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テーマ:日々自然観察(9793)
カテゴリ:昆虫(アブ、カ、ハエ)
マガイヒラタアブ(Syrphus dubius)の幼虫は今年の2月18日に掲載した(撮影は昨年=2010年の11月23日と25日)。今日紹介する蛹と成虫は、その幼虫のその後の姿である。 最初の写真で上の方は、昨年の11月26日(幼虫写真4番目の次の日)に撮影したものである。蛹化直後はもっと白かったのだが、うかうかしている内に色が濃くなり、撮影した時には御覧の様に赤茶けた色になっていた。しかし、囲蛹の内側には幼虫と同じ様な模様が認められる。 下の方は、その3日後、幼虫時の模様は不明瞭である。
3日後の囲蛹を別の方向から撮ってみた。本当はもっと沢山あるのだが、3枚だけにした。一番下は後気門を拡大したものである。前気門は真ん中の写真の隠れて見えない下側にある。
次は羽化前日の写真。写真全体に少し黒っぽく見えるかも知れないが、これは蛹が色濃くなったからで、下の葉っぱの色はかえって少し明るくなる程度に調整してある(コナラの葉っぱが次第に枯れて黄色くなって来ているのに御注意)。 囲蛹の下側にヒラタアブの黄と黒の模様が透けて見える。
次の日の朝に羽化した。体が硬化したのを確認してから冷蔵庫で数時間冷やしてコナラの葉裏に置き、充分元気になる直前に撮影したものである。マガイヒラタアブやその仲間は成虫越冬なので、寒さに強い。1℃の冷蔵をに入れて置いても、室温に戻すと、忽ちの内に元気になり、飛んで行ってしまう。 こう云う寒さに強い虫の屋内撮影は、結構面倒なのである。
マガイヒラタアブはハナアブ科(Syrphidae)ヒラタアブ亜科(Syrphinae)ヒラタアブ族(Syrphini)ヒラタアブ属(Syrphus)に属す、最も正統的な?ヒラタアブである。同属にはケヒラタアブ、オオフタホシヒラタアブ、キイロナミホシヒラタアブの他、九州大学の目録には全部で10種が載っている。しかし、その10種の内、上記3種の他は総て?マークが付いており、どうも分類学的にハッキリしない点があるらしい。尚、マガイ(以下、「ヒラタアブ」を省略)は、最近キイロナミホシから独立したとのことで、九大目録には載っていない。 しかし、マガイの学名を正式に書くとSyrphus dubius Matumura, 1918 であり、このMatumuraは日本の昆虫学の開祖と云われる故松村松年氏(北海道帝國大学教授)であろうと思われ、それが最近まで認められなかったと云うのはどうも解せない。九大と北大との派閥争いか?。
一方、ハナアブの研究者として知られる市毛氏の「ハナアブ写真集」には、マガイと上記3種の他、最近記載されたツヤテンとマガタマモンを加えた6種が載っているだけである。 どうも、Syrphus属にはまだ不明な点が多い様である。しかし、和名の付いた上記6種に関しては、余り問題は無いらしい。
さて、マガイの属すSyrphus属と他のヒラタアブとの違いを示さなくてはならない。先ず、Syrphus属のヒラタアブは、模様のよく似たフタホシやナミホシ等のEupeodes属の種よりやや大型であり、飛び方も力強く速い。図鑑や写真を見ると、良く似ており区別が難しいが、実際に飛んでいる所を見ると、かなり雰囲気が違う。また、フタホシやナミホシには、顔に黒色中条があるが、Syrphus属には明確な黒色中条はないらしい。 更に、今日の写真では明確でないが、Syrphus属の胸弁下片には黄色の長毛が生えている。これは、此の属の大きな特徴である(Manual of Nearctic Dipteraに拠る)。
Syrphus属とすると、先ず、マガタマモンとツヤテンは、木野田君公著「札幌の昆虫」に北海道固有種とあるので、考慮する必要はないだろう。また、キイロナミホシも、北海道と東北以外には殆ど記録が無い様なので、除外して良いと思われる(拙Weblogを含めて、関東以西のキイロナミホシとする写真は、市毛氏に拠れば、マガイの見誤りらしい)。 残る3種の内、ケヒラタアブには複眼に毛が生えているので区別出来る。但し、雌の場合は相当に精度の高い写真でないと判別出来ない程度の細かい毛らしい。オオフタホシは名前の通りかなり大きい。現物が飛んでいる所を見ればマガイとの区別は明らかだが、写真ではそうは行かない。 前述の「札幌の昆虫」を見ると、雄の場合、後脛節は、オオフタホシではほぼ黄色で中程に暗色の輪があり、マガイでは先端過半が黒色である。また、雌の後腿節は、オオフタホシでは基部のみが黒色で他は黄色なのに対し、マガイでは先端部以外は黒色、となっている。雄では参照する部分が脛節、雌では腿節なので御注意! 写真のヒラタアブは雄で、後脛節は先端過半が黒っぽい。雌ではないが、腿節も先端部以外は黒色である。マガイとして良いであろう。
マガイヒラタアブの幼虫は3頭を飼育した。何れも囲蛹にはなったが、羽化したのは2頭のみであった。どうも、ヒラタアブ類の羽化成功率は余り高くない様である。 もう少し書きたいこともあるが、文字制限があるので、今日はこれでお終い。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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