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カテゴリ:国内ミステリ
戦後、文学史にその名を刻む福永武彦氏が、筆名を変えて書いた数少ないミステリの作品集。 ミステリ用の筆名である加田伶太郎は「誰だろうか」のアナグラム(Kada Reitaro→Taredaroka)で、 本書で探偵役を務める伊丹英典は名探偵のアナグラム(Itami Eiten→Meitantei)である。 「完全犯罪」 過去の未解決事件を巡って伊丹英典を始め四人の男が推理する。 不可能状況に於ける殺人事件。 途中、殺人計画を記した紙が発見されるが、それを書いたのが被害者だというのが面白い。 一見不可能に思える事件を毒チョコよろしく多重推理。 純粋な推理小説だ。 「幽霊事件」 頭をかち割られて死んだ筈の男が歩いているという、幽霊の謎は魅力的だ。 しかし少々無理のあるトリックだった。 それは気付くだろう。 「温室事件」 密室となった温室の謎。 またまた無理のあるトリックに辟易。 そんな事本当に出来るのか。 出来たとして確実性が無い。 計画犯罪としてはあまりにお粗末。 「失踪事件」 ある失踪した大学生の足取りを追う物語。 一見手掛かりが何も無いように思われる状況を、名探偵が分析力、想像力、論理力によって解決に導く。 有って無いような手掛かりから論理的な推理を導く内容は、ケメルマンの「九マイルは遠すぎる」のようだ。 終盤に失踪した大学生の視点で描かれる事件の模様は実にサスペンスフルで、物語をただの探偵の論理的推理物語に留まらせず、抜群に豊穣なものにしている。 現代では通用しない真相ではあるが、非常に面白かった。 「電話事件」 なかなか要求をしてこない脅迫電話の事件。 意外な犯人が効いている。 手掛かりを考えれば見当は付くが、良い設定だ。 「眠りの誘惑」 カーの「殺人者と恐喝者」を思い出した。 催眠術を扱った作品。 自分の娘を催眠術の実験体にする酷い父親が殺される。 真相は物語としては面白いが、ミステリとしてはどうだろう。 根拠が弱くてどうも釈然としない。 「湖畔事件」 湖畔のホテルで事件が起こった。 東屋と客室の一室に血痕。 そしてその客室の客の消失。 加害者と被害者を捜すが、真相は意外なものだった。 これは遊び心に溢れた作品で、名探偵ごっこをする子供が登場して、実際事件について推理を繰り広げる場面もある。 真相も探偵小説をからかったようなものだ。 「赤い靴」 交通事故で入院したスター女優。 夜聞こえる童謡「赤い靴」の口笛と靴音。 そして現れる幼い日に死に別れた筈の姉の幽霊。 やがて女優は病室の窓から墜落死する。 自殺に思われたがそれにしては不自然な点が有り、名探偵の登場と相成る。 機械トリックは幼稚だが、都筑道夫の提唱する論理のアクロバティックによるモダン・ディテクティブ・ストーリーの嚆矢というところは興味深い。 ホワイダニットは何も殺人の動機だけの事ではない。 本書の場合は何故幽霊が歳を取るかというホワイダニット。 大した謎ではないものの、ここから始まったと考えると感慨深い。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018.08.19 11:20:22
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