夢野久作「犬神博士」
異端の作家夢野久作の長編。
都会の片隅に住まう通称「犬神博士」、又は「気狂い博士」。
その老人の幼少期が語られる。
物心付く前に非人夫婦に攫われて育ったチイは、毎日両親の演奏に沿って卑猥に踊り日銭を稼いでいた。
そんな或る日、九州は博多の街でチイの運命は一変する。
出会う人出会う人がチイを我が物にせんと求め様々な事件が起こる。
チイは度々常人離れした天才的言動を以て物語を勢い付けていく。
チイは本質を突く。
その一言一言に大人達は戦慄し、感動する。
そうして物語はチイにも制御出来ない程に乱れていく。
しかし全てはチイの存在によって起こる。
チイ即ち犬神博士は、現在では蔑ろにされる大切なものである。
言い換えれば神である。
大変に面白かった。
目まぐるしい展開、豊富なサスペンス、痛烈な社会批判、娯楽としても一流で純文学としても一流の稀有な作品。
久作は何を想ってこの作品を書いたのか。
著作を読む度に想うのだが、氏は本当に暖かい人間だ。