早坂吝「探偵AIのリアル・ディープラーニング」
人工知能を探偵役に据えた作品集。
AIに対する考察とミステリが見事に絡み合っている。
「フレーム問題 AIさんは考えすぎる」
事故死と判断された父の死は、他殺ではないか。
息子の輔は父が創り上げたAI相以に古今東西の推理小説を読み込ませ、真相を探る。
相以が導き出した真相は凄まじいトリックが使われており、輔が嫌悪感を催すのもよく解る。
犯人特定の論理もよく出来ており、本書の入口として申し分の無い作品だ。
「シンボルグラウンディング問題 AIさんはシマウマを理解出来ない」
環境保護団体のリーダーと、本部内で放し飼いにされていたゾンキーが殺された。
ゾンキー、シマウマzebra+ロバdonkey=zonkeyである。
殺害方法は、崖の上からゾンキーを落として崖の下にいるリーダーに命中させるというもの。
犯人は何故ゾンキーなどを凶器にしたのか。
AIならではの物語。
「不気味の谷 AIさんは人間に限りなく近付く瞬間、不気味になる」
校庭に出現したミステリーサークル、虹色に塗られた窓、首を斬られて花を活けられた銅像、背中に円周率を書いた紙を貼られて陸橋から突き落とされた生活指導の先生。
学校で頻繁する謎めいた事件にAI探偵が挑む。
相以が披露する推理は奇想そのもので、「不気味の谷」の問題にぶち当たる。
しかしながらその奇想っぷりは面白かった。
「不気味の谷2 AIさん、谷を越える」
十六年前の母の自殺の真相を探る為、武君野村(ぶきみのむら)へとやって来た輔と相以。
自殺にしてはおかしな状況、他殺にしては不可能な状況。
不気味の谷を越えた相以の推理は、十六年の間に堆積した様々な想いを暴き、清め、解していく。
「中国語の部屋 AIさんは本当に人の心を理解しているのか」
テロリストのアジトにて囚われた輔と相以。
助かる為にゲームに参加する。
中国語の部屋に於いて、実に考え込まれたトリックが仕掛けられている。
激闘の末にテロリスト集団を滅ぼす事に成功するが、それで問題の全てが解決とはいかない。
誰が嘘を付いているのか、さらに黒幕がいるのか、様々な謎を残したまま、輔と相以の探偵事務所は営業を続ける。