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テーマ:日々自然観察(9860)
カテゴリ:昆虫(蛾)
最初の写真は、これまで紹介して来たのとは別の個体の蛹である。写真の枚数が多くなると必然的にHTMLのタグが多くなり、文字制限に引っ掛かってしまうので、3枚を合成して1枚にした。言うまでもないが、頭は右である。 一番上が背面、真ん中が腹側、下は横から見た姿。側面に見える黒い突起は気門で、腹部第2節から第7節の各節に1個ずつ合計6個見えている。幼虫では腹部第1節から第8節までの8個の気門があるのだが、蛹では腹節第1節の気門は後翅に隠れて見えない。また、第8節の気門は痕跡的で、3番目の写真に筋状の裂け目として写っている(第8節から第10節の3節は一つに癒合している)。 腹部より前方に胸部第3~1節があり、第3、2節の側方に広がるのは翅で、後翅(第3節)は前翅(第2節)に隠れて一部しか見えない。幼虫では胸部第1節に気門があるが、蛹では1節と2節の間にあり、背面と側面の写真にそれが見える。 その前方は当然頭部で、背面からは極く一部しか見えない。しかし、腹面から見ると色々とゴチャゴチャした構造があるのが分かる。
腹面の前部を拡大してみた。略号は保育社の「原色日本蛾類幼虫図鑑」の図にあるもので、Ant:触角、Cl:頭楯、E:眼、Hs:吸管、L1:前脚、L2:中脚、L3:後脚、Lf1:前腿節、Lp:下唇鬚、Lbは説明がないが多分上唇(labrum)であろう(普通はLbrと略す、Lbiならばlabiumで下唇)。
また、尾端には針状の突起が1対ある。これは尾突起と呼ばれるもので、これで蛹を物体に固着させるのだそうである。 以上、Web上には蛾類蛹の外部形態に関する情報が少ない様なので、上記図鑑にある図を参考に説明を試みてみた。
さて、次は成虫の写真である。これは、これまで3齢を除いて2齢から6齢まで紹介して来た個体が羽化したものである。胴体が太くヤガ科(Noctuidae)らしい格好をしている。タバコガの成虫とよく似ているが、後翅外側(写真では下側)にある黒色帯が幅広く外縁にまで達しているのがオオタバコガで、タバコガではこれが外縁に完全には届かないのが普通であり、更にこの黒色帯の内側に細い筋がある。また、オオタバコガでは、前翅外縁の内側にある暗色帯(亜外縁線)の輪郭がハッキリしないことが多いが、タバコガでは明確でギザギザしている。
土中に潜った幼虫が何処でどの様にして蛹になったかは確認しなかった。羽化してから分かったことだが、プラスティックのコップの底に小さな空間を作り、その中で蛹になっていた。上の写真は、羽化後にその部分を剥がして撮影したものである。 コップにはさらさらした粒状の軽い土を入れてあり、その中でこの様な空間を作るのは土が崩れて少し難しいのではないかと云う気がする。終齢幼虫の記事で、食べるのを止めてから「ビチ」もしないで直ぐに土に潜ってしまったと書いたが、或いは、土中でビチをし、その水分を使って、この様な空所を作るのかも知れない。
上の写真は、最初に示した蛹が羽化したものである。前翅の模様が余り明確でない。オオタバコガの成虫は、幼虫に劣らず色彩の変異が大きく、斑紋が良く分からない個体も多いが、タバコガでは変異は比較的少ないとのこと。
オオタバコガは蛹越冬であるが、かなり遅い時期まで活動し、耐寒性が強い。成虫写真の最初の個体は表に出したら直ぐに飛んで行ってしまったし、2番目の個体は、余り動かない様に冷蔵庫に入れて充分「冷やして」から写真を撮ったのだが、外気に出して数分も経たない内に翅を震わせ始め、その1分後には飛んで行ってしまった。そう云う訳で、成虫の写真は充分に撮ることが出来なかった。
成虫写真の最初の個体は10月23日に土に潜り、11月24日の朝には羽化していた。もう既に飛べる状態になっていたところを見ると、23日の晩に羽化したものと思われる。幼虫期は僅かに13日であったが、土中に潜ってから羽化するまでは丁度1ヶ月、31日を要したことになる。もう一方の個体も1日遅れて10月24日に土中に入り、11月25日の朝には羽化してバタ付いていたから、これも土中で同じ時間を過ごしたことになる。尚、土に潜ってから蛹になるまでの日数は不明である。 以下に、これまでのオオタバコガ成長記録の一覧を示しておく。 幼虫の齢 掲載日 撮影日 備考 2齢 2010/11/26 2010/10/12 3齢 2010/12/01 2010/10/14 他とは別個体 4齢 2010/12/11 2010/10/14 5齢 2010/12/15 2010/10/17 6齢 2011/01/17 2010/10/21 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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遂に成虫のお出ましでしたか。
土の中からもぞもぞ?っと砂を掻き分け?出て来るのでしょうか。 丸いトンネル?様の空間からならともかく 蛾が砂かぶりで出て来るのなら想像しにくいです。 幼虫で13日、羽化に1ヶ月、 なら11月下旬のこの成虫はすぐ交尾・産卵してまた1サイクル その後の世代が今頃、土の下で蛹に? それにしてもまたまたリアルな、ど迫力の「蛾」像です。 シックな色合いの翅といい、頭部の毛の多さもなのに それにしては触覚がスマートやなあと思いました。 (2011.01.31 23:18:08)
snowrun29さん
>土の中からもぞもぞ?っと砂を掻き分け?出て来るのでしょうか。 >丸いトンネル?様の空間からならともかく >蛾が砂かぶりで出て来るのなら想像しにくいです。 ----- 柔らかい土の浅い所で蛹化するのでしょう。蛾の様な柔らかい虫が土を押しのけて出て来ると云うのは、確かに一寸奇妙な光景だと思います。 >幼虫で13日、羽化に1ヶ月、 >なら11月下旬のこの成虫はすぐ交尾・産卵してまた1サイクル >その後の世代が今頃、土の下で蛹に? ----- 1世代が短いので、薬剤耐性を獲得し易いのです。「大害虫」に要求される?基本的な能力の一つです。 >それにしてもまたまたリアルな、ど迫力の「蛾」像です。 >シックな色合いの翅といい、頭部の毛の多さもなのに >それにしては触覚がスマートやなあと思いました。 ----- 実は、雄と雌の区別が良く分からないのです。触角を見ると細かい櫛の歯の様なものが見えるので雄なのかな?とも思うのですが、別に飼育した此処に載せていないオオタバコガの成虫もみな同じ様な触角をしています。 (2011.02.01 09:09:51)
モスラのような蛾らしい 蛾になったと思います。黄緑の目 虹色が見える黒い目 素人には別種と判断してしまいそうな虫です。でも 土中のサナギ 筒状花にもぐる幼虫 とっても可愛いとお勉強してしまいました^^
今年 発見したいと思います。 (2011.02.01 09:45:43)
るる555さん
>モスラのような蛾らしい 蛾になったと思います。黄緑の目 虹色が見える黒い目 素人には別種と判断してしまいそうな虫です。 ----- 開張(展翅標本にした時の幅)は3.5cm位ですから大きな蛾ではありません。蛾の眼の色は、これまでの経験によると、一般に個体によってかなり異なるようです。 >でも 土中のサナギ 筒状花にもぐる幼虫 とっても可愛いとお勉強してしまいました^^ >今年 発見したいと思います。 ----- オオタバコガは基本的に南方系で新大陸を除く世界の熱帯~温帯に分布しています。北海道も分布に含まれていますが、北海道では越冬は出来ず、本州から飛来した個体が産んだ卵が孵化して幼虫が出現するのは8月以降だそうです。 (2011.02.01 10:37:59)
コンニチワ。羽化したては、ぬいぐるみみたいですね。
蛾の蛹の雌雄は、腹部腹面を見るとだいたい判ります。8,9,10節は癒合してますが、よく見ると継ぎ目が見えます。その際、9節が8節に引きつったように切り込んでいれば雌、そうでなければ雄です。 私が見た感じでは最初の蛹は雄に見えます。 拙ブログのアルバムにスズメガの蛹の例が貼ってあります。 http://blog.zaq.ne.jp/insect/photoalbum/?id=thumbnail.2228.8 ヤガ科でもこの特徴は同様です。ご参考まで。 (2011.02.11 03:16:33)
Aclerisさん
>コンニチワ。 ----- ようこそ!! >羽化したては、ぬいぐるみみたいですね。 ----- 野外で見る個体はスレばかりです。 >蛾の蛹の雌雄は、腹部腹面を見るとだいたい判ります。8,9,10節は癒合してますが、よく見ると継ぎ目が見えます。その際、9節が8節に引きつったように切り込んでいれば雌、そうでなければ雄です。 >私が見た感じでは最初の蛹は雄に見えます。 >拙ブログのアルバムにスズメガの蛹の例が貼ってあります。 > http://blog.zaq.ne.jp/insect/photoalbum/?id=thumbnail.2228.8 > ヤガ科でもこの特徴は同様です。ご参考まで。 ----- 早速拝見致しました。1番目の写真の原画を拡大すると、雄の「交尾器開口部」はかなり明確に、また、肛門らしきものも見えます。ただ、スズメガの場合と違って、拡大しても繋ぎ目の位置は分かり難いです。しかし、交尾器の開口部が雄では第9節、雌では第8節、肛門は第10節とのことですから(保育社の図鑑にも書いてありました)、各節を何とか識別出来る様です。 どうも有り難う御座いました。今後とも宜敷。 (2011.02.11 08:30:18) |