|
カテゴリ:土屋隆夫
土屋隆夫推理小説集成の第八巻。 「穴の牙」「地図にない道」「深夜の法廷」の三作品が収められている。 「穴の牙」 主人公は穴、人生に忍び寄る陥穽である。 七つの短編で構成される連作集で、それぞれ真面目不真面目、善人悪人を問わず無情で虚しい結末を迎える。 北野武の「DOOLS」を想い出した。 七作共に抜群に面白く、印象深い作品である。 特に「第二話 穴の周辺ー堀口奈津の 場合」「第三話 穴の上下ー木曾伸子の場合」は良かった。 どうしようもない。 「地図にない道」 素晴らしい結末。 愛する夫の不可解な死の真相を探る為に奔走する妻。 夫には自分の知らない過去があった。 信州の山奥で明らかになる真相は残酷なものであった。 被害者は加害者で、加害者は被害者。 行為を一切描かずに、それでもこれ以上無い程にはっきりと行為を匂わせる著者の技量に驚嘆。 誰も彼もが虚しい。 とにかく素晴らしい結末に、喝采。 「深夜の法廷」 ー泣きぼくろの女ー 倒叙の傑作。 竹久夢二の女に似た主人公はか弱い容姿を持った、それでいて己を傷付けた者には徹底的に報復をする女だった。 女は賢い方法で三人に報復をする。 女の情念がひしひしと伝わってくる。 この作品で最も優れた部分は、この女が優しい性格である事だ。 母との仲は美しい。 そんな女が迷う事なく真っ直ぐに犯罪に走るのが良いのだ。 しかし犯罪は一つ犯せばそれで終わりはしない。 物語は本書の「穴の牙」にも通ずる展開をみせる。 待ち構える穴に向かって足を向ける事になるのだ。 ー半分になった男ー 精神分裂症の男が、躰の半分を墨汁で塗った縊死体となって発見された。 どう見ても自殺である。 事件の記憶も薄れた四年後、警察と新聞社宛てにある投書が送られてくる。 自殺か他殺か、真相を暴く手掛かりは実に練られたもので、言われて見れば何故疑問に思わなかったのか不思議で仕方ないようなものだ。 推理小説としては本書中で最も優れている。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018.06.25 05:13:29
コメント(0) | コメントを書く
[土屋隆夫] カテゴリの最新記事
|