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カテゴリ:青崎有吾
今一番熱い作家(主観)の短編集。 不可能(How)専門と不可解(Why)専門の二人の探偵が事件に挑む。 氏と言えば論理的な作風であるが、本作ではトリックメーカーとしての才能も見せ付けている。 ベストは単純明快で鮮やかな「ダイヤルWを廻せ!」を選びたい。 次点で「限りなく確実な毒殺」が来て、次に「髪の短くなった死体」「チープ・トリック」が並び、「ノッキンオン・ロックドドア」「十円玉が少な過ぎる」「いわゆる一つの雪密室」の順で続く。 「ノッキンオン・ロックドドア」 高名な画家が密室のアトリエで殺害された。 現場には被害者の描いた六枚の風景画が、額から外されて散らばっており、何故か一枚だけが赤く塗り潰されていた。 密室のトリックは面白く、亦最後に浮かび上がってくる動機は奇抜。 「髪の短くなった死体」 劇団員の女性が下着姿で絞殺されていた。 しかも、何故か髪を切られて。 犯人は何故髪を切ったのか。 抜群に面白いトリックが捨てトリックとして用いられる。 真相も面白い。 捩れている。 「ダイヤルWを廻せ!」 祖父の遺品の入った金庫が遺言書に記された方法では何故か開かないから、開けてほしい。 父が深夜煙草を買いに行く途中で転倒し頭を打って死んだが、実は殺人事件だと思うから調査してほしい。 二つの依頼が飛び込んで、それぞれ分担して調査しようとしたら、それはどちらも一つの家庭内での出来事だった。 二つの依頼が絡み合い、一つの真相を導き出す。 金庫の謎は実に単純で、その分切れ味鋭く印象的だ。 「チープ・トリック」 遮光カーテンを閉め壁際には絶対に近づかなかった被害者を如何にして狙撃したかという謎は魅力的だ。 そのトリックは成る程と膝を打つもの。 実に単純明快。 それを解き明かす為の、被害者が倒れた音という手掛かりも巧く出来ている。 しかもトリックが解っただけでは解決しないようになっているのがまた凝ったところだ。 「いわゆる一つの雪密室」 積雪の夜、岩手のある工場主が雪の中で包丁が胸に刺さった状態で死んでいた。 足跡は工場主が歩いた片道一本と、第一発見者の往復二本だけ。 雪密室である。 包丁には指紋は無く、その事実から殺人事件と目されて、探偵の二人が東京より呼び寄せられる。 明かされる真相はそれまでの様相から反転を見せ、一度は間違ってしまう推理も、凶器に指紋が無いという手掛かりから解決に至る。 雪密室を扱って指紋に最大の眼目を置くところは面白い。 但し本当にそれで指紋の問題が完全に解決されるのかは疑問である。 「十円玉が少な過ぎる」 ケメルマンの大傑作「九マイルは遠すぎる」に挑戦した意欲作。 暇潰しに「十円玉が少な過ぎる。あと五枚は必要だ。」という言葉だけを頼りに推理を働かせ、意外な事実を導き出す。 今の子供達には盲点となるかもしれないが、十円玉が何故必要だったのかという問題はかなり読めてしまう。 しかしながら丁寧な推理は好印象。 「限りなく確実な毒殺」 奇想天外目から鱗が落ちる毒殺トリック。 それは思い付かない。 絶対確実とは言えないトリックも、この設定なら納得出来る。 トリックだけを論じるなら本作品集中一番かもしれない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018.04.24 07:18:56
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