節より遙かに長いのでダイコクコガネ族(Coprini)となり、前胸背板の後縁に沿う溝がなく、後縁は上反しないので、エンマコガネ属(Onthophagus)かコエンマコガネ属(Caccobius)と言うことになる。この2者は前脛節端の形で区別され、先端が内縁と鋭角をなして斜めに裁断されていればエンマコガネ属、ほぼ直角であればコエンマコガネ属である。しかし、これは写真からは一寸分かり難い。こうなると、この2属に属す虫の写真をInternetで探して比較することになる。撮影したのは何分にも都内の住宅地だから、珍種は居ない、と言う想定である。幸いなことに、東京都本土部昆虫目録にはエンマコガネ属は7種、コエンマコガネ属は1種しか記録されていない(九大の日本産昆虫目録では前者が29種、後者が5種)。
この糞虫の特徴として注目したのは、先ず頭部先端が上向きにヘラ状になっていることである。何処となく茶道に使う灰匙を思い浮かべさせる。また、胸背の中央に縦の窪みがあり、その左右には隆起があって、更にその外側に若干の窪みが認められる(下の写真)。 これらを目当てにして探し当てたのがコブマルエンマコガネの雄であった。図鑑に戻ってその記載を読むと、「頭部中央の横隆条は♂では明瞭でやや弧状、♀では直線状、後方の横隆条は両複眼間にあり、やや湾曲し小さい2角状.前胸背板[胸背]の点刻は小円形で疎、側方のものは毛をともなう.上翅の間室[鞘翅の溝と溝との間の部分]は平坦、毛をともなう微小点刻をほぼ2列に並べる」とある([]内は用語説明)。一応、これらの特徴と一致する様である。また、日本各地に普通、都市でもよく見られる種類とのことなので、コブマルエンマコガネで間違い無いであろう。
頭部先端がヘラ状になることや胸背のデコボコは雄の特徴であり、雌ではヘラ状のものが頭部の辺縁全体に拡がって庇状となり、胸背にデコボコは無い。これらはInternet上の写真やその解説からの情報である。保育社の甲虫図鑑には雌雄双方の写真が載せられているが、小さくてよく分からないし、解説にはこれらのことが全く書かれていない。もう少し解説を詳細にして貰わないと、同定に不安が残る。活字だけのページを増やすのは図版を増やすのよりはずっと安いと思うので、出来るだけ解説を詳しく書いて欲しいものである。 尚、このコブマルエンマコガネは獣糞や腐肉の他、場合によっては腐ったキノコなども食べるそうである。この種が都会の中で生き残っているのは、やはり普通の糞虫よりも食物スペクトルが広いからなのであろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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