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カテゴリ:高木彬光
名探偵神津恭介の最後の事件。 平成六年の作品で、著者は翌年亡くなっている。 社会派ミステリの影響を受けて本格ミステリにも現実味を加えるようになった氏の晩年の作品は、舞台は大都会東京で視点人物を新聞記者にしながら、非常に魅力的な謎に包まれた事件が描かれている。 近くに建物も無い、上空に何も飛んでいないそんな場所に、突然人が堕ちくるのだ。 いったい犯人は如何にして何も無い空間に人間を出現させたのか。 トリックは同じようなものでもっと優れた作品が他にあるし、それ程意外なものでもなかったが、意外な真相よりも魅力的な謎こそが本格ミステリの眼目であると思っているのでまあ楽しめた。 老境に入った神津恭介は伊東で隠棲しており、登場の場面は多くない。 それは残念ではあるが、それが残念であるだけに、神津に会いたくてやきもきする視点人物である記者に共感し寄り添えたのは良かった。 そしてやっぱり神津は素敵なのだった。 殺すから殺人計画を思い付いたのではなく、殺人計画を思い付いたから殺すのだ。 人は悪くない、人は弱いのだ。 罪を憎んで人を憎まずである。 幾多の傑作を残した氏の代表シリーズの掉尾を飾る神津探偵譚。 読了。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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