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テーマ:日々自然観察(9790)
カテゴリ:昆虫(アブ、カ、ハエ)
このアシナガバエは、2007年から毎年(日本不在の09年を除く)自宅やその近く(東京都世田谷区西部)で撮影されており、興味深いことに、撮影日は何れも5月17日から5月28日までの約10日間に限られていた。昨年は、写真は撮ったものの、「身柄の確保」に失敗したので、双翅目の掲示板「一寸のハエにも五分の大和魂・改」に御伺いを立てるのは控えた。
其処で、今年こそはと思い、5月の中旬から自宅や近くの緑地で、その出現を待っていたのである。今冬は寒さが厳しかったせいか、虫の出や草木の開花が、種類によってはかなり遅れた。今年の初見は5月31日、最終は6月8日で、2週間程ずれているものの、やはり出現時期は極く狭い範囲に限られていた。
ニセアシナガキンバエその1であるウデゲと「遠目にはソックリ」と書いたが、このウスグロエダナシアシナガバエ(以下、ウスグロと略す)は、その名前の通り翅がやや暗色で、光線の具合によっては殆ど透明に見える時もあるが、青やかなり黒い色に見えることが多い。
このウスグロの第1の特徴は翅脈である。本種の属すMesorhaga属では、写真でお分かりの通り、M1+2脈は分岐せずに緩やかに湾曲し(翅脈についてはこちらの5番目の写真を参照されたい)、他属のホソアシナガバエ亜科(Sciapodinae)の様に、M2脈を生じることはない。和名に含まれる「エダナシ」は、このことを意味する。 この様な翅脈相はホソアシナガバエ亜科の中では極めて特異的である。
九州大学の日本産昆虫目録を見ると、Mesorhaga属には、M. janataと、現在ではCondylostylus属に入れられているマダラホソアシナガバエ(マダラアシナガバエ)の2種が属すのみで、M. janataがどんな特徴を持つのかは、調べてみたが良く分からなかった。田悟(2010)にも何も書かれていない。また、田悟(2010)に載っているMesorhaga属は、本種1種のみである。
さて、次にこのウスグロの細かい特徴を見ることにする。写真は何れも5番目の赤味の強い個体で、日付は撮影日であり、採集日(2011/06/07)ではない。 単眼刺毛(oc)は1対、後単眼刺毛(poc)は、田悟(2010)では4対と書かれているが、写真(上)では3対の様に見える。しかし、角度によっては極く細い刺毛らしきものが1本見えていたりするし(上写真の小白矢印)、写真で刺毛の数を数えるのはかなり困難である。頭頂刺毛(vs)は1対で、これは前方を向き少し下に曲がる。 他に、頭頂付近には後眼刺毛列に続く多数の曲がった長刺毛があり、後頭頂刺毛はそれらからの区別が難しい。尚、このウスグロでは、前回のウデゲとは異なり、頭部刺毛に関する雌雄の差は基本的に認められない。 また、触角第2節(梗節)からは短い刺毛が多数生じている。
胸背の刺毛は、田悟(2010)に拠れば、中刺毛(ac)が(片側)2列で4~6対、背中刺毛(dc)が1列で5対以上、中刺毛はかなり不規則に並んでいる(上)。しかし、生態写真からは、中刺毛は、雄では細かいながらも認められるが(1、5番目の写真)、雌では不明瞭(2,3番目)、乃至は、疎ら(4番目)に見える。やはり、生態写真で刺毛を確認するのは相当に困難である。
胸部肩側の刺毛は、肩刺毛が無く(小毛は存在するとのこと)、肩後刺毛(ph)1、背側刺毛(np)2、横溝上刺毛(su)1、翅背刺毛(sa)2、翅後刺毛(pas)1、小楯板側刺毛(is)2となっており、これらは写真からも認められた。尚、刺毛の称呼については異説も色々有るらしいが、これらの名称は田悟(2010)に拠る。 尚、写真は省略するが、前脚付節先端の爪の間からほぼ垂直に伸びる1長毛があり、これはその中央付近で前方へ湾曲する。
最後に雄の尾端を示す。先端部の尾角(cercus)は先端が2つに分かれる独特の形をしている。また、その側面には強く長い1対の刺毛が認められる(黒小矢印)。 田悟(2010)を見ると、ホソアシナガバエ亜科には、他にも「ニセアシナガキンバエ」の候補が幾つかある。しかし、これ以上書くと楽天ブログの文字制限に引っ掛かってしまうので、これらについては、また別の機会に紹介することとする。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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