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テーマ:日々自然観察(9815)
カテゴリ:昆虫(その他)
最初と最後の2枚の写真は、6齢から飼育して羽化させた個体である(他は、トベラの木で幼虫を探した時に見つけた個体)。他の5齢から飼育していた4頭も後日チャンと羽化したので、何れも本来の住処であるトベラの木に放してやった。 この辺り(東京都世田谷区西部)には、ヨツモンホソチャタテは居ることには居るが、その数は普段は決して多くはない。少なくとも我が家で見たことはこれまで一度もなかった。 それが何故か、今年の冬は例年よりずっと数が多い。もう一つのWeblogでフィールドの一つにしている「四丁目緑地」では、毎回5頭以上を見付けた。この辺りで全体的な数が増えたので、我が家の庭にも飛んで来たのだろう。
さて、このチャタテムシをヨツモンホソチャタテとした根拠を書かねばならない。実際のところ、翅の模様を見れば一目瞭然なのだが、一応チャンと検索してみよう。 先ず、科の検索である。チャタテムシの検索表としては「富田&芳賀:日本産チャタテムシ目の目録と検索表」がある。珍しく日本語の文献だが、この論文中の科への検索表では生態写真からは良く分からない構造がキーとなることが多く、非常に使い難い。 それではどうするか。翅脈相を見るのである。これだけでかなりのことが分かる。北大農学部の吉澤準教授が書かれた「Morphology of Psocomorpha」には25科(日本産は16科)の翅脈図が載っている。吉澤准教授のHPにある最新(2004)のリスト「Checklist of Japanese Psocoptera」を見ると、日本産チャタテムシは全部で20科だが、無翅、或いは、翅の退化した種が多い科が4科あるので、16科と云うことは、日本産の有翅チャタテムシの全科を含んでいると考えて良いだろう。
ホソチャタテ科の前翅翅脈相の特徴は、後小室とM脈、縁紋とRs脈がそれぞれ横脈で繋がっていることである(上の写真の「A」と「B」)。後小室とM脈の間に横脈を持つ科としては、他にスカシチャタテ科とケブカチャタテ科(一部のみ)があるが、これらの科には縁紋とRs脈を繋ぐ横脈は無い。 しかし、翅脈だけでは些か心配なので、「富田&芳賀」の科への検索表をホソチャタテ科から逆に遡ってみる。暫くは問題無く辿れるが、キー3で「爪の先端近くに歯を持たない」と云う写真からは判断出来ない特徴が出て来る。反対は「・・・歯を持つ」である。其処でこれを下へ降りてみると、該当するキーが無くなり迷子になってしまう。どうやら「・・・歯を持たない」で正しい様である。上位にあるキー2は「付節は2節」であり、これは写真から何とか判断出来る。 ・・・と云うことで、ホソチャタテ科で特に問題は無い様である。 さて、次はホソチャタテ科の種への検索である。「富田&芳賀」は1991年に書かれているが、その後チャタテムシの分類に大きな変更があり、吉澤準教授のリストを見ると、種数は「富田&芳賀」と同じだが、その種構成はかなり異なっている。「富田&芳賀」でホソチャタテ科に属していたホソヒゲチャタテ(Kodamaius brevicornis)とマダラヒゲナガチャタテ(Taeniostigma ingens)は、何故か種自体が吉澤教授のリストには見当たらない。しかし、「Psocodea Species File Online」と云うチャタテムシ専門のサイトを参照すると、何方もケブカチャタテ科に属している。この両種は縁紋-Rs間の横脈を欠くので、ホソチャタテ科から追い出されたらしい。 一方、吉澤準教授のリストでは、ホソチャタテ科に新たに2種が加わっている。しかし、何れも北方領土に分布する種で、この辺りに居る可能性はない。結局のところ、「富田&芳賀」のホソチャタテ科の検索表で、前述の2種を除いたキー3から始めればよいことになる。
キー3は、「後小室と中脈[M脈]の横脈は短い.前翅には目立った斑紋がある.前翅長は約3.0mm」で直ちにヨツモンホソチャタテ(Graphopsocus cruciatus)に落ちてしまう。実は、この横脈が短いか否かに付いては後述の様に一寸問題があるのだが、反対のキーは「・・・前翅には縁紋を除いて目立った斑紋はない」だから、此方の可能性はない。 最後に確認の為、学名を使って写真を探してみる。幸いなことに、このヨツモンホソチャタテは北米にも産する(移入種)のでBugGuide.netに沢山の写真が見付かった。何れも「ソックリ」である。これでホソチャタテ科のヨツモンホソチャタテと決まり、目出度しメデタシと相成る。
一寸検索表で気に掛かるのは、後小室と中脈[M脈]の横脈は短い、と云う記述である。3番目の写真では明らかに短いが、下の写真(矢印)では縁紋とRs脈間の横脈に近い長さがあり、短いとは言い難い。もう一つのWeblogで紹介した個体でもこの横脈はかなり長かった。 雌雄で違うのか、或いは、雌雄とは無関係に長さにかなりの変異が見られるのか。一介の素人には判断出来ないが、今考えてみると、羽化した個体を庭に放す前に全て翅脈を撮影すべきであった。今後、機会があれば調べてみよう。
今回で漸く成虫となり、これで「チャタテムシ幼虫の観察」も終わりである。読者諸氏の中には、余り代わりばえのしない幼虫写真が続いていい加減ウンザリされた方も居られるかも知れない。しかし、卵から成虫までの各段階を追った記録は、Web上には無い様なので、全体を纏めた記事を更に1本書こうと思っている。 [追記]纏め記事は未だに書いていないが、以下に、卵から終齢幼虫(6齢)までの成長記録一覧を示しておく。 内 容 掲 載 日 撮 影 日 卵と初齢幼虫 2010/03/13 2010/02/25,03/12 2齢幼虫 2010/03/23 2010/03/22 3、4齢幼虫 2010/04/19 2010/04/10 5齢幼虫 2010/04/25 2010/04/18,20 6齢幼虫 2010/04/29 2010/04/20 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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