052689 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

七代目ちぃのブログ

PR

X

全22件 (22件中 1-10件目)

1 2 3 >

海外ミステリ

2021.03.07
XML
カテゴリ:海外ミステリ






ミステリとSFで見事な才能を発揮した短編マエストロのミステリ作品集。
如何にもアメリカ的で良質な娯楽小説だ。
外れ無しで全作面白いが、「世界が終わった夜」「背後から声が」「キャスリーン、おまえの喉をもう一度」「後ろを見るな」は仕掛けに惚れ惚れする。
「むきにくい小さな林檎」「真っ白な嘘」「危ないやつら」は物語が抜群に良い。
中でもベストは「叫べ、沈黙よ」だ。



「笑う肉屋」
雪上の足跡の問題を扱った作品。
とんでもない動機による事件だが、巧く伏線が効いている。

「四人の盲人」
三発放たれた空砲の最後の一発で死亡した男。
自殺か他殺か。
意外な犯人。

「世界が終わった夜」
サスペンス。
ある人からすると喜劇でも、ある人からすると悲劇となる。

「メリーゴーラウンド」
偶然のハッピーエンドが印象的なミステリ。

「叫べ、沈黙よ」
シュレーディンガーの猫にも似た哲学的命題から書かれる掌編。
陰惨な傑作。

「アリスティードの鼻」
陽気なスパイコメディ。

「背後から声が」
無情で、救いの無い物語。

「闇の女」
常に部屋の灯りを点けない女の話。

「キャスリーン、おまえの喉をもう一度」
悲劇による記憶喪失で精神病院に隔離された男の話。

「町を求む」
本書中最も短い作品。
マフィア映画の冒頭か結末のようなもの。

「歴史上最も偉大な詩」
或る詩人の壮絶な半生が語られる。
最後の仕掛けは読めてしまうものの、読ませる。

「むきにくい小さな林檎」
ギャングもの。
徹頭徹尾、凄惨だ。

「出口はこちら」
単なる自殺の処理を行う刑事の話。
最後から五行目で物語がひっくり返る。

「真っ白な嘘」
過去に猟奇殺人があった家に越してきた夫婦。
疑心暗鬼を生じる状況がサスペンスフルに描かれる。

「危ないやつら」
緊張感溢れるユーモアスリラー。

「カイン」
死刑囚の身勝手な苦悩が描かれる。
そして最後に一捻り。

「ライリーの死」
やる気も無く能力も無い警官が採った英雄的行動。
だがその裏には・・・。

「後ろを見るな」
短編集という形式を巧みに利用した見事な仕掛けが施されている。






最終更新日  2021.03.07 05:59:37
コメント(0) | コメントを書く


2020.12.17
カテゴリ:海外ミステリ







一九二二年に上梓された古典作品。
本作はかの大乱歩に激賞され、著者はかの女王クリスティに助言を与えた幼き日の隣人として有名である。
漸く読む事が叶った。

恋愛を軸としながら舞台を目まぐるしく変え、犯人も被害者も姿を現さない連続殺人が描かれる。
トリックは古典的で犯人は読めてしまうものの、恋愛模様が効果的に本格ミステリを形作り、後半に於いて事件の様相を転回させる見事な手腕に舌を巻いた。
最後の犯人の手記による問い掛けは、愚かではあるものの一概に愚かとだけで終わらす事の出来ないものがある。






最終更新日  2020.12.17 07:12:20
コメント(0) | コメントを書く
2020.09.20
カテゴリ:海外ミステリ







怪盗もので抜群の知名度を誇るシリーズの第一弾。
ホワイダニットに主眼を置いた作品が並ぶ。
ベストは「プールの水を盗め」。



「斑の虎を盗め」
動物園から、わざわざ太陽の昇っている時間に虎を盗む謎が魅力的だ。
ドイルはこれを探偵の側から書いたが、氏は怪盗の側から書いた。

「プールの水を盗め」
ある邸宅のプールから水を一万九千ガロン盗む。
とても魅力的な謎に対して、とても魅力的な解決があった。

「おもちゃのネズミを盗め」
安価な玩具を盗むのに二万ドルの報酬。
犯人はあまり賢くないが、最後のニックが格好良い。

「真鍮の文字を盗め」
ビルの壁に書かれた社名から三つの文字を盗めという依頼。
盗った文字にしろ残った文字にしろ意味有り気な言葉になっているのがミソである。

「邪悪な劇場切符を盗め」
既に上演し終えた芝居の切符を盗めという依頼。
その芝居は確かに上演し終えているのに、切符はまだ売られている。
魅力的な謎だ。

「聖なる音楽を盗め」
教会の壁に取り付けられた巨大なパイプオルガンを盗めとの依頼。
ニック曰く、不可能だが出来ないとは言わない。

「弱小野球チームを盗め」
大リーグのチームを一つ盗めという依頼は魅力満点だ。
方法は些か拍子抜けで西村京太郎のそれには劣るが、ホワイダニットが派手で楽しめた。

「シルヴァー湖の怪獣を盗め」
UMAを盗めと依頼を受けたニック。
目撃情報は多数有るが、一体本当にそいつはUMAなのか。
今度はホワットダニットだ。

「笑うライオン像を盗め」
ミステリ性というよりも物語を楽しむ話。

「囚人のカレンダーを盗め」
ホワイダニットよりもハウダニットに主眼を置いたアクション作品。

「青い回転木馬を盗め」
同上。

「恐竜の尻尾を盗め」
価値の無い恐竜の尾骨に、如何なる価値があるのか。

「陪審団を盗め」
怪盗が探偵小説をやった。

「革張りの柩を盗め」
捻りを効かせた展開が良し。

「七羽の大鴉を盗め」
ニックを雇う必然性に疑問有り。






最終更新日  2020.09.20 03:09:43
コメント(0) | コメントを書く
2019.07.20
カテゴリ:海外ミステリ






一九二一年、本格ミステリ黄金期が胎動の時代に書かれた作品。
くまのプーさんで有名なミルンが唯一書いた長編ミステリ。
江戸川乱歩が選ぶ探偵小説黄金期の十傑に選ばれている。
探偵役のアントニー・ギリンガムは、金田一耕助のモデルとなった。
素人探偵、ユーモアを含む読み易い文体、秘密の抜け穴等の古典的なガジェット、浪漫の詰まった作品である。

メイントリックは当時としては派手なもの。
現代では使い古されているし、それを成立させる為に付随するトリックもその程度ではばれるだろというようなものではあるが、時代性を考慮すると充分楽しく読める。
何より著者が、解り易いただの本格ミステリを書こうとしているのが好印象だ。






最終更新日  2019.07.20 07:53:29
コメント(0) | コメントを書く
2018.12.16
カテゴリ:海外ミステリ
rblog-20181216060655-00.jpg





少し前、北アイルランドは壮絶だった。
アイルランドとの統一を巡りカトリックとプロテスタントがIRA、UDR、UDA等の組に別れ、死の為の死闘を繰り広げる。
警察官は車に乗る前には必ず爆弾が仕掛けられていないか調べ、ニュースはフォークランド紛争で持ちきり。
そんな時代背景。

主人公はカトリック教徒でありながら警察官。
恋人とも別れ、アルコール中毒になるのが先かIRAに殺されるのが先かという中で、音楽と小説に心を慰めさせながら生きている。
北アイルランドでは殺人事件は殆どがIRAによるもので、住民はくそったれな警察になど協力しないし、報復を恐れている。
事件は簡単にお蔵入りになる。
そんな中で主人公は藻掻くのだ。
上層部に疎まれ、部下にも諫められ、果てはFBIにまで狙われても捜査を止めない。
心優しく気高い男に惚れる。

事件は首と下半身が切断された男の胴体がコンテナから発見され発覚する。
調べてみると死因は毒で、それもかなり珍しいトウアズキの毒だという。
誰もが銃を持ち、密告の心配もない北アイルランドで、一体何故毒殺などしたのか。
しかも遺体は一定の期間冷凍されていた事も判明する。
そしてさらに悩ましいのが、被害者がアメリカ人らしい という事。
こんな情勢の中旅行者等いる筈もない。
謎だらけだ。
そこへ掛かってくる謎の女からの電話。
寂れたB&B、貴族、FBI等まで絡み、事件はいよいよ混迷していく。

ミステリは本格一本槍だが、これは面白かった。
まず、北アイルランドの描写。
IRAの存在くらいは知っていたが、それは全く知らない国だった。
まさかこんな事になっていたとは。
日本人は平和ボケと言われても仕方ない。
しかしそんな中で人と人との暖かい関係も描かれており、その中心にはいつも主人公がいる。
かなり印象に残る優しい男である。
ミステリとしてよりも、この男の物語をもっと読みたいと思う。






最終更新日  2018.12.16 06:06:57
コメント(0) | コメントを書く
2018.12.09
カテゴリ:海外ミステリ
rblog-20181209064722-00.jpg






第二弾も面白かった。
異様で陰鬱な「奇妙な跡」は忘れられそうにない。
これだけ昔の時代にこれだけの論理性を扱った「オスカー・ブロズキー事件」は素晴らしい。
謎の魅力では「ギルバート・マレル卿の絵」が抜けている。
「ズームドルフ事件」は時代背景の興味深さ、探偵役の魅力、真相の意外性で印象に残る。
中でも、本格ミステリの避けては通れない問題に焦点を当てた「放心家組合」をベストとしたい。



 「放心家組合」 ロバート・バー
奇妙な味の名編。
スコットランドヤードに力を貸す素人探偵という本格ミステリとして定型な設定であるが、オチでそんなパターンをぶち壊す。
ポーから生まれた素人探偵という魅力的な発想を、実に危ういものへと変質させているのだ。
この作品をクイーンが評価したというのはよく解る気がする。

 「奇妙な跡」 バルドゥイン・グロラー
ある貴族の使用人が森の中で扼殺された。
少額の金を盗む為にだ。
土地の者としか思えない手掛かりと土地の者らしくない手掛かりがあり悩まさせられる。
現場には被害者の足跡以外に何者かの手跡があり、軽業師が犯人かとも思われたがそんな者は何処にもいない。
犯人は解り易いが、こんな真相良いのだろうか。
あまりに悲しい。
オーストリア=ハンガリー帝国の作家による作品は初めて読んだ。
陰鬱だ。

 「奇妙な足音」 G・K・チェスタトン
既読。
ブラウン神父譚と言えば必ず挙がる作品である。
個人的には「折れた剣」を推すが、この作品も凄い。
部屋の中で、扉の向こうの廊下から聞こえる足音だけを頼りに犯罪を嗅ぎ付け未然に防ぐという離れ業が描かれる。

 「赤い絹の肩かけ」モーリス・ルブラン
リュパンとガニマールがイチャついているようにしか思えない。
この作品でリュパンは探偵として登場し、そして怪盗として去って行く。
ホームズはりの推理の冴えを見せガニマールに犯罪を示唆し、犯罪解決とリュパン逮捕の両得を企んだガニマールを最後には見事な心理戦で煙に巻いてしまう。
愉快な怪盗紳士ぶりが遺憾なく発揮されている。

 「オスカー・ブロズキー事件」オースチン・フリーマン
倒叙ものの最初期の例にして科学捜査を取り入れたミステリの最初期の例でもある、フリーマンの高名な短編集「歌う白骨」より。
ホームズのライバルとして有名なソーンダイク博士の活躍譚だ。
七十頁程の短編であるが、序盤でしっかりと犯行場面を描いている為、以降犯人がほぼ登場せずとも犯人に対して深い余韻を残す読後感となっている。
時代性に強く依存する作風ではあるが、退屈する事は無かった。
眼鏡の破片に関する考察ははっとさせられた。

 「ギルバート・マレル卿の絵」V・L・ホワイトチャーチ
探偵が謎を解かなかった事への不満はある。
トリックが肩透かしな事への不満もある。
しかし乍ら「走行する列車から、真ん中の車両だけが消失する」というとんでもない謎は興奮を催す。
列車消失というと赤川次郎氏の初期短編や、島田荘司氏の吉敷竹史ものが思い浮かぶが、一九一二年発表のこの作品は、謎の魅力で言えば抜きん出ている。

 「ブルックベンド荘の悲劇」アーネスト・ブラマ
盲人の探偵の活躍譚。
完全犯罪を阻む活躍が描かれるが、その結末は皮肉なものだ。
トリックはそう凄いものではないものの、読後感が良い。
恋する女とは愚かなものだ。

 「ズームドルフ事件」M・D・ポースト
有名なアブナー伯父ものであるが、初めて読んだ。
愛読書は聖書で、開拓時代に保安官と共に事件に当たる。
本作ではある荒くれ者が密室で銃殺されているという事件を扱う。
扉には閂が掛けられ、窓下は断崖で且つ埃と蜘蛛の巣から侵入の形跡は無い。
さらに凶器である猟銃がきちんと立て掛けられてある事から、自殺の可能性も否定される。
自分が殺したと言う人物が二人も現れるが、一人は祈祷で、一人は呪いで殺したと言って、一向に埒があかない。
果たして真相は発表年を考えればかなり特殊なもので、犯人はさしずめ神であった。

 「急行列車内の謎」F・W・クロフツ
処女作にして名作の誉れ高い「樽」の翌年に書かれた、クロフツの最初の短編。
走行中の列車内で起こる密室殺人が描かれる。
トリックこそ大したものではないが、溢れるサスペンスと魅力的な謎で楽しい一編となっている。






最終更新日  2018.12.09 06:47:23
コメント(0) | コメントを書く
2018.11.25
カテゴリ:海外ミステリ
rblog-20181125070045-00.jpg





英国劇壇の雄シェーファー兄弟(双子)による本格密室ミステリ。
弱冠二十五歳で書かれた事が解る遊び心溢れる作品だ。
双子の兄アンソニー・シェーファーは、映画脚本の世界でも活躍し、クリスティ原作「ナイル殺人事件」やヒッチコックの「フレンジー」を担当している。

さて、事件はホテルで起こる。
探偵役であるヴェリティ氏が、ある客室へ窓から侵入しようとする男を発見する。
フロントで女支配人にそれを告げていると、その侵入者である男が慌てふためきやってきて、その客室に死体が転がっていると言う。
駆け付けてみるも男が出てきた筈の扉には何故か鍵がかかっている。
ヴェリティ氏が銃で鍵を壊し突入すると、そこには血塗れの男がいた。
しかも事件はそれだけではなく、室内の衣裳戸棚に客室係の女が手足を縛られて閉じ込められていたのだ。
その上侵入者の男が入ってきた窓は、何者かにより内側から施錠されている。
さらにあれやこれやが起こり、事件は混迷の一途を辿っていく。

被害者は殺されて当然の悪党で、殺しの動機を持つ者は実に五人にも上る。
終盤、ヴェリティ氏の詐術によって犯人の自白に漕ぎ着けるが、それでも密室の謎は解けない。
被害者を撃った事は認めても、施錠に関しては認めないのだ。
この時点で、犯人を挙げるのがはったりによるもので、論理性に物足りなさを感じていたが、最後に密室の謎と共にとんでもない結末が描かれる。
恐るべきフーダニット。
密室の構成法や殺人法に関しては珍しいものではないものの、その犯人設定が素晴らしい。
同じような発想のミステリは他にもあるが、驚くべきは本書が書かれたのが一九五一年という事だ。
この時代にこの発想はかなり尖っている。
少しバークリー的なものを感じる。

戦後最高の密室ミステリの触れ込みに負けない内容に、脱帽。






最終更新日  2018.11.25 07:00:45
コメント(0) | コメントを書く
2018.10.15
カテゴリ:海外ミステリ
rblog-20181015074144-00.jpg





乱歩が編んだ傑作集を新訳で年代順に再編集したもの。
まさに「傑作」の名に相応しい作品群である。
特に始めの三作は素晴らしい。
中でもコリンズの「人を呪わば」をベストとしたい。



 エドガー・アラン・ポー「盗まれた手紙」
探偵小説の始祖による一編。
世界初の名探偵C・オーギュスト・デュパンの活躍譚の一つで、中でも最も評価の高い作品である。
或る手紙が盗まれた。
被害者は犯人が解っているし、犯人も亦被害者に知られている事を知っている。
取り返すよう極秘裡に依頼された警視総監は犯人の家を徹底的に捜索するも、件の手紙は一向に見つからない。
デュパンが導き出した手紙の在処は今では当たり前になっている盲点で、このパターンを創り出したのは本当に凄い。

 ウィルキー・コリンズ「人を呪わば」
世界で最初で最大にして最良の推理小説で有名な著者の名短編。
幻想、怪奇、恐怖、不可解等の特色を持っていたミステリに「滑稽味」を加味した最初の作品。
アントニー・バークリーがまだ生まれてもいない頃にこれをやっている。
抜群の一人称と書簡体の使い方だ。
今日の叙述トリックの隆盛の礎とも言えてしまえるのではないか。

 アントン・チェーホフ「安全マッチ」
これまた凄い。
コリンズのものと近いバークリー的作品だ。
徹頭徹尾「所詮は古い時代の作品、論理性に乏しい」と思って読んでいたが、最後でひっくり返された。
かなり無理があり現実味に乏しいトリックであるが、この時代にこのパロディ精神は驚愕の一言。

 アーサー・コナン・ドイル「赤毛組合」
ポーが産んだミステリを世界の潮流にした男。
ミステリはドイルによって市民権を得、そこから短編ミステリの黄金期が始まった。
本作はSirの最高傑作である。
訳の解らない出来事が起こり、それがとても繋がりそうもない意外な事件へと繋がるという型のミステリがあるが、それを俗に「赤毛組合のパターン」等と呼ぶ。
この魅力的な形式を創り出した功績は計り知れない。

 アーサー・モリスン「レントン館盗難事件」
意外な犯人もの。
探偵小説はその始まりであるポーの「モルグ街」からして、反則級の意外な犯人ものであったが、これもまた凄い犯人を創出したものだ。
犯人設定だけなら笑ってしまうようなものだが、三つの事件現場全てに何故かマッチの燃えさしが残っているという魅力的な謎によって、論理性が加味され物語をより奥行きのあるものにしている。
ストランド・マガジンに於いて、ホームズの死んでいる間を埋めたのは伊達ではない。

 アンナ・キャサリン・グリーン「医師とその妻と時計」
今では誤りとされているが、一昔前まではこの人が世界初の女流探偵作家であるとされてきた。
亦、世界初の女性の探偵役を描いた人でもある。
処女作「リーヴェンワース事件」がベストセラーとなり、探偵小説の母として一躍時の人となった氏であるが、今では歴史的価値だけが語られ、その著書は殆ど顧みられる事がない。
そんな彼女の短編小説であるが、隣家の銃殺事件の犯人であると自供する盲目医師の話である。
自分が音を頼りに撃ったと自供するが、動機は無く気の迷いとしか思えないと言う。
医師が犯人である証拠は何も無く、警察は気が狂ったのではないかと推察する。
謎は非常に面白いが、解決は本格ミステリとしては尻窄みだった。
人物をよく描いた作品ではあるが、人物を描く事に偏り過ぎてミステリを疎かにしている気がしないでもない。
とは言え謎の設定は巧いので、機会が有れば氏の他の著作も読んでみたいものである。

 バロネス・オルツィ「ダブリン事件」
本書で初めての二十世紀になってからの作品で、オルツィ女史の創造した有名な安楽椅子探偵「隅の老人」の活躍譚である。
厳密に言うと安楽椅子探偵とは言い難い部分もあるのだが、世界に安楽椅子探偵という概念を広めたのは間違いなく彼女だ。
本作ではダブリンで起こった殺人事件と遺言状偽装事件が描かれている。
これまでの構図がひっくり返る最後は見事な出来。

 ジャック・フットレル「十三号独房の問題」
アメリカが産んだ探偵作家と言えばポー、ヴァン・ダイン、カー、クイーン等が有名だが、この人も忘れてはならない。
氏が創出した名探偵こそがかの有名な思考機械で、本作はその活躍譚の第一作目。
死刑囚の収容される独房から、果たして脱獄は可能かという実験に、思考機械が一週間の期限で挑む。
持ち込むのは靴、靴下、ズボン、シャツ、歯磨き粉、五ドル紙幣一枚、十ドル紙幣二枚。
そして、靴は毎日磨いて欲しいという。
思考機械の狙いは全くもって訳の解らないもので、これでどうやって脱獄出来るのかとわくわくさせられる。
いざ収監されると、ペンもインクも無い筈の独房から手紙が出されたり、一枚しかない筈の五ドル紙幣が何枚にも増えたりと、魅力的な謎が幾つも現れる。
そうして一週間の期限の最終日、思考機械は悠々と脱獄してしまった。
刑務所長や友人達を招いた晩餐会で語られる真相はトリックがふんだんに使われためくるめく脱出劇で、現実にそんな事が出来るか甚だ疑問ではあるものの、思考機械の名に恥じない巧妙なものであった。
因みに著者は三十七歳の若さでこの世を去っている。
あの「タイタニック号」に乗り合わせ、海に沈んだとの事である。
妻は救命ボートに乗せられたらしいが、自身は間に合わなかったという。
そこからも脱出出来ていれば、まだまだミステリの歴史に燦然と輝く傑作を残していた筈だ。






最終更新日  2018.10.15 07:41:45
コメント(0) | コメントを書く
2018.10.06
カテゴリ:海外ミステリ
rblog-20181006062225-00.jpg





シャーロック・ホームズと人気を二分した、高名な怪盗の初登場作品。
優しく且つ大胆不敵で、時に失敗もし、恋多き男。
なんと可愛らしいのだろう。
好きにならずにいられない見事な人物を作り上げている。
各話単体でも楽しめるが、繋がりもあり一冊として評価すべきだろうか。
敢えてベストを挙げるなら「女王の首飾り」。



「アルセーヌ・リュパンの逮捕」
鮮烈なデビュー作。
古い作品故に粗もあるし、トリックも見え透いてはいるが、何とも爽やかな一作である。
誰がリュパンの変装かという謎、ヒロインの粋な行動、逮捕された筈のリュパンのその後の活躍を匂わす最後、申し分ない。

「獄中のアルセーヌ・リュパン」
拘留中の筈のリュパンから盗みの予告が入った。
予告先の邸宅に住む男爵は、早速リュパン逮捕で名を上げたガニマール警部に助力を頼むが、それでも尚お宝は盗まれてしまう。
脱出不可能な牢獄から侵入不可能な邸宅に、如何にしてリュパンは盗みに入ったか。
これもトリックは解り易いものの、男の子なら誰でも心ときめくだろう。

「アルセーヌ・リュパンの脱走」
予告脱走。
周到に用意された計画に警察は踊らされる。
特殊な技能が必要になるが、これも心理トリックと言えよう。
ただ愉しみの為の予告ではなく、全てに意図があるのが格好良い。

「奇怪な旅行者」
リュパンの扱い方が巧い。
ここまで快刀乱麻を断つ活躍を描いてきた本書であるが、ここで初めてリュパンの失敗を描いた。
焦りが新鮮である。

「女王の首飾り」
リュパン、最初の事件。
リュパンの実像を知る事の出来る一作。
物理トリックを仕掛けた犯人が、捜査側の心理的要因によって発覚を免れているというのが面白い。

「ハートの7」
リュパン活躍譚の筆者が、リュパンの伝記作家となったきっかけとなる事件。
これは謎は魅力的であるが、あまり楽しめなかった。

「彷徨する死霊」
密かに命を狙われる美女を救う為、リュパンが奔走する。
終盤で協力してくれた医師に、女のこれからをさらりと託すリュパンが格好良い。

「遅かりしシャーロック・ホームズ」
遅かりし由良之助というような題名であるが、全く遅くない。
最大の好敵手同士の邂逅が描かれている。
人間味の薄いスーパーマン「ホームズ」と、時に恋し焦がれもするスーパーマン「リュパン」。
恋に右往左往するリュパンは、ホームズとの対決の際も冷や汗をかかされるが、最後にはお洒落に仕返しをしてみせている。
ホームズがそれに気付いた時、彼は初めて人間味を見せる。
世界一有名な名探偵と大怪盗の対決が、ここに始まる。






最終更新日  2018.10.06 06:22:23
コメント(0) | コメントを書く
2018.07.30
カテゴリ:海外ミステリ
rblog-20180730085925-00.jpg





コーネル・ウールリッチによる変名での代表作にして、サスペンス小説の傑作古典。
ミステリの海外オールタイムベストを編んだら必ず五指には入るといった作品である。
これを激賞し日本に紹介したのは江戸川乱歩である。

男が妻と喧嘩をして夜の町に飛び出して、誰でも良いからという理由で女に声をかける。
二人はバーで酒を飲み、レストランで食事をし、タクシーを乗り合わせ、劇場でレヴューを観て、物乞いに施しをした。
その間名前や住所等個人を表す情報は一切口にしないという、一夜限りのお遊びだった。
そして女と別れて帰宅すると、妻はなんと絞殺体となって息を失っており、警察が男の帰宅を待っていたのだ。
男は疑われる。
アリバイ証明の為、男はその夜出会った名前も知らない女について語る。
警察がその夜男の行った場所を徹底的に洗うが、バーテンダーを始め全員が口を揃えて男は見たが女は見ないという。
男は一人で、連れは絶対にいなかったと。
男のアリバイは証明されず、裁判で死刑が宣告される。
男の無実を証明出来るのは、幻の女唯一人。

一緒に夜の街を過ごした女を、誰もがいなかったと言う謎。
これはヒッチコックの監督作品「バルカン超特急」でも使われた抜群に魅力的な謎だ。
ミステリ史上でも有数の謎ではないか。

ウールリッチが「バルカン超特急」に影響を受けたのかは定かでないが、ヒッチコックはやはり氏を評価していたのだろう、その後に氏の著書「裏窓」を映画化している。
因みに映画「バルカン超特急」の原作者であるエセル・リナ・ホワイトは他に「らせん階段」という作品も書いているが、これはロバート・シオドマクによって映画化されており、そのロバート・シオドマクは映画版「幻の女」の監督でもある。

本書をサスペンスフルにしている最大の要素は、やはり死刑執行までに見付けないといけないということで時間制限を設けた事だろう。
執行の日は決まっており、さらに章題が「死刑執行日の〇日前」となっている事で、サスペンスはこれ以上無いものになっている。
後に他の作家によってこの手の作品がどれだけ書かれたかを考えれば、その価値は計り知れない。
差し迫る執行日、手掛かりが見付かりかければその都度水泡に帰す展開、幻の女は現れず殺人者も現れない。
そして最後の最後に描かれるどんでん返し。
サスペンスとは斯く在る可。

稲葉明雄氏の訳文も有名で、最初の一文は特に後世に影響を与えた名分として知られる。
直訳にして美しい。

原文:The night was young , and so was he . But the night was sweet , and he was sour .
訳文:夜は若く、彼も若かったが、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった。






最終更新日  2018.07.30 08:59:26
コメント(0) | コメントを書く

全22件 (22件中 1-10件目)

1 2 3 >


© Rakuten Group, Inc.